無責任賛歌
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藤原敬之(ふじわら・けいし)

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2001年07月27日(金) 『クレしん・オトナ帝国同人誌』完成!掲示板も見てね/『怪』11号ほか

 あなたは信じますか?
 神秘の世界を。

 人知では推し量れぬ、怪奇の世界がこの世に存在することを。

 あるのです。
 私たちが気がついていないだけで、私たちの、ほんのすぐそばに。

 今、あなたの前に開くのは。
 時間を越えた、黄昏の世界への陥穽。

 ご案内しましょう。
 二度と戻れぬ、未知の世界へ。
 魂の旅へ。


 きっかけは、些細なことでした。
 ほんの少し、違和感を感じただけだったのです。
 
 なぜだろう。
 何かが違う。
 いつもと同じ、いつもと変わらぬはずの日常。
 なのに、少しずつ、確かに変化は起こっている。
 点滴が岩を穿つように、少しずつ、何かが欠落している。

 そうです。
 欠落は、事実でした。

 私が朝、何気なく覗いた台所。
 空気がいつもより重い。
 錯覚だろうか?

 「近寄っちゃいけない」

 心の中で、声がしました。
 ……私の声じゃない?
 では、誰の?

 淀んでいるはずの空気が流れ始めました。
 私の指が、ゆっくりと前へ。
 前へ……。前へ……。

 冷凍庫の扉に届いて。

 「開いちゃ、ダメ」
 
 怖い。
 でも、この指の向こうに、求めている答えが。
 取っ手をつかんで。

 勇気を、出して。

 ……開いた!

 「コラ、ばかしげ! またオレの冷食(そばメシ)、食ったなあ!?」

 おアトがよろしいようで。ちゃんちゃん♪
 だから勝手にどんどんヒトのめし盗むんじゃねえや。


 欠食児童の病人を抱えていると、こちらもなかなか落ちつけない。
 ホントなら今日あたり、しげと映画にも行きたかったんだけどなあ。
 ま、買い物なんかはしげがいない方が機動力はあるか(しげに合わせて行動すると、普段でも、予定の1.5倍は時間がかかるので)と思って、仕事を引けたあと、一人で天神を回る。

 福家書店で新刊マンガを買いこんだあと、ベスト電器「LIMB」で、予約しておいた『アヴァロン』や『ウルトラQ』、『少年ドラマシリーズ』ほか、DVDばかり、ン万円分購入。
 こんなに買いこんでもねえ、全部見終わることできるんかね? 気持ちはあっても時間がそうそうあるまいに。
 第一、先月買った『遊撃戦』や『つぶやき岩』だってまだ見終わってないっちゅうに。でもこれでも随分諦めてるDVDは多いのだ。
 三船敏郎主演の『荒野の素浪人』BOX、25000円したんで諦めたって言ったら、よしひとさんは怒るかな? でも続けて購入する予定のものが来月あたりから増えてくるんで、カンベンしてちょ。

 『ウルトラQ』、店のミスで全巻予約がされていなかったことが判明。
 まだ在庫があったからよかったけど、売り切れちゃってたらまた取り寄せに時間がかかってたのだろう。
 慌てて購入しなければならないというわけではないのだけれど、これだけ馴染みになってて忘れられてたというのは、ちょっとお客を大事にしてないぞ。毎月送られてきていた割引ハガキは印刷ミスで白紙だったし(もちろんちゃんと割引してもらったけど)。 

 予約し忘れていて、店頭買いしようと思っていたトレイ・パーカー&マット・ストーンの『サウスパーク』コンビの実写ギャグ映画『ポルノヒーロー オーガズモ』、売り切れでブツがない。
 こういうときに買い損ねると、二度と手に入らなくなるよな、と思って、博多駅の紀伊國屋にも回ることにする。首尾よく購入出来たのだが、そこでまた見てはいけないものを見つけてしまった。

 カウンターの上にさりげなく置いてあった『スタンリー・キューブリックコレクション』の予約券。
 以前、BOXと単品でDVDシリーズが発売され始めてたのだが、急に中断してしまってどうしたのかと思っていたのだが、つまり「デジタルリマスター」「5.1サラウンド」での再発売のためということだったのね。
 以前のBOXで途中まで買わされた身としてはどうしてくれるんだって感じだな。今度発売のコレクターBOX、先に買ってた『時計じかけのオレンジ』『バリーリンドン』『シャイニング』『フルメタルジャケット』に加えて『ロリータ』『2001年宇宙の旅』『アイズワイドシャット』『スタンリー・キュープリック/ア・ライフ・イン・ピクチュアズ』の四本付きだ。
 もう一度これを買うのはいくらなんでももったいない。第一、『シャイニング』はなぜか旧版が無修正版だったのに、今度の新発売の方が再編集短縮版なのだ。
 しかもこのBOXとは別に『2001年宇宙の旅 スペシャルエディションBOX』が出るのだよなあ。これはサントラCDつき、スクイーズ収録なので、こっちで買った方が絶対オトクなのである。

 DVDやテレビでしか『2001年』を知らない者は、後半の難解な展開をキューブリックの「ハッタリ」と単純に捉える人もいるかもしれない。
 しかし、劇場で、しかも、ホンモノのシネマスコープサイズでアレを体験した者にとっては、まさしく「映像の革命」だったのだよ。
 公開年に5歳で、そんな映画の存在すら知らなかった私が、本作を劇場で初めて体験したのは大学のとき、今更、そんな20年も前の特撮に驚きゃしないさとタカをくくったていたのだが、ところがぎっちょんちょんである。
 新宿マリオン、70ミリシアター。
 大学の友人と、「途中で寝るなよ」と笑いながら劇場に入って。
 上映前のオーバーチュアが長かった(これは現行のビデオには収録されていない)。こりゃホントに寝るかも? と思っていたのに。
 上映開始後数分で、我々は息を飲んだ。
 あの『ツァラトゥストラ』、『美しく青きドナウ』。
 なんとかランドの体験ゲームとはワケが違う、我々は本当に宇宙空間にいるように錯覚したのだ。
 そしてラストのオデッセイ(絶対、邦題は『スペース・オデッセイ』のままで行くべきだった)。
 行くよ、人類はきっとここまで。
 そう思える経験だったのだ。

 ああ! これは買うべきか買わざるべきか!

 あ、『ロリータ』は買いますよ。
 ジェームズ・メイスンとピーター・セラーズの競演だし。スー・リオンなんてロリータの対象じゃね〜から興味なし(対象だったら興味もつんかワリゃ)。

 悶々としながら(買おうか買うまいか迷って)、至極当たり前に「当日の財布の中身次第だな」という結論に達し、フードセンターで食材を買いこむ。
 しげにちったあ料理らしいモノを作ってやろうかと考えながら、結局、買ったのは電子レンジでカンタン調理のハンバーグだったりする。男の手料理なんてこんなもんよ。

 荷物が手で抱えきれなくなってきたので、タクシーに乗って帰る。
 タクシーの運ちゃん、妙に無愛想で、殆ど無言。
 まあ、ペラペラ喋りかけられるのも時には鬱陶しいが、ブスッとされたままと言うのも、ちゃんと目的地まで運んでもらえるのかと不安になる。
 なんとなく気まずいムードのまま、しばらく走っていると、タクシーの無線が切れ切れに聞こえてきた。
 最初は「○○に向かってま〜す」みたいな何気ないものだったのだが。
 突然、無線の声がひときわ高くなって、
 「うほっ! ノーブラ!」
 ……へ?
 「すごか〜、揺れちょるばい。乳首も見えとう」
 あの、何ですかあ?(・・;)
 「外人さんはすごかね〜」
 あ……はあ。そうですか。でも、他の車にゃ客も乗ってるってのは予測がつくだろうに、無線で何もそこまで……。
 別の意味で気まずい雰囲気になっちゃったのでありました。


 帰宅して、しげにハンバーグを作ってやると、しげは無茶苦茶喜ぶ。
 でも実は試食コーナーでひと切れパクついた時のほうがうまかったのである。
 あれって不思議なんだよね、試食コーナーで食べると美味しく感じるのに、ウチに帰って自分で作ると決まって不味くなるのな。
 これもマーフィーの法則の一変形であろうか。

 メールをチェックすると、山本弘さんから『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ! オトナ帝国の逆襲』同人誌完成の連絡。
 わあ、本当にできたのだ。
 先日いただいたメールでは、「オトナ帝国大辞典の記事が足りません」と、ちょっと完成が危ぶまれているような内容だったのに。
 『h.m.』の近況報告では「夏コミに向けて『クレヨンしんちゃん本』制作に燃えている」と書かれておられたから、まあ大丈夫だと思ってはいたが。
 参加メンバーを見てみると、全員で10名ほど。
 山本さんは当然、原稿を書かれているとして、プロの方の参加があと、眠田直さんだけである。岡田斗司夫さんはご自分のブースを持たれてるから、原稿書くならそっちの方だろうけれど、唐沢俊一さんは参加表明されていたのに、お名前がない。
 そう言えば、ホームページの日記にも「同人誌原稿を書く」って見かけなかったものなあ。ご不幸があったことでもあるし、余裕がなかったのだろう。
 ちょっと残念なことではある。

 いざ販売決定となると、現物を見に上京したくなるのは人情と言うものである。福岡・北九州のコミケに参加したことはあっても、東京には行ったことないしなあ。
 しかし如何せん、今回ばかりは上京はいっかな不可能なのだ。なんてったって、8月10〜12日は入院中なのだから。こういう時はコピーロボットがほしくなるよなあ(ドラえもんの道具よりパーマンのコピーロボットの方に切実感があるのよ、我々の世代にはね)。 


 続けてネットサーフィンをしたかったけれど、買ってきたDVDの山を見た途端、しげがパソコンを占領してしまった。
 で、いきなり『スーパーミルクちゃん』を見始めたのである。やっと見終わったかな? と思ったら、今度は『オーガズモ』。……いや、見ちゃイカンとは言わんが、先に手に取るものがそれか? 他にも『アードマンコレクション』とか『幽霊列車』(赤川次郎原作/岡本喜八監督版)とか渋い作品も買って来てるのに。
 おかげで、日記の更新も溜まってるっちゅーのに、昨日は全くパソコンが使えませんでした。ますます更新が遅れちゃうよう、( iдi ) ハウー。


 仕方なく買ってきた本などを片っ端から読む。

 『怪』11号。
 リニュウアル号ということは売れてないのかな、この雑誌。
 でも妖怪ファンには読み応えが凄くある本なんだがなあ。アカデミズムがお好きなヒト用にマジメな民族学研究も載ってるし。新発見の「化け物絵巻」の紹介もあるぞ。
 でも私がやっぱり面白いと思うのは、水木しげる御大の対談やマンガ『神秘家列伝・仙台四郎』なんだな。
 バンド「ゆらゆら帝国」の坂本慎太郎との対談での無軌道ぶりが楽しい。
 坂本氏が「何もないのに足に火がついたように錯覚したことがあるんですけど」と水木サンに言うと、「精神科に行きなさい」……おいおい、間違ってないけどTPOは間違ってるぞ。
 で、その口で「妖怪はいますよ」だものなあ。かなわないや、このジイさん。
 マンガについての言質も実にさっぱりしている。
 「スランプになるのはバカ。人に誉められたいという気持ちがあるからそうなる。欲が深いだけで本当の才能がないやつです」。
 もちろん、これは手塚治虫のことである(^_^;)。
 そのマンガの才能がないのを、ハッタリと見栄だけでゴマ化してきたところが手塚治虫の才能なんだけどね。手塚治虫は「元祖無責任男」として評価してあげるのがいいと思うんだけどなあ。


 マンガ、石ノ森章太郎『仮面ライダーEX』。
 なんと石ノ森御大の下描きに基づく『仮面ライダーアマゾン』の初単行本化だ。
 連載が低年齢誌の『テレビマガジン』だし、実際の作画は石川森彦が担当しているけれども、ヘビ獣人に襲われた高坂博士を助けられなかったアマゾンが、雪降る街にさ迷いでて、涙しながら「この冷たい白い花はなんだ?」と呟くシーンなどは石森リリシズムの真骨頂だろう。
 でも、番組短縮、連載中断の影響はキツイというのがよく判る作品ではあるのだ。
 なにしろ1〜4話までがプロローグで、5話が最終回なのだから。
 多分、石ノ森さんは、アマゾンを補填して単行本化するつもりだったんじゃなかろうか。しかも自らの手で。
 ……未完の作品の多い人だったからなあ。


 マンガ、高橋葉介『黒衣 ―KUROKO―』3巻。
 既に4巻で完結、と巻末に予告が。うーん、やっぱり高橋さんにギャグ路線はムズカシイということなのかな。
 ちょっと反省してか、今巻は大分シリアスな要素を入れてきているが、ちょっと後の祭り。シチュエーションで見せるタイプの人なので、実は高橋さん、キャラクター造形の幅は狭いのである。
 マジメだが気弱な男の子、ドジな女の子、魔性の者。煎じ詰めれば、この三者しか高橋さんのマンガには登場しない。後はこの基本キャラの立場を変えたり、年齢を上下させたりしてるだけだ。
 今巻から登場の金牙と銀牙も、悪役だけど夢幻紳士のバリエーションだからねえ。だったら『夢幻紳士』の新作描いてえ、ということになっちゃうのだな、どうしても。
 まあ、この話、高橋さんがネタバラシしてるように、ラブクラフトの『ダンウィッチの怪』なのだよね。魔物が復活したらそれで終わらせるしかないわけだから、打ち切りとはいえ4巻という長さはちょうどいいようにも思うけど。


 マンガ、富沢ひとし『ミルククローゼット』3巻。
 そうか、かわいい女の子相手のSMマンガだったんだ、これ。
 「宇宙を壊すためにはその宇宙を作った者達を絶望させる事」
 これってつまり、相手の価値観を完膚なきまでにぶち壊すってことだからね。
 ……そんなに人を苛むマンガを描きたいわけなのかなあ。


 マンガ、長谷川裕一『クロノアイズ』4巻。
 SFの醍醐味はやっぱり「タイムパトロール」ものだなあ、と言いたくなるような懐かしさ。
 ネタバレになっちゃうから言わないけど、歴史上の有名人のアノ人とアノ人がアノ場所であんな事するなんて、なんて血湧き肉踊ることだろう!
 ……あああダメだ、この作品ばっかりは、何を書いてもネタバレになって、感動を伝えられないいいいっ!
 ま、アレですよ、タイムパラドックスものについての一つの解答を示そうとしてるんだろうなあ、と私には思えるわけなのですよ。
 あと、長谷川さんの作品は、今時珍しく悪役が悪役してくれる「勧善懲悪」ものでもあります。いやあ、ハデスの正体があんな……これもネタバレかいっ!
 で、これだけ盛り上げといてまだ完結ではないのな。これは嬉しい限りである。



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