ケイケイの映画日記
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2022年07月12日(火) |
「神は見返りを求める」 |
ポランスキーの「赤い航路」を思い出しました。愛憎と言う表現がぴったりの恋愛映画です。監督は吉田恵輔。
不人気ユーチューバーの優里(岸井ゆきの)。合コンで知り合ったイベント会社勤務の田母神(ムロツヨシ)にお願いして、編集を手伝って貰うようになります。相変わらず不人気だけど、二人は友達以上恋人未満のような関係を続けながら、良きパートナーとなる二人。ある日田母神の同僚梅川(若葉竜也)から、人気ユーチューバーを紹介された優里は、彼らのアイディアが当たり、一気に人気ユーチューバーの仲間入りをします。しかしこれが、二人が壮絶なバトルを繰り広げる切欠となるのです。
前半は、友達以上恋人未満的な二人のやり取りを観て、恋愛関係になって、そののちバトルが始まるのかと思っていました。でもチャンスは幾らでもあったのに、タイミングがずれる。優里は好意を隠さないのに、私は田母神がダメだと思うなー。優里が決死で下着姿になった時や、ボディペイントの後、喜び勇んで報告した時がチャンスだったのに。きっと女性関係で苦い思い出があるのでしょうね。
人気者になるにしたがって、垢抜けていく代償のように、軽薄で嫌な女になっていく優里。ある事で借金まで背負いこんで、気持ち悪いおじさんに成り下がる田母神。それでもお互いへの憎悪をぶちまける中に、どうしようなく愛情を捨てきれない部分の方が、観ていて心に残るのです。愛の向う岸は無関心です。そうなれない二人の気持ちが、過激な暴露合戦の中に伝わってきて、これは愛をこじらせた男女のお話しなんだと、腑に落ちるのです。凄いわ、監督。
サイン会で優里が自分たちのやっている事は刹那的で、歴史には残らない的な事をファンの少女に言うと、その子は「歴史に残らなきゃいけないんですか?」と答えて、思わず優里も私も狼狽える(笑)。
よくよく考えたら、普遍的に残るものは芸術で、娯楽にそれは必要ないのかな?芸術ではなく、お金儲けとして娯楽を提供していて、それでいいのかも。 ユーチューバーの悪しき側面をこれでもかと描き、批判しているように感じる今作ですが、このセリフがとても印象に残ったと言うのは、監督に迷いがあるのかしら?
あのラスト、私は「清作の妻」みたいになって欲しい。田母神、死にませんよ。思う存分憎しみをぶつけ合った後、私は愛が残ると思います。こちらも手負いの優里が、田母神の手を引いて、これからの人生を歩んで行ってくれたら、嬉しいです。
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