ケイケイの映画日記
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次は絶対ハリウッド映画が観たいと思っていました。ヒーロー物ではなくて、スター俳優が出ていて、内容も大味ではなく、後味が良い王道の作品。もうこれしかないでしょう!と言うくらい、ドンピシャな内容です。アメリカ人の好きな「we can do it!」的な作品。監督はナイキのCEO役でも出演の、ベン・アフレック。
1984年のアメリカ。ナイキで営業をしているソニー(マット・デイモン)。CEOのフィル(ベン・アフレック)から、不振のバスケットシューズ部門を立て直してくれと指示される。同僚のロヴ(ジェイソン・ベイトマン)やハワード(クリス・タッカー)と共に、試案のあげく、一人の新人選手マイケル・ジョーダンに白羽の矢を立てます。
誰もが知っているシューズ、エア・ジョーダンの誕生秘話です。アフレックは「アルゴ」もそうでしたが、結果が判っている内容でも、盛り上げ方が非常に上手い。「アルゴ」はとてもスリリングだったし、今作も熱気に溢れた、当時の様子に、登場人物と一緒にハラハラしました。
ソニーはバスケットの専門分野には長けているけど、一介の営業職。フィルやロヴ、ハワードには、立場的には水を開けられているようです。しかし、臆せず彼らに物申す様子には、創業当初から苦楽を共にした者同士の、絆も感じます。ソニーは人たらし的傾向があり、誰かれ無しに、強引に無理難題引っ掛けても、結局相手に「ウン」と言わせてしまう。出世には無縁でも、人間的魅力があるのが解ります。
それと仕事への熱気。日本も当時は企業戦士たちが、昼夜厭わず仕事に邁進していた頃、アメリカもそうだったんですねぇ。ソニー以外、当初渋っていたものの、いざ話が進みだすと、アドレナリン上がりまくり(笑)。会社ぐるみでハイテンションで突き進む様子は、そんじょそこらの博打なんか、太刀打ち出来ないよな。こっちは真っ当な仕事なんだもの。ワーカホリックになる人の気持ちが解りました。
でもそこを賛美しているわけではなく、ロヴが離婚した理由も、多分仕事ばかりで、家庭を疎かにしていただろうと、匂わせている。それでも娘と同じくらい会社を愛していると語るロヴ。真摯に仕事に向かう幸福感と共に、切なさを感じます。
馴染みのコンビニの黒人店員から、黒人家庭は母親が全て仕切ると聞くや否や、旧知のジョーダンの代理人デヴィッド(クリス・メッシーナ)を飛び越し、直談判に行くソニー。仕事愛と共に、ジョーダンの母のデロリス(ヴィオラ・デイビス)をしっかり描いた事が、この作品に厚みをもたらしています。
「家庭に尽くす事は、自分の悦びであり幸せである」と、言い切るデロリス。その言葉は、夫や子供の、彼女への敬意と感謝があるからこそ。家族はデロリスに依存しているのではなく、信頼しているのです。だからこそ、勝手に話を進めず、夫や息子の意見にも耳を傾ける。お母さんが家庭を仕切っているのは、何も当時のアメリカだけではなく、今も世界中にあります。それも幸せの一つだと現代の女性たちが認め難いのは、家族が信頼ではなく、依存だったり、家庭からの逃避だったりするからではないかしら?主婦だから当たり前だと、敬意も感謝もなければ、私たちは辛いのです。
この感想を引き出したのは、デロリスをデイビスが演じた事に尽きます。デイビスには、聡明で威厳があり、器の大きさを感じる特性があります。後々に彼女が提示した、当時としては掟破りの条件も、頭が良いなと思わせる。普通に演出したら、業突張りに見えちゃうはずです。スポーツ選手が活躍するのは水物だし、怪我も付き物。引退後の息子の生活も考えていたのでしょう。でも一番は、息子は絶対活躍すると信じていたはずです。損はさえまへんで〜という自信ですね(笑)。
最後に本当の登場人物のその後が挿入されます。ナイキの面々はみんな出世したのに、ソニーのその後は、あまり判らず。エア・ジョーダンの一番の立役者ですが、彼がこの作品を楽しんでくれていたら良いな、と思います。本物のジョーダンも、最後にちょこっと映ります!
華やかな熱気に包まれた、爽快な作品。どなたにもお勧めです。
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