ケイケイの映画日記
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2023年04月11日(火) 「仕掛人・藤枝梅安2」




前後編の後編です。前作がめちゃくちゃ気に入ったので、早速観てきました。今回は仕掛人たちが、何故この煉獄に身を置くようになったのか、その過去が描かれています。今回も深い闇の中に、血の通う、哀愁に満ちた情感が広がります。今回も素晴らしい仕上がりです。監督は引き続き河毛俊作。

梅安(豊川悦司)の師匠である津山悦堂(小林薫)の墓参りのため、彦次郎(片岡愛之助)と共に、京へ向かった梅安。旅の途中で、彦次郎は因縁深き仇(椎名桔平)を見かけます。直ぐに仇を打つと言う彦次郎。しかし梅安にはそうとは思えず、内偵をします。平甲斐守の家臣・峯山又十郎といい、悦堂と父との縁を語る又十郎を、別人だと確信する梅安。そんな時、京の元締(石橋蓮司)から、浪人集団を率いて市中で狼藉を働いている男・井坂惣市(椎名桔平二役)の仕掛けを依頼されます。

今回も息の合った相棒ぶりを見せる梅安と彦次郎。又十郎の事も含め、初めて梅安に自分の身の上話をする彦次郎。二人が二人とも、親に恵まれず。彦次郎はささやかな幸せですら、井坂に奪われてしまい、天涯孤独の身の上と判ります。苦労の仕方は違えど、この二人の強い絆の源は、自分と同じ孤独を、相手にも感じ取っていたのかも知れません。

幾重にも張り巡らされた因縁。彦次郎と共に仇を追う梅安は、自分を仇と狙う、同じ仕掛人の半十郎(佐藤浩市)を呼び込んでしまう。そして半十郎との顛末が、梅安と言う男を、くっきり浮かび上がらせます。

今作は前作以上に梅安がどういう男か?描いています。るい(篠原ゆき子)の誘いに乗り、彼女に溺れていく若き日の梅安。それは若さ故、と言うのもあったでしょうが、彼自身も、女に溺れる自分を持て余している。自分を捨てて行った母親の事から、自分にはそんな感情が湧かないと思っていたと吐露します。

命からがら、江戸戻ってきた梅安は、真っ先におもんの(菅野美穂)元へ。荒ぶる魂を鎮めるため、女の肌が必要なら、途中の岡場所でも良いはず。しかし梅安は、おもんでなければ、自分の心身が鎮まらないのを知っているのです。るいとは、死んでも良いと思った梅安。しかしおもんには、「死にたくなったから、お前に会いたかった」と言います。これは生きたい、と言う意味でしょう。溺れた女とは死が待つが、情けを持つ女とは生きたいのです。おもんに情は持っても、愛は持たないのは、仕掛人としの分を知り、おもんを幸せには出来ないと、己を律しているのだと思います。

朝に家に戻れば、そこには下女のおせき(高畑淳子)が、主人の帰りを待っていました。自分が留守の間も、毎日朝餉の支度をしていたおせき。「おせき、明日も頼む」と、にこやかに彼女を見送る梅安。おもんと睦み死から逃れ、自分を待つおせきの笑顔に励まされ、明日も明後日も迎えたいと誓ったのでしょう。梅安は生きるために、女が必要な男なのです、きっと。それが叶わぬ身の上なのが、とても哀しい。

半十郎は、何故梅安を狙うのか?武士としての面目ではなく、男としての嫉妬だと思う。「梅安はお前の事など、どうでもいいのだ」とおもんに告げるも、「そんな事知っています!あの方を好きだと思う気持ちが、私の生きる糧なのです」と切り返されます。男として、敗北感がいっぱいだったでしょう。半十郎が道を過ったのは、己の嫉妬心に溺れたからだと思います。

かように、熟年の美丈夫男性たちが、重厚な時代劇で、女に溺れたり嫉妬したりで堕ちていく様が、入念に描かれるなんてね、もうウハウハしてしまった(笑)。

俳優陣は全てが好演。椎名桔平は二役も無難に演じ分け、取り分け真面目で誠実そうな又十郎の中に、卑小さとしたたかさを、ちゃんと忍ばせていました。篠原ゆき子は、綺麗ですが目を見張る美貌ではない。ふしだらも感じさせず、それ故、女性の持つ魔性性は、女性なら誰しも持つのかも?と感じました。石橋蓮司の軽そうで、その実、仕掛の掟に厳格で、懐も深い元締めを、貫禄たっぷり演じています。その愛人に高橋ひとみ。いやー、綺麗!艶やか!私と同じ年なんですよ、この人。若い頃より今の方が綺麗って何事?美貌の秘訣を是非聞いてみたいです。

小林薫の悦堂も、ほんの少しの出演なのに、物凄く良かったです。慈悲と滋味に深い人柄なのが、手に取るように解ります。「腕が上がって、患者が良くなっていくと、鍼が面白うて仕方がなくなる」と語る言葉は、面白い=悦びであったのだろう人なのでしょう。

唯一気になったのは、半十郎の相棒の佐々木を演じる一ノ瀬颯。彼だけ背景がまるで描かれない。仕掛でもないのに、半十郎の因縁に生死をかけるのは、梅安と彦次郎のように、強い絆があるはずです。彼、殺陣はとても良かったです。主役が鍼と吹き矢なので、華やかな殺陣を担う役柄は重要なはず。前作ではそれが早乙女太一で、殺陣も背景も存在感もバッチリでした。戦隊モノ出身だそうですが、背景なしで演じるにはニヒルさも存在感も、まだ足りない。若さのせいでしょうね。せっかく「颯」なんて時代劇向きの名前なのだから、もっと大事に育てたらいいのにと、ちと可哀想でした。

梅安と彦次郎の仕掛けは、ドラマのような荒唐無稽さはなく、知恵を絞り、時間をかけ、一瞬で仕留めるもの。仕留める様子は華麗さはありませんが、緊張感がじっくり持続するので、殺しの場面は、カタルシスを強く感じます。

重厚な作り込まれた時代劇の中に、情感がたっぷり漂っています。「2」だけご覧になっても、充分楽しめると思います。両方良いですが、私は「2」の方が好きです。






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