あふりかくじらノート
あふりかくじら



 静かなクリスマスまでの時間を。

このところ、精神状態がおかしいと思う。
いくつものことが重なり合い、わたしはどこかの感覚が狂ってしまったのを感じている。でも、そんな自分を客観的に見ている自分が存在する限りは、もしかしたらまだ救われるのかもしれない。

今年は多くのことがあったし、そのいくつかはとても心に重たいものであった。それらは今でも継続しているし、ときにひたすら泣いて何かを身体の外に出さないともたない。


わたしの身近なひとたちのうち、二人が国を去った。

ひとりはこの国に来ていたボランティアで、それほど親しくおつきあいをした人ではなかったけれど、契約満了直前ごろには、食事をしたりして何度か色々な話をした。
それでほんの少しだけ近いひとになったけれど、彼は去った。そういうことすべてをわかっているから、それだけの話をした。
たぶんわたしと彼は、まったく別の世界に住んで生きていくのだろう。


もうひとりが去ったことを知ったのは、夕べ。このヴィレッジに住む女性から、彼女のフラットに何人かで集まってウィスキーを呑みながら。
先週去ってしまったという、アイルランドから来ていたその女性はとても明るくて、そしてわたしを抜かせばこのヴィレッジの中で次に若いひと(40歳くらい)だったが、彼女はずいぶん年上のパートナーの男性と問題があって、あっという間に去ってしまったという。

以前、とても気になることがあって、わたしは彼女とは気まずいままに別れてしまっていた。彼女は精神的に少し病んでいたのか、何かのきっかけでパニックに陥ることがあったのを知ったのは、彼女と二人で南アフリカのバンドのライブを観にいった夜である。
あのとき、パニックに陥った彼女を連れて帰ったのはわたしだ。(というか、マニュアル車が運転できないわたしは、パニック状態で運転する彼女の車の助手席から、ぎゅっとハンドルを握って操作した。恐ろしかった)
あの夜以来、彼女と話をすることもないまま、彼女は去ってしまったという。正気に戻ったら次の日にでもわたしに謝るのかなと思っていたけれど、そんなことはなかった。むしろ、あの夜のことはすっかり忘れたのか、けろっとした顔で挨拶をしてきたくらいだった。
ちいさく胸が痛む。何故か心残りである。
もう会うこともないのであろう。こんな人生もあるのだ。
彼女がはなしてくれた、恋愛やジンバブエに来たいきさつや、そういう話の断片が心の中にぽつんと残っている。


この12月はくたびれてしまった。

最近、ある人にたまたまトランプを使った占いをしてもらった。
「現在の恋人との関係は安定しているが、現在か近い将来か、あるいはすでに起きているのかはわからないが、ともかくとても辛いことがあって、そして、彼ではなくあなたがこのことを我慢する」と言われた。

わたしはこのことばを、ふふ、と笑った。
そして心の中では大声で泣き出したいような気持ちになった。
この「あふりかくじらノート」を彼も見ることがあるので気が引けるけれど、これは哀しいかな、ほんとうである。
わたしの気を狂わせていること。

だからどうすれば良いのかというと、きっとわたしはどうもしない。
辛いことは辛いままなのである。

「我慢」はわたしかもしれないが、「辛さ」はきっとわたしたち二人のものだ。また新しいひとを愛せる日が来ない限り、これは変わらない。


だんだん静かな気持ちになってくるのは、いつも12月。
夕べはとても印象的な夜を過ごし、またこのヴィレッジに住む方と少し親しくなった。そばに誰かが住んでいるって、けっこう幸せなことだ。


何の苦しみも疑いもない、100%の恋人が一緒に暮らすということが、これからのわたしの人生のなかにあるなら、わたしの孤独の質は変わるのだろうか。

考えることが何も生み出さないのならば、色んなことから目を背けながら、わたしは明日のクリスマス・イヴの買い物をする。
職場のひとたちと集まって、同僚の家でささやかなクリスマス・ディナーをする。だからそのために、わたしはきらきらした飾りも買うし、スライスしたハムやチーズを買って、チキンをオーブンで焼きご馳走をつくる。ただひたすらにそのことに向き合い、わたしは魂を注ぐ。
そして幸せそうな刹那の微笑みを、いくらでも見せてあげようと思う。


でも、せめてそばにいてほしかった。

せめて、少しでも。そばにいてほしかった。

2006年12月23日(土)
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