ケイケイの映画日記
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2023年04月18日(火) 「パリタクシー」




「梅安2」を観ようと上映時間を観ていたら、二本観られそうだったので、本当に久々のはしごでした。う〜ん、観て良かった!素敵でほろ苦い、大人の寓話です。監督はクリスチャン・カリオン。

借金はあるは、免停寸前だはで、人生ドン詰まりのタクシー運転手のシャルル(ダニー・ブーン)。92歳の老婦人のマドレーヌ(リーヌ・ルノー)を高齢者施設へ送る仕事が入ります。不機嫌をまき散らすシャルルを宥めるかのように、マドレーヌは自分の数奇な人生を語り出します。

まずは撮影当時、マドレーヌと同じ年だった、ルノーが素晴らしい!後半で当初の不機嫌どこへやらで、すっかりマドレーヌに魅了されたシャルルが、妻との電話で、「えっ?美人の客かって?92歳の美しい人だ」と、語りますが、全くもってその通り!マドレーヌとリーヌ自身が同化しているのかと思う程、自然体で余裕たっぷりの演技です。そして、目が童女のようなんだなぁ。

年齢が行くと、水晶体が濁って、綺麗なブルーやグリーンの瞳の人も、グレーになります。それが穏やかで済んだブルーのまま。これまでの人生で、たくさんの物を観てきて、花も嵐も不越えた後の瞳の色こそ、彼女の今の心を映しているのかと感じます。

マドレーヌの人生は波乱万丈。男性に翻弄されそうになるのを、必死で踏み止まった人生でした。しかし、昔(と言っても70年前)は、本当に女性の人権は、フランスに置いても、あってないようなもんだったんだな。「昔は離婚という概念はなかった」「夫に殴られるくらいで、別れるとは言えなかった」。離婚率の高い今のフランス女性は、聞いてびっくりだと思います。人生の後半での、その教訓の使い方も、しなやかで強く、素晴らしい。

当初は現在の境涯に不満ばかりのシャルルが、マドレーヌのウィットと機転に助けられ、包容力=老女力に敬意を感じると、あら不思議。仏頂面は終始笑顔に変わります。「父が教えてくれたの。一つ怒ると一つ老いて、一つ笑うと、一つ若返るのよ」。この言葉、頂きました。シャルルは10歳は若返っていました。

この出会いを一期一会にしたくなかったのでしょう、シャルルはマドレーヌを施設に届けた後(道行きを楽しんだので、大幅の遅刻)、「タクシー代はまた会いに来た時に貰うよ」と言います。シャルルのマドレーヌを慕う心が何をもたらしたか?こうなるだろうとは思いましたが、それでも温かで美しい幕切れでした。

フランスの街並みが絶景との触れ込みでしたが、これは私にはあんまり響かなかったなぁ。ロケが悪いと言うのではなく、私は自覚はなかったけれど、自然の風景の方に心が動くみたいです。

何気なく選んだ作品ですが、大いに笑い、気が付けば泣き、人生は美しいと感じさせる作品です。


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