オミズの花道
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『落日の朱』
2002年09月15日(日)


今日はお客様が近所にいらしたのでお昼ご飯とお茶をご一緒した。

この人、某有名企業の来年は部長と云う方である。若さにそぐわない出世ではあるが、器の大きさが魅力的なんだろう。男惚れするタイプであろうし。
まあこのご時世なんでどうなるか解らんけれどね(笑)。


さて今日はご自分の母校の選抜高校野球予選の応援にいらしたのだという。
先週お店にいらして戴いた時に「近くに寄るからね。お茶でも行こう。」と約束していたので、試合の帰りにわざわざ寄って戴いたのだ。

試合の結果も「勝利」と良好。天気も良し。ドライブ日和。何よりも大好きなお客様とのご飯は楽しい。私には楽しくて仕方が無い一日だった。


先週の接客の時に、キラキラした青春時代のお話をお伺いして、今の後輩達に対する愛情も沢山話して戴いた。
今日もやはりそんな流れで、母校の後輩がいかに頑張っているか、大阪で生き残る事がいかに意義のあることか、そんな話をしていた。

だが気がつくと、私はふっと違和感を感じている自分を自覚した。


「・・・・なんだろう?これ?」

同時にその感覚が、これまで何度か味わったことのある感覚であることにも気がついた。


「この人はなんだろう?」

私はその違和感の解明に努めた。話に頷きながら。ヒントを探す。そして感じる。
私がその違和感を感じるとき、やたらと後輩に対する愛情が覗く時だと掴める。

その時点で私は表に意識を戻す。

ああ、体育会系の方に良くある・・・男同士の凛々とした世界への愛着かしら。
そう思って相手との会話のキャッチボールに戻る。



食事も終わり、車を走らせているうちに河川敷のグラウンドが見えてきた。リトルリーグの試合を行っているらしく、色とりどりのユニフォームが飛び跳ねている。
頭でっかちなくせにきちんとユニフォームを着て一生懸命に駆け回る姿が、
何とも愛らしくて微笑ましい。

私はふっと「息子さんいらっしゃるんでしたっけ?野球はされないんですか?」と尋ねた。

彼は一瞬考え、答える。
「してた、んだよ。余り言ってないから・・・君の店の子は誰も知らないだろうけれども、丁度あれくらいの頃・・・・五年生くらいの時に交通事故で亡くしてね。」


絶句、だった。

ごめんなさい、それしか言えなかった。

いいよ、そんな謝る事じゃないじゃないか、そう言って戴いても涙が出た。

その瞬間、あの違和感の正体が掴めた。


きっと彼の息子は、生きていれば高校生くらいなのだろう。だからあんなにも高校球児達に対して思い入れているのだ。そして、気がついた。私がこの人に対して感じていた違和感のもうひとつは、器の大きさだった。

若さにそぐわない器を構えている人間は、とても辛い思いをしている人が多い。それはとても割が合わなくて、残酷なことだけれども。
私なら一生未熟者でいいから、大切な人には生きていて欲しい・・・・。


夕日が落ちる中、私は彼を丁寧にお辞儀をして見送る。
「お店じゃないんだからお辞儀なんてしなくていいのに。」そう笑われる。
だけど、そうせずにはおれなかった。

・・・・いつまでの縁かは解らない。だけれども精一杯、縁がある間は精一杯、心を尽くそう。



このお客様にも。




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