無責任賛歌
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藤原敬之(ふじわら・けいし)

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2001年03月25日(日) ハカセ登場!/『カムナガラ』1・2巻(やまむらはじめ)ほか

 二週間ぶりの練習日。
 と言っても、殆ど脚本担当で通常の仕事がない私は、日頃あまり熱心に顔を出してはいない。今日はミーティングがあって練習場に行けない女房の代わりに、ロッカーのキーを預かって出掛けることになったのだ。
 でも、よしひと嬢はインフルエンザで欠席、鴉丸嬢と其ノ他君は携帯の契約とかで欠席、鈴邑くんは日曜出勤の職場に就職が決まったのでしばらく来れなくなったとか、奥さんの愛上さんもふなちゃんの手がかかり始めたとかで欠席、塩浦さんも引越しの準備とかで欠席、来られるのは桜雅さんだけである。
 これで私に何をせよというのか。
 「とりあえず柔軟と腹筋させといて。異常に体固いから」
 女房にそう言われて小雨振る中、千代町の「パピオ」に向かった。

 途中、自転車が雨で滑って、派手にこける。
 車道の端を走っていたら、後ろからププウとクラクションを鳴らされ、慌てて人道に上がろうとして上り損ねたのだ。自動車は謝りもせず(まあ追突したわけじゃないから仕方ないのかもしれんが)、そのまま行ってしまった。
 腰や肩を結構強く打ちつけたので、すぐには歩けなかったが、出血は右の掌をちょっとすりむいただけである。
 後で女房にこの話をしたら、「どうして慰謝料をとらなかったのか」と言われたが、俺は当たり屋じゃねえぞ。第一、掌すりむいたくらいで金を要求する方が犯罪だってばよ。
 「私はちゃんとおカネもらったよ?」
 「何それ」
 「だから、この夏の事故が示談になったから……」
 「おい、それ初めて聞くぞ。いつだ」
 「先月末……」
 このアマめ、金が入ったこと、私に内緒にしていたのだ。金額を聞くとまあちょっと贅沢ができる程度の金額ではある。
 「これは私のおカネだもーん、だから別に誰にも知らせなくってもいいんだもーん」てな心理なんだろうが、セコイよなあ。
 女房は貧乏生活が長かったので、すっかり性格が歪んでいるのだ。だから、たとえ私が女房のカネをピンハネしたりはしないと解っていても、どうしても隠してしまうのである。金が絡むと人が変わるとはよく言うが、女房はこれがフツーだ。永井豪のマンガに出てくる「欲ふか頭巾」みたいに一度握ったものはゴミでも離さない(と思う)。
 昔、宮部みゆきの『火者』を読んだ時に、女房が「金が絡めば親でも死んでてくれって思うの普通だよねえ」と平然と言いはなってたことを思い出したな。
 女房の外面を見て、「ちょっとマヌケだけど基本的にはいい人」だと思ってる方もいるようだが、本性はこんなヤツなので、信用したりないように。

 練習場には時間ピッタリ10時に着く。
 桜雅さん一人かと思っていたら、お友達の女の子も一人連れてきていた。
 なんと入団希望者である。ウチは基本的に出入り自由、入団試験などというものは全くないのだが、オタクや社会不適合者は多いので(^_^;)、ウッカリ入っちゃったりしてもいいのかなあ、と思う。世間話なんかしながら、どんな子か確かめてみる。
 私の得意技の一つに「カマかけ」というのがあって、気がついたら相手はプライバシーのいらんことまで喋っちゃってるってことはよくあるのだが、別にそんなことしなくてもこの子は自分からペラペラ喋るのであった。
 なんとこの子、まだ19歳なのに、○○、○○○○○○○、○○○○○○○○○○○。しかも、○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○。
 ああ、そんなことを初対面の人間に全部喋っちゃっていいの? そのあともとてもここには書けない危ない話が続出。……なんでこんな子が桜雅さんの友人なのだ? 全く正反対ではないか。
 でも、こういう屈託のない子は好きである。派手なようで、優しいところもあって、怪我をしていた私にバンソーコーを貼ってくれた。中年になると、こういう若い子の愛情に弱くなっちゃうのよ。立派なオヤジキラーになれる要素があるな、と思ったら、
 「オヤジのほうが好きですね」
 なんてことを言う。……なんか、ウチの劇団、そういうやつが多くないか。……類友?
 「キャストとスタッフどっちが希望?」
 「……どっちがどっちなんですか?」
 これくらい演劇に関して知識がないほうがかえって変な先入観がなくっていいよな。まだ芸名は決まっていないので、便宜上、彼女のことは「ハカセ」と呼ぶ。……女房の話によると、桜雅さんは人間ではなく実はメカなので、それを造ったのが彼女なのだそうだ。

 桜雅さんは相変わらず桜雅さんである。
 「昨日の地震、凄かったねえ」、と私が聞くと、
 「全然気がつかなかったんですよ」と言う。
 思わず、「どこにいたの」と聞き返すと、
 「パチンコ屋にいて、うるさかったから……」
 ……揺れは音とは関係ないと思うが。
 私はパチンコ屋に殆ど行かないのでよく解らんのだが、揺れにも気がつかないほど熱中しちゃうものなのだろうか。

 女房が意外と早く、11時に練習場にやってきた。せっかく入団者がいることでもあるし、肉練を徹底的にやる。
 もちろん私は見学だ(^o^)。
 確かに桜雅さんは身体が固い。私並に固い。上半身が90度も曲がらないというのはトシを考えるといくらなんでも固過ぎるのではないか。女房なんか足が完治してないのにそれでもジャンプ力が桜雅さんよりあるのに。
 ハカセは発声が弱い、というた顎があまり開かないのがちょっとネック。丁度島崎和歌子みたいな喋り方をするのだ。でもそれは大したキズではないので、練習次第でなんとかなろう。

 11時30分ごろ、見学の男性が来る。人数が少ない時で申し訳なかったのだが、30分ほど練習を覗いて帰って行った。見学者が居付いた例はあまりないのでこちらもあまり詳しく説明したりはしない。
 純粋な演劇青年は頭でっかちでウチみたいなお気楽な雰囲気は芝居を舐めてるようにしか見えまいし、全くな初心者はオタクな会話についていけなかったりするからだ。結局は気の合う者しか残っていかないようになっているのである。

 3時半までみっちり練習。シノプシスの打ち合わせは人数が少ないのでアイデアをちょっと出しあっただけ。女房は既にネをあげていて、第一稿を私に依頼してくる。でもホントに設定だけで殆どストーリーらしいストーリーもないのである。殆ど一から書けと言ってるのと同じではないか。また一つ仕事が増えたなあ。
 でもまあ、ハカセという強力な新人も入ったことでもあるし、本気で板に立ってくれるつもりなら書きがいはある。なんだか数年前の鴉丸嬢によく似た雰囲気の子だったなあ。……シモネタOKなところも含めて(^^)。

 帰りにトンカツ屋に寄って、二人で盛り合わせを食べる。
 今日の飯はこれで終わり。一日一食は、健康に悪いと言うが、三食食ってるとやっぱり太るのである。

 途中、私だけ家の近所の「ベスト電器」に寄って、『アヴァロン』のサントラCDを買う。やっとあの「ア〜ヴァ〜ローン」というコーラスが聞けて燃えるが、なぜか歌詞カードが入っていない。いや、どうせポーランド語なんだろうから歌えね〜だろうけどさ、原詩は川井憲次さん自ら作ったそうだし、意味だけでも書いておいてほしいよなあ。
 CD製作のエピソードがパンフで読めるのが最高。
 押井監督が曲の出来映えに感心して、「これ、どうやって作ったの?」と聞いた時に、川井さん、つい指を横に振って「ひ・み・つ(はあと)」と言ってしまったとか。かわいいぞかわいさん(←シャレ(^^))。
 歌詞が分らないので、適当にコーラスに声を合わせてデタラメに歌うのであった。
 「♪ひーひーふー、ははほ、へほーへ、あーばぁーろーん♪」
 ……バカだなあ。

 夜、広島の友人から電話。
 昨日の地震でこちらを心配して電話してくれたのだが、震源地の人間がどうして震度の低い地域の人間の心配をするかな。こっちは「死人が二人なら大したことないな」と電話も入れなかったのに。
 確かに、私の住んでる階があと1階上だったら、山積みの本やビデオが崩れてたかもしれないが。
 友人は丁度本屋にいたそうだが、本屋の店員がみんな総出で「本棚を守れっ!」と、張り付いていったそうである。……もうちっと震度が大きかったら自殺行為だと思うが。いざというとき人間はやはり冷静さを失ってしまうものなのだなあ。

 夜、福岡シンフォニックのUさんに電話。
 四月の休日に福岡市総合図書館で、羽仁進監督の文化映画の上映があるのでお誘いである。
 ついでに最近の某さんや某さんなど、共通の知人のウワサ話を、いろいろと脚色を交えて伝える。
 「○○さんは実は○○○○、○○○○○○○、○○○○○ですよ」
 「えええええっ!?」
 「しかも○○さんは、○○○○○○○、○○○○○○○○ですよ」
 「えええええええええええっ!?」
 「人生いろいろありますねえ」
 なんだか私や女房に大して事件がなくって平凡なのが申し訳ないくらいだが、そういうのがかえって他人からは羨ましがられるものらしい。羨ましがられるくらいならいいんだが、世の中には更に僻んでイヤガラセしてくるやつもいるから始末に悪いんだよなあ。
 
 マンガ、波津彬子『雨柳堂夢咄』8巻、読む。
 作品の出来にムラのあったこのシリーズも連載十年を迎えると安定してくる。よく連載が長引くとマンネリ化してつまらなくなるのではないか、と思われがちだが、基本的にこういう百物語形式の怪談は、そのマンネリを楽しむものなのである。構造そのものを変えてしまうとかえってつまらなくなるので、もうへたにあの贋作師など出さずに、毎回、別の妖怪・幽霊を出していった方がいい。
 『むさし野』などは小泉八雲の怪談・奇談の中で語られても構わないほどの名編。いくつかの別の話が一つの話に収斂されていくパターンは、岡本綺堂や都筑道夫も使っていた手だが、これまでこのシリーズにその形式が使われなかったのが不思議だ。

 マンガ、やまむらはじめ『カムナガラ』1・2巻。
 表紙絵とタイトルに惹かれて殆ど中身を知らずに買うがなかなかの拾い物。
 タイトルの「かむながら」、「神であるままに」とか「神の御心のままに」という意味の古語である。この手の神道の知識ってのは一昔前だとあまり知る人もなかったので、私のようにちょっとかじったことのある程度の者でも、そこそこ薀蓄を傾けて威張って見せることもできたんだが、最近は若い子でも専門的な知識を持っている人が増えちまって、ボロを出しちゃうことも多いのだ。
 参っちゃうよな(^_^;)。
 異世界からの侵略者とそれを迎え撃つ「剣の一族」、ただし主人公は前世の記憶を失っており、自分の能力に気づいていない、という基本設定はまあフツーだ。しかし、その記憶を失っているがゆえに自らの使う剣を制御できず、右腕を失ってしまう展開がショッキングである。
 主人公が片腕なんて、最近のマンガじゃ差し障りがあってなかなか描けなかったからなあ。作者も編集部も、本気で描こうとしてるんだってことがよく解る。ちょっと暗めの展開になりそうだけど、10巻、20巻と続いていく大河ロマンになりそうな気配である。
 ヒロインの武弥香奈多ってやっぱりタケミナカタもじってんだろうな。んじゃ、タケミカズチは誰なんだ?



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