オミズの花道
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『 飲み方を弁えない客・その2 』
2005年03月23日(水)


さて昨日の続きである。

井上さんはその後もなんやかんやと沙理ちゃんに絡みながら、何度か来店していた。
その間もグチグチ何やら言っていたらしいが、私としては直に喧嘩を売られる訳でもないので、席に少々の時間だけ付いたり、遠巻きの嫌味も相手にしなかった。



沙理ちゃんは良く出来たヘルプさんで、ある程度の段階までは自分で考え、より良い選択をしてくれる。

今回も彼女は、付かず離れずで井上さんを引っ張ってくれているのだろう、定期的に井上さんは来店していた。
それを沙理ちゃんは私に恩着せるのではなく、当たり前の事として、お仕事として考えていてくれた。
本当に数少ない貴重な子だ。


彼女は、私の言葉やお客様の言葉をストレートに伝えるのではなく、その言葉の裏に何があるか読んで、自分の言葉で喋る。

つまりそれは彼女が頭が良く、聞き手の気持ちになれる思いやりがあり、キチンと責任を取るつもりで発言をし、事に当たれるタイプだということになる。
昼間の社会でも彼女のような子に当たる事は少ないだろう。


この世界は美人で当たり前。
この街に居る半数が、彼女のように美貌を持ち知恵を持ち、尚且つおっちゃんキラーである。(昼間のお顔の責任は持てませ〜ん)

大切なのは彼女のように「美貌は当たり前、じゃあ次は努力!」・・・・そう考えれる事が大事なのだ。
美貌に甘えて自分を磨かない人間は、単発になるか上に行けないまま終わる。

野心を持つ持たないではなく、お金を落す値打ちのある女性になるかどうか。
そこなのだ。



沙理ちゃんはそういう意味で完璧であった。
私が何も言わずとも集客の努力は怠らないし、たいして私とコミュニケーションを取らずとも回っていたのである。

だが、ある日の事である。
沙理ちゃんが私に相談をして来た。


沙理 『水上さん、
    ○日に井上様が15名様で予約をしたいとおっしゃってるんですが。』

水上 『うん、時間は?席の希望とかはある?』


沙理 『それがですね、
人数を連れて行くからディスカウントしてって仰ってるんです。』
水上 『・・・・ふ〜ん。で、何て返事したの?』


沙理 『一応聞いてみます、と返答しておきました。
    値引きしてくれないなら他所へ行く、と仰ってますが・・・・。
    どうお返事したらいいですか?』

・・・・まったくしょうがねえオヤジだな。
こめかみに怒りの青筋が浮かぶのを押さえながら、私は沙理ちゃんに告げた。



水上 『ディスカウントは一切しません。
その代わり、私からシャンパンをおごります。
    それ以外は、ボトルが空けばボトルも戴きますし、
出ればビールも戴きます。
    これで飲んで戴けない様なら、
構いませんのでキッパリお断りして下さい。』

沙理 『えっ。断っちゃって・・・・いいんですか?』

不可解な表情で私に問いかける沙理ちゃん。
ああ・・・・純情で大好き。


水上・『あの人、口説きがキツイでしょう?』
沙理・『あ・・・・はい。』

言いにくそうに沙理ちゃんは答える。


沙理・『実は、今回も・・・・、
    “それだけの人数を連れて行ってお前に華を持たすんだから、
その事を良く考えろ”
    って言われてまして・・・・。』

水上・『だったら尚更ディスカウントはしません。
どうぞ他所に行って戴いて結構。
    井上さんには私がそう言ってたって、ストレートに言ってくれていいから。』

まだ不可解な顔をしている沙里ちゃん。
まあ・・・・無理も無いなあ。


水上・『あのね、沙理ちゃん。
    あの人は貴女を気に入って口説いているんでしょう?

    私が男なら“自分の好きな女の居る店で”“値切る”なんてしません。
    みっともなくて出来ません。

    それなら何の目的も無い、好きな子の居ない店に価格交渉します。』


更に私は続ける。


『経費をカサに着て安上がりに女を口説こうなんざ、言語道断です。

 貴女ももっと自分に値打ちを付けなさい。
 “私は値引きされるような女なんですか?”って聞いてごらん。
 
 あのオッサンは貴女だけじゃなく、私の事もナメてる。
 それが私には気に入らない。
 
 あの人が本当に経費が苦しくて、
 沙理ちゃんへの色気抜きで今回の接待を考えるなら、
 私も喜んで価格交渉に応じたでしょう。

 私は女の子を売り飛ばすような真似はしないし、
 貴女もディスカウントされるような女の子じゃない。
 
 それが解らないようなら、
 私の客で居る値打ちなど、向こうにこそ無い。』
 
 
沙理ちゃんは大きな目を丸々と見開き、なるほどと頷いた。

『そう・・・・ですよね。ああ、いま考えると悔しいです。
 呼ばなきゃいけないってのを逆手に取られてたんですね。』

そうそう。最初が肝心なのよ、こういうのは。


要するにオッサンの考えとしては、人数も人数だし私達は断らないだろう、断れないだろう、・・・と思っていたのだろう。
その『断れない』に付け込んで、浅ましくも自分の都合のいいように事を運ぼうとしてきた訳だ。


私にとってのデットラインはこういう行為であって、口説かれるとか絡まれるとかトラブルとか諍いとかは、あまりデットラインではない。
(酒商売である以上、それは特色と捉えている。)

だがこういう、人をナメたというか、人を人とも思わない行為が一番許せない。
そしてこれに乗り、折れるという事は、己も相手と同じく人をナメ、その人の人格を無視する事になるのだ。
そんなのまっぴらゴメンだね。



さて、それから沙理ちゃんは前述のような内容を伝え、返事を待った。

オッサンは折れた。
百均に売っている傘より脆く折れた。
ディスカウント無しで、そちらに行くと言う。


それがまた水上の怒りに油を注ぐのである。
オッサン。余りにもみっともなさ過ぎである。


こうなったら、飲み方を知らないオッサンに一片の情も必要ない。
キッチリ躾けて差し上げましょう。


私は木槌を引ったくり、第3ラウンドのゴングを自ら鳴らした。
嬉々として鳴らした。






・・・・そういう訳で、この続編はまた後日。





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