無責任賛歌
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藤原敬之(ふじわら・けいし)

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2001年02月14日(水) だから初心者なんだってば/『わが師はサタン』(天藤真)

 夕べ風呂に入り損ねて、ヒゲが伸び放題だったので、朝から風呂に入って顔を当たる。
 「ヒゲを剃る」「顔を当たる」とは言っても「顔を剃る」とは言わないと思っている人が多いと思う。でも実は床屋用語ではあれは「顔剃り」と言うのである。子供のころ「顔剃ったら血が出るやろ」と友達にからかわれたが、顔の表面を剃ってるのだから別に間違いでもなんでもない。突っ込んだつもりが突っ込み返されて、その友達は腹を立てていたが、そういう切り返しも覚悟しなければ一人前の芸人とは言えない。……って小学生に何要求してたんだろうな。

 宇和島水産高校の実習船が、浮上したアメリカの潜水艦に沈没させられた事件、体よく利用されて首相退陣のための口実にまで使われようとしているが、今日になって、同乗していた民間人が操縦に関与していたと報道。
 マスコミはいかにもその民間人の操縦ミスで事故が起こったかのごとく意識誘導をしようとしているが、そりゃ乗組員が操縦してたら事故が起こらなかったと言いたいわけかね。結局は「民間人に操縦させたことが悪い」で話を収めて、潜水艦の構造的欠陥から目を背けさせようってハラじゃないのか。
 潜望鏡は、ソナーはどうだったのかと言われてもいるようだが、私ゃ潜水艦に詳しいわけでもなんでもないが、映画なんかじゃたいてい水面の船や浮遊物を全く無視して浮上してるものな。
 単純な疑問なのだが、魚の群れと船の区別って、ソナーできちんと区別できるものなのか? 乗組員が仮に船影を確認出来ていたとしても、「どうせ魚だ」と見過ごしちまったんじゃないかという気がしてならん。
 しかし実を言うと、ニュースを聞いたとき私が真っ先に思ったのは「なんでそんなハワイくんだりまで行って実習せにゃならんのだ」ってことだったのだ。水産高校ったって全員が遠洋漁業に携わるわけじゃあるまいに、いったいそこでなければならない積極的な理由ってのはあったのだろうか。いや、別にそんなとこに行った学校の方が悪いと言いたいわけではないが、潜水艦が民間の水域に間違って浮上した、という報道は未だになされていないのだ。とすればそこはもともと危険区域だったのではなかったか。
 その辺の学校側の情報もアメリカ軍側の情報も全然伝わってこないのはなぜだ。情報が隠されてる状態で正確な判断なんぞ出来るわけがない。にもかかわらず「軍のせいで」とか「若い命が」とか、訳知り顔にコメントしてる連中が多いのがどうにもきな臭いのである。

 水産高校のホームページの掲示板、誹謗中傷の書き込みが増えて、閉鎖せざるを得なかったとか。そりゃ書きこんだヤツの方が人間的にどうのってのは確かにあるけれど、こういう公共機関ってのは掲示板を開くもんじゃないと思うんだがな。こういう事件がなくても、日頃からどんな「荒らし」をされるか分らんわけだし。メールだけを受けつけて、取捨選択して掲載すればいいのである。掲示板を開くのなら、何を書かれるかわからんということを覚悟をしておくのが前提だよな。

 天藤真『わが師はサタン』を読む。
 いやあ、書店でこのタイトルと作者名を見た瞬間、マジで飛びあがっちまったぜ。
 ミステリファンなら周知であろう、謎の女流作家、「鷹見緋紗子」の正体がついに判明したのである。『わが師はサタン』『闇からの狙撃者』ほか、昭和50年代に長編を矢継ぎ早に執筆し、一旦休筆したものの徳間書店のわずか4冊で廃刊になったミステリ専門雑誌『瑠珀(ルパン)』(未だに捨てられん)で復活するがその後すぐにまた沈黙した、あの鷹見緋紗子である。
 既成作家の覆面ペンネームであろうとは噂されていた。私は高木彬光氏かなあ、とちょっと疑い、それにしては文章がうまいと、首を捻っていたのである。高木氏が死んだ時、ああ、鷹見緋紗子の秘密は永遠に謎なのかと思っていたのだが、それ以前に鷹見嬢は亡くなっていたのか。
 正確に言えば「鷹見緋紗子」は天藤真・大谷羊太郎・草野唯雄三人の合同ペンネーム。天藤氏が担当したのは『わが師はサタン』『覆面レクイエム』の二編のみ。正体が分らなかったのも当然だろう、本作は天藤氏が得意としたユーモアミステリの要素が極力抑えられているのである。
 で、出来映えはどうだったかと言うと……。

 てとこで、続きはまた明日。パソコン奮戦記と桜雅嬢のネタも追加の予定(こう書いとかんと忘れる)。

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 昭和50年代、赤川次郎、栗本薫がデビューして以来、学園ミステリーやユーモアミステリーの書き手は吐いて捨てるほどに登場したが、それ以前は実にお寒い状況であった。松本清張の社会派ミステリが一世を風靡していたがために、ミステリ界はその亜流が目白押し、ミステリに「ユーモア」を絡めること自体、まるで罪悪のように思われていたのじゃないか、と言いたくなるほどであった。
 何しろ乱歩の少年小説からワンランク上のミステリを読もうと思ったら、いきなり高木彬光の『人蟻』に行かねばならぬのである。……小学生にいきなり株の世界が分ってたまるか(^_^;)。
 そんな中、唯一小中学生にも読めるミステリを書いてくれていたのが今は亡き小峰元と天藤真のお二人である。特に天藤氏は、多分にアクロバティックな設定で、近年の十把ひとからげ的なユーモアミステリとは一線を画したハイレベルなミステリを発表し続けていた。岡本喜八監督、北林谷栄・緒形拳主演による映画、『大誘拐』をご覧になった方も多かろう。あの誘拐されたおばあちゃんが誘拐犯のリーダーになってしまうという逆転劇、アレが天藤作品の真骨頂なのである。
 『わが師はサタン』で使われていたメイントリックに驚いたのは、それと全く同じトリックが泡坂妻夫の『11枚のトランプ』にも使用されている点であった。更に口幅ったいことではあるが、私もその昔『函』という戯曲を書いたときにその変形・応用を試みた(^_^;)。……言っちゃあなんだが、誰でも思いつくトリックなのである。
 従って、そのトリックを隠蔽するためには語り口に細心の配慮が必要となる。もし本作が変名で書かれることなく、初めから天藤作品として書かれていたなら、軽妙でユーモラスな筆致でうまく真相をうまく誤魔化すことが出来ていたかもしれない。
 しかし徹頭徹尾シリアスとして書かれた本作はあまりに無防備であった。恐らく、特にミステリファンでない人でも、ある人物が登場した途端、全てのトリックを見抜いてしまうであろう。それが本作を読み通すにあたって興味を半減させることになることは火を見るより明らかである。
 しかしながら、そういう欠点はあるものの、某大学の講師でもあった天藤氏が、ある意味バックステージものとも言える学園内の殺人事件を書いたということは実に面白い。天藤氏自身を彷彿とさせる人物も現れ、これはやはり「鷹見緋紗子」作品としてより、「天藤真」作品として読んだほうが、その真価を堪能出来る作りになっているのである。
 創元文庫の天藤真シリーズ、間を置きながら果たして完結するのかどうか危うい状況で刊行され続けているが、そんな作家知らなかったという方にはぜひオススメである。少なくとも昨今の新本格作家の10倍は面白いよ。

 仕事に間が出来たので早引け。
 ホームページのための原稿をひたすら書きまくる。しかし単純に少なく見積もっても、今考えているコンテンツをアップするためには、最低でも50枚以上の原稿を仕上げねばならぬのである。
 一週間やそこらで出来るのか?
 とりあえずいくつか書き上げた原稿をホームページにリンクさせるように、女房に教わりながら作業に取り掛かったはいいのだが……。
 「タグはつけたの?」
 「タグってなんだ?」
 「こないだ教えたばっかりだろ!」
 「もの覚え悪いんだよ!」
 「ホラ、そこ、<あ・ふれふ>。」
 「……なんだそりゃ」
 「<あ・ふれふ>だよ! ほら、入門書に載ってる!」
 「<a href>(えい・えっち・あーる・いー・えふ)って言ってくれよ! わかんねーよう!」
 ……教える方の日本語が不自由だと苦労するよな。

 夜、福岡シンフォニック合唱団のUさんから電話。実は職探しをされていたのだが、どうやらめどがついたとのこと。よかったよかった。
 突然、メンバーの桜雅嬢のことについて「最近どんな様子ですか?」と聞かれる。
 何のことやら分らぬので詳しく聞いてみると、Uさんの携帯電話に何度も留守電が入っていたそうだが、誰からだか分らない。頻繁な時には一分置きくらいに入っていたりする。たまたま電源を入れている時にかかって来たときに出てみると、無言のままプツッと切れる。
 アタマに来たUさんが、かかってきた相手の番号に書け直してみると、出たのがなんと桜雅さん。
 「桜雅さんだったの? いったい何の用?」
 「あ、間違い電話です」
 Uさん、呆れたそうだ。そら、「間違い電話」とちゃうで、「イタズラ電話」やがな……と突っ込んでみたところで相手がラブちゃんだものなあ。
 Uさんが私のところに電話をかけてきたのは、桜雅さんがまさかオカシクなってしまったのでは、と心配して、もし私が事情を知っているならば聞いてみたい、と考えられた次第であったのである。
 「……桜雅さん、何かおかしくないですか?」
 もちろん、私は即答した。
 「おかしいです。あの娘は絶対におかしいです」
 「は、ハア……そうなんですか」
 いや、私だってそれ以外にどうにも言いようがない(^_^;)。
 ……そりゃな、人間、誰だって無知なとこ、世間知らずなところはあるぞ。けど、間違い電話をかけたら、一言謝るってこと、20年近く生きてて誰にも教わらなかったのか。……多分教わっていないな。仮に今から教えても覚えぬであろうことも想像に固くない。無知は決して罪悪ではないが迷惑ではあるのだなあ。……なんとかならんのか(-_-;)。
 もう、私は彼女が実はアンドロイドだと言われても信じるぞ。と言うか、既にメンバーの間で彼女は三年前に製造されたロボットだと言うことになっているらしい。……メーカーに返品しちまえ。

 女房が夜食に食い残しの肉丼をくれる。嬉しくて涙が出るわ(~_~メ)。



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