オミズの花道
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『華であれ。』
2002年09月18日(水)


客に呼び出されお迎えに行った。本当にコイツってば我が儘。許せん。書いてやる。
同伴で定時に入れるならウハウハなのだが、こいつってばもう店に入っているホステスに迎えに来いと言って外でダラダラ飲みやがる。オーナー命令だから迎えに行くのはしょうがないけれど、ルール違反なんだよ。うちはデートクラブじゃねえ。解ってんのか。

しかも早く帰って来い命令も含んでいるから気持ちも焦る。行きましょうか、の私の台詞を無視して熱燗を頼んだ時は殺意さえ浮かんだ。
あのなあ、うちらは店で飲ませてなんぼなんですよ。ふざけんな。

笑いながら、
『私をマズイ立場に追い込んだらいけないんじゃないですかぁ〜?』とボケてやった。
すると、
『良い立場にしたら何か特典でもあるの?』と聞き返してきやがる。

ぷっちぃ〜ん。軽くキレた音だ。
そう、こいつ生意気にも私に恋をしている。わざわざ休日を狙ってデートをしようとして来たりして、普段からかなりうっとおしい。

『特典の前に嫌われるんじゃないですか。』
凍りつく空気。さあこれからだぞ。用意はいいか若造め。

『ホステスに好かれたかったら店で立ち回りやすくしてあげてナンボですな。
 君を普通の女性として見たい、とか。
 店の子として関わりたくない、とか。
 そういうのって私にはかえって侮辱なんですよ。
 仕事が出来てないって言われてるのと同じ。
 オミズの女は持ち上げてくれて美しく自分を磨いてくれる男が好きです。
 常識の世界の考えとはかけ離れているでしょうがね。
 反して、貴方をお客様として見たくないというホステスも私に言わせりゃクソですな。
 愛する男からに「さえ」ふんだくってこそ華です。
 自分の男に「飲み方の華」を「持たせて」こそいっぱしのホステスです。
 外でどういうお付き合いをしてるにせよ、ね。』

沈黙の源寿司。
大将の手が止まる。
丁稚の動きがぎこちない。
隣にいるリーマン二人連れまでもが注目。


『そういう発想って凄いな。染まりきってる。』若造社長、ささやかな抵抗だ。

『では。
 例えば社長が会社の中の女性とお付き合いしていたとします。
 その方をとても好きだったとします。
 でもだからと言って仕事において甘えられたらどう思われますか?
 仕事を放って私を見て、そう彼女に言われたらどう思われますか?
 他の人より稼がない、会社に恩恵をもたらさない、
 なのに関係に甘んじて給料アップを要求されたらどう思われますか?』

隣のリーマン二人、耳がダンボになっている。

『そんな女性よりも、会社の為に稼ぎ、貴方を潤してあげたい。
 そう思う女の方が愛しいと感じるのではないですか?
 自分を本当に好いてくれている、そう思うでしょう?』

そろそろまとめよう。

『私たちも同じですよ。
 店に入ったら「仕事」なんです。
 感情とは一切関係ない。
 持ち込んだらプロで無くなる。
 だけれども、それを圧してなお、
 その一線を相手に踏み越えさせたかったら、
 気持ちを開かせる自分の「努力」は必要です。
 それはどんな業種でも一緒なんじゃないですか?
 私が働くのは色恋の世界だから見えにくいでしょうけれど。』
 
さあ、トドメだ。


『水の概念に染まりきってるのはむしろ貴方の方です。』



いかな私とはいえ、ここまで論破することは滅多に無い。職務として「してはならない事柄」はそれなりに把握している。解っていたからこそ今まではそれなりに可愛く振る舞い、猫もかぶって来た。若造社長にしてみれば頭の悪い子がいきなり田嶋女史になった気分だろう。

だけどケジメは必要。私は客でも同業者でも、いや自分の男でさえも(今は居ないけど)、自分の仕事の邪魔をする人間は絶対に許さない。

御銚子を取り、酒をそれぞれのお猪口に分け、くいと飲み干し、にっこりと笑って若造社長に聞く。

『どうされます?まだ熱燗飲まれます?』

『いや、もういいから。行こうか。』

『はい。』


店に入るともう私を目当てに通う客が二組鎮座している。案の定二組のご機嫌を取り戻すのが大変だった。
そこそこに若造社長も楽しませ、見送る。

にっこりと。
にっこりと。


さあ、後日どう出て来るかが楽しみ。
オトコノコはもまれてナンボ、ですよってな。





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