あふりかくじらノート
あふりかくじら



 クール・ヴァレンタイン。

今日の気温は低め。
そして、わたしの気分もどんより。

職場でいつも一緒に働いている仲間に、突然思い立って「元気付けにチョコレートを」と考え、とくべつちょっと遠いお店へ。ココアツリーがジンバブエにもあるのである。プラリネ系等。高級。

職場のその人はいつもいつも一緒にお仕事をしているのだけれど、いろいろと苦労が重なってかなり深刻にお疲れ気味のご様子だったから。でも彼ももうすぐ休暇。リフレッシュしてほしい。
チョコレートは喜んでくれた。

肝心の恋人は、これまでなしのつぶてだったけれどもお電話でお話ができた。ハッピー・ヴァレンタインズ・デー。
彼は甘いものを食べないので特にチョコレートは贈らない。(まぁ、ジンバブエから日本に送るのもばかげているというものだ)だけれども、ヴァレンタインのeカードくらいは送る。小さなパンダの出てくるアニメーションカード。あまりに気に入ってしまって、つい。


でも、帰宅後気分は最悪。
ガードマンにぶちきれてしまった。
そんなことしたって、仕方がないのに。でも、ときにわたしの怒りは自分でもびっくりするほどすさまじいのである。

夜遅くなって帰宅すると毎日ゲートが閉まっていて、住人ですら名前とフラット番号を言わなくてはならないのだが、「外国人」のわたしの名前を一発で聞き取れるジンバブエ人はまれである。どれだけはっきりゆっくりと発音してもだ。
でも、毎晩毎晩自分の名前を三回も四回も、ときには五回も繰り返すと、イライラが募る。
第三者は、あなたの発音が悪いという。それをいうと、一気に頭にくる。

わたしの発音は、確かに日本人離れしたアメリカ英語に近い。しかし、英語ネイティブスピーカーだとじつに良く通じるが、それ以外の外国人だと通じにくいのはもう何万回と経験しているから(これはアメリカ人も同じである。米語は通じにくい)、そんなことは百も二百も承知で、いつも必ずはっきりと発音するようにしているのだ。そして多くのジンバブエ人の友人や同僚とはまともに何の不自由もなく会話をしている。

それでも聞き取れない人間がなんと多いことか。しかも、これは一度しか会わないひととかお店の店員などに、ものすごく多いのである。

ここまでくると、あきらかに問題はわたしではないのである。
聞く人間の理解力のなさ、聴く意思の欠如。
それから「外国人に対する不慣れ」「偏見」、つまり東洋人の顔をしている=話が通じないに決まっている、という無意識の先入観が邪魔しているのである。
だから、あなたのことばが悪い、などといってくる。
でも、自分の名前をはっきりスペルアウトして(それも三回も四回も毎日毎日)、そこになんの「ことばの悪さ」があろうか。
こじ付けであり、偏見である。

つまり、まずそこに、外国人だということで相手を「コミュニケーションができる相手」と捉えることができない人間が多いということである。友達になる、会話をきちんとする、というところまでくればきちんと成り立つが、そこまでいかないつきあい、つまり街中でのお店のやりとりやガードマンなどは、相手を「会話ができる意思を持った人間」であると捉えることができないという問題からはじまる。英語云々ではないのである。

外国人慣れした人以外は、まず、「顔」の違いに注目してしまうからである。相手が男とか女とか、美人とか年寄りとか、金持ちそうとか学生風だとか、そういうことはまったく見えない。ただの「トウヨウジン」。それだけなのである。容姿や表情も何にもない、「トウヨウジン」でしかありえないのである。だから「会話をできる」とは想像できないのである。

あれだけ訛りをもったジンバブエ人に、あなたの英語が悪いなどといわれる筋合いはない。自慢ではないが(あるが)、当然わたしは普通のジンバブエ人などよりずっと発音がいい。

わたしがこのレベルの英語力を獲得するまでにどれだけの苦労を経てきたと思っているのか。
どうして「顔」でその英語力を疑われなければならないのか。
(ときに、すでに英語をしゃべっていても、お前は英語をしゃべれるのか?と聞かれることがある。じゃあなんで、会話ができてるんだ?)

ここまで毎日名前のスペルを何度も言わされる夜が続くと、ほんとうに哀しくなってくる。
しかも、わたしが怒れば怒るほど、珍しいのか、へらへらと笑う輩のなんと多いことか。頭の悪さをちゃんと物語っている。そして、わたしを「コミュニケーションができる人間」と思っていないことがよくわかる。
わたしはここに暮らして、もう一年と四ヶ月以上経っているのである。それでも、毎晩名前を繰り返させられる。文句を言うと、ガードが入れ替わっているからだ、などという。それくらい引継ぎするのがプロの仕事だろうが、たわけもの!それはこちらの問題ではないのだ。
(しかも今夜は、フラット番号を四回もきかれた。ちゃんとガードは自分で復唱したくせに、馬鹿なのか何なのか書き留めていないのである。そして、まるでわたしが悪かったかのようにまたたずねる。これはどういう意味か)


言ってもいいかな。
救いようもなく頭の悪い人間は嫌いだ。
ひとの顔を見ただけで金をせびる人間は、いかなる理由があれ、嫌いだ。


でも、自分の尋常じゃない怒り方に驚いたのは自分であり、救いようもなく落ち込んだのは自分であった。
帰ってから、部屋の床にへたり込んで大声上げて泣いてしまった。

理由。
どうしてわたしはひとりなのか。
どうしてわたしは、この仕事をしているのか。
どうして、わたしはこんなくだらないことで切れてしまうような、そんな精神状態なのか。
どうしてわたしの恋人は…、云々。

仕事がたくさんたまりすぎ。
でももう、とても仕事ができる気分ではなくなっている。

いろんなことが、今夜は少し重たい。

2007年02月14日(水)
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