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■ 決断でも選択でもない。
ひとりでじっと考えていることがある。 こんなに深く、ほんとうに胃の底の方で考えていること。 怖くて、苦しくて、辛くて。そして独りぼっちな感じ。
何故か、若くして死んだ友人のことを思い出した。 その瞬間、決定的なことに気がついた。
血の通った体温のある、でも深い傷のある左手で、生きた心臓を持ったわたしはハンドルを握っているのだ。街灯などひとつもない暗い夜道を、あの日のようにアクセルをふかしながら。あの事故現場を、同じように通り過ぎているこの瞬間。
わたしは生きているのだ。
わたしの生命を、あと少しで奪ってしまうところだったあの日のことを、わたしはいつかほんとうに死ぬ日まで忘れない。死の恐怖、怒り、悔しさ。怪我と心の痛み。 時空を越えて、あの逆走してきた対向車のヘッドライトがフラッシュバックする。生きているわたしの今の時間へ、瞬間の記憶が襲う。
でも、わたしが再びこの街で生きていることは確かだ。 怪我はわたしを変えたが、わたしの生命は奪われなかった。 このことがどれだけありがたかったか。 どれだけ、どの神様でもない、神様に感謝をしたか。
こうしていると、フジコ・ヘミングに泣きそう。
わたしには、勇気が足りない。 車の中で、独りで運転しながら泣いた。事故現場を通り過ぎながら、生きているんだということに気づいて、泣いた。
そうしたら、わたしは決断を迫られているのではないということがわかってしまった。それに気づくのは、辛かった。 だけどわたしは、それを静かに選び取るだけの、なだらかな海のような心は、いまのところもっていない。 怒りや苦しみ、哀しみが暴れる。
ほんとうは、手に取るだけなのに。
あと少しの勇気が足りない。
2006年10月20日(金)
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