ケイケイの映画日記
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| 2026年05月20日(水) |
「ラプソディ・ラプソディ」 |

コミカルなラブコメかと思いきや、真相に辿り着くと、なかなかにハードな状況が露になります。それを軽やかに希望を見出しながら描いています。生い立ちに恵まれなかった人に、是非観て貰いたい小品佳作です。監督・脚本・出演は利重剛。
独身の会社員の夏野幹夫(高橋一生)は、叔父の大介(利重剛)と食事した後、パスポートの更新のため、役所で戸籍を取り寄せます。しかし、そこには見知らぬ女性、繁子(呉城久美)が妻として入籍していました。青天の霹靂の幹夫。取り敢えずどんな女性か知りたい幹夫は、警察に通報は後回しで、繁子探しが始まります。
えぇぇぇ!突拍子もない設定から、ザ・怒らない男・幹夫君の奇矯な判断から始まるお話しです。幾らなんでも無理があるだろうなんですが、これが段々皆の事情が露になると、するするのど越し良く咀嚼出来て行きます。言葉にせずとも、行間を読ます脚本と演出が、本当に上手い。
まず、どメンヘラな繁子。結婚していると思うと、頑張れると思ったと、ほとんど見ず知らずの幹夫との婚姻届けを出したと言う。ちょっとしたことで機嫌が悪くなり、人を試すような行動を繰り返します。暴言も吐くし嘘もついちゃう。どうしてか?幼い時に親に捨てられたのです。そして義理の仲なれど、育ててくれた祖母(大方斐紗子)から、「誰も信じちゃいけないよ。私たちは二人きりだからね」と「呪詛」をかけられ、自分といると、みんなが壊れてしまうと言う。
すごく解り易いメンヘラです。どこまで自分を受け入れてくれるか、相手を試してしまうのでしょう。それが続くと、相手は当然嫌になる。自分から幸福を手放し、そして幸福を求める。婚姻届けは誰でも良かったのではなく、折り目正しく端正な幹夫を、繁子は見染めたのです。正しくは「こんな人の妻なら、頑張って生きて行ける」です。
怒らない男・幹夫はどうか?彼にも超ド級の秘密がある。その事が怒らない起因です。誰にでも礼節は欠かさないけど、誰とも親密にはなろうとしない。そんな時、突然「妻」が現れる。押さえつけてきた気持ちに、ちょっと蓋が開いたのでしょう。繁子を探す時、彼女が綺麗な人だと聞くとニコっとし、言わなくて良いのに、「繁子の夫です」と名乗る。超変な人ですよ。
でもね、克服したとは言いながら、自分で何十個の決まり事を作って、それに沿って暮らしていたと言った時、強迫神経症だと思いました。そして繁子に負けて、キレ散らかした時、連れていかれたのは病院。それも鎮静剤を打たれて眠っている。ずっと精神科に通っているのでしょう。普通はあんなに暴れたら、真っ先に警察のはず。頑張って頑張って頑張って。幹夫は穏やかで誠実な人格の自分を、作っていたのでしょう。ホロホロしました。
大介叔父さんは、それを知っており、たった一人の身内として、甥を見守っている。最初はちょっとヤンチャな自由人かと思っていたら、職業は歯科医。それなりに幹夫の育った環境も伺えます。ゲイのゲイチ(芹澤興人)とも、「いい子なんだよ」と、偏見なく友達付き合いしている様子など、大らかな器の大きさも感じます。社会人として、幹夫が真っ当に暮らしているのも、大介叔父さんの存在が大きいのでしょう。
演じる高橋一生と呉城久美が、とても良い。高橋一生は、段々と幼く見えてくるんですよ。幼き日の事件から、きっと友人もいないのでしょう。人生の経験値は低そうで、それを人格が補っている幹夫。幹夫の役はとても難しいです。それを飄々と軽やかに演じて、とても好演です。呉城久美の、大雑把な女性らしさの無い繁子ですが、恋愛経験はあるはず。でも繁子の様な背景に有りがちな、男から男への自堕落さは感じられない、清潔感が、彼女にはあります。それは、祖母が居てくれたからだとの気がします。
そして忘れちゃならない毒島りずむ嬢(池脇千鶴)。恋心を抱く幹夫のため、お弁当を作るのに、一年かかったと言う。奥ゆかしいですね。嫌われたらと思ったんでしょう。若い時はとても可愛かったでしょう(そら池脇千鶴ですから)彼女ですから、身持ちも固く、それで男性とはご縁がなかったんですね、うんうん。そんな彼女が、幹夫が繁子の事を「元気でいるよと言うサインですかね」の言葉に、「それは違うと思いますよ。私を探してと言う意味です」と、きっぱり仰る。実は私もそう思ったんです。メンヘラ、40代の多分処女、孫のいる60女(私)が共通して同じ事を思う(願う)のは、好きな男には追いかけて貰いたい、が女性の本音なのかも知れません。監督、男性なのに素敵だわ(笑)。面倒くさいですねー。でもそれが女性ってもんなんです。
やっと繁子を見つけた時の、幹夫君の出で立ちが可愛くて。コットンシャツにハーフパンツ、そしてリュックにスニーカー。「好きだよ」の言葉もまるで中学生です。もうサラリーマンのコスプレも、大人のふりもしなくて良いんですよね。嘘から出た真の結婚ですが、心から幸せになって欲しいと願って止みません。我こそはメンヘラ、私に幸せなんて似合わない・・・と思っている、あなた!この作品を観て、絶対に幸せになるんだと誓って下さい。メンヘラ脱却は、その決意からです。
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