ケイケイの映画日記
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2024年05月22日(水) 「異人たちとの夏」




テレビ放映で観たきりで、30年ぶりくらいで観ました。「異人たち」はこの作品のリメイクですが、設定だけを貰い、新たな視点で描いた作品だと、改めて確認。元作も若かりし頃に観た時より感慨深く観られ、これも好きだと言える作品でした。監督は大林宜彦。

都会のマンションに独り暮らしの英雄(風間杜夫)は、妻と離婚したばかり。多忙な毎日を送っています。気に入らない仕事の成り行きにイライラしている時、同じマンションに住む若い女性のケイ(名取裕子)が、一緒に酒を飲もうと誘いにきますが、けんもほろろに追い返します。程なくして英雄は、何故か12歳の時に事故で死別した両親(片岡鶴太郎・秋吉久美子)と再会。当時のままの若さの両親と逢瀬を重ねる英雄。気持ちが優しくなった彼は、ケイを受け入れ、二人は深い仲になります。

この作品、設定は夏なのですね。忘れていました。今の日本列島のような灼熱の夏ではなく、打ち水や、風通しを良くして涼む夏。日本の盛夏のピーク時にあるのが、お盆。だから独りになった息子を慮って、両親は会いにきたんだと思いました。

不惑の40歳を迎えたのに、妻子とは離別。ある意味浮草稼業の脚本家。ほとんど人がいないマンションに独り住まい。これと言った趣味も友人もなし。こりゃ親も息子が心配で、化けて出てくるわね。なのに英雄は、自分が孤独であるとは、多分気付いていない。気づいていないから、ケイという「魔」が入りこむ隙になったのでしょう。

久々の親子の逢瀬を楽しむ三人。何十年間を取り戻したい息子に対して、親は至って平常心。きっと草葉の陰で見守っていたのでしょうね。手作りの物はアイスクリームだけで、母が作った食事は、結局一度も口にしなかった息子に、落胆する母。これはもう、物凄く解ります。手作りの食事は、母親としての一番の存在意義だもの。

ふとしたはずみでもつれあい、今の自分より若い母に女を感じた秀雄は、「苗字は?」と問います。「原田に決まってるじゃないか。お前と違っていたら、おかしいだろう」と笑います。私は英雄が安堵したように見えました。

これに似たシーンは、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の2で、未来から来た息子とは知らない母が、息子に恋してしまい、キスをする。そしたら怪訝な顔になり、「変な感じ。親や兄弟とキスしているみたいよ」と言います。

うちの三男の格言で、「母親より父親が好きなんて、子供が可哀想過ぎる」「世界一の父親も、普通のお母さんには負ける」というのがあってね。なかなか親子の核心を突いておりますでしょう?(笑)。秀雄にも当て嵌まるのだと思いました。

12歳と言えば、世界中で一番好きなのは、まだまだ母親のはずで、でもそれを口にするのは恥ずかしい年齢です。これからゆっくり親離れする時に、いきなり遮断されてしまった英雄。この美しい母を慕う感情が、息子であるのか、男であるのか、戸惑っているんだと思いました。忘れていた、失ってきた息子としての感情だと確認して、安堵したんですね。

秋吉久美子が絶品。気風が良く愛らしいだけではなく、時折覗かせる艶めかしさと、温かい母性も、全て共存させていました。それに飛び切り美しい!職人肌で口は悪いが情の深い父親を、この作品が映画初出演だったそうな、鶴太郎も好演。当時二枚目とは言い難い鶴ちゃんですが、美女の秋吉久美子とお似合いの夫婦でした。それだけ夫婦としての絆の深さを、二人が表現出来ていたということかな?

美しいといえば、名取裕子も息を呑むくらい綺麗でした。秋吉久美子共々、今の60代から70代の女優さんたちの若かりし頃の美しさは、本当に眩しいくらい。今の女優さんで綺麗な人は、誰かしら?直ぐには浮かばない。所謂ルッキズムは駄目ですが、美しい人は賞賛されて良いと思います。

リメイク版もでしたが、親子が再び別れるシーンが特筆もの。「お前を誇りに思う」という両親に、英雄は「僕はお父さんお母さんが思うような、良い人間じゃない。良き夫良き父でもなかった。父母が元気だったら、親孝行もしていない」と、涙ならに吐露するシーンに、涙。それを教えに戻ってきてくれたのよ、親は。息子には早逝した自分たちより、まだまだ人生を取り返せる時間があります。

鏡に映った英雄の顔のメイクや、ケイの正体が暴かれた時の血しぶきは、稚拙で苦笑しましたが、当時の技術を考えれば、まぁご愛嬌かな?稚拙にめげず、ケイの辛さは、私には伝わりましたから。

ラストがリメイク版と大きく異なり、日本の伝統の家族感、死生感が表現されています。心ばかり、でも心の籠った供養で終わるラストも良かった。親だけではなく、ケイにも感謝するは、異人たちと過ごした夏で、生まれ変わったんだなと思いました。こちらも素敵な作品でした。







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