ケイケイの映画日記
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2022年06月26日(日) |
「メタモルフォーゼの縁側」 |
すごく楽しかった!所々設定が上手く生かされていなかったり、疑問に思う箇所はあれど、女性同士の年の差の友情を、お互いへの敬意と尊重で、最後まで描き切っていました。全年齢へ向けた、秀逸なガールズムービー。宮本信子演じる老婦人に、私も大いに啓蒙されました。監督は狩山俊輔。
書店でアルバイトする女子高生のうらら(芦田愛菜)。学校ではどことなく浮いている彼女の心の拠り所は、BLコミック。ある日アルバイト先の店で、BLコミックを購入する老婦人の雪(宮本信子)と出会います。表紙の美しさに魅かれて、内容を知らずに購入した雪は、初めての体験に久しぶりに瑞々しい心のときめきを感じます。話し相手になって欲しいと雪からお願いされるうらら。ここから二人の純粋で暖かい交流が生れます。
最近知ったのですが、芦田愛菜と自分を比べて辛い、と言う若い子が多いのだとか。「アンチ」ではないのです。頭脳明晰、容姿にも恵まれ、人格的にも高い彼女と自分を比べて、辛いのだとか。愛菜ちゃんは親御さんもしっかりされている感じなので、多分学費も彼女が自分で叩き出しているかも。あー、成る程。愛菜ちゃんは確かに容姿も良いですが、それは美少女と言うより、身だしなみが良く、人柄が表れているので美しいのです。お金持ちで絶世の美少女が完璧なのより、確かによほど身に沁みて辛いですよ。
そんな彼女が演じるのが、「辛い方」。引っ込み思案で友人も少ない自分が超えられない様々な壁を、幼馴染の紡(高橋恭平)の彼女英莉(汐谷友希)が、軽々超えて行くのを見て、心がざわざわするうらら。解るよ、うん解る。特に英莉がBLコミックを友人たちと読む様子には、「ずるい」と勝手に嫌悪を感じます。自分だけの秘密の花園に、土足でずかずか上がられた気になったのですね。英莉は意地悪な子でもなく、むしろ自分の将来に夢を抱いたしっかりした子なのに。世間の風評を知ってか知らずか、自身とは要素の薄いうららを、しっかりと「地味に」演じる愛菜ちゃん。うららを体感することは、女優としても女子高生としても、愛菜ちゃんにプラスになると思いました。
私が目を見張ったのは、雪の自由さと好奇心。これもすごく理解出来ました。手に取ったコミックが男性同士の恋だと知り、「あら!」とびっくりしますが、心をときめかせる初々しい様子の可憐な事。人生の経験値から、「こうでなければいけない」の偏見が増すのも減るのも、その人次第。孫ほどの年のうららに、「お友達になって」とニコニコ言える図々しさも可愛く見えるのは、これも老人力の一つかと思うと、後を追う立場の私も、俄然ファイトが湧くのだな。
二人の友情を生んだコミックの作者・コメダ優(古川琴音)が、雪には語りかけたのに、うららは無視したのは、老女の雪が、その年代には理解されないBL作家の自分のファンで、同人誌に携わっている事に勇気を貰えたから。連載の展開に行き詰まり疲弊する優を描いていたので、若いうららには、創作は辛いのだと、静かに表現していたのだと思います。
以前出産一か月で子供を保育所に預けて復職すると言うママさんに、「法律では最低三か月取得できると思うよ」と私が言うと、「うーん、それは雇われる側だと思うんですよ」と答えられ、「???へっ?社長さんやったん?」「まあ、頼りないんですが、一応」。「そうやったん!有能なお母さんの元に生まれたんやから、赤ちゃんにも我慢して貰い!その我慢を無駄にしないようにしたらええねん!ここで仕事辞めたりしたら、ママも赤ちゃんも可哀想やで!」と、叱咤激励しまくると、そのママさん、「わーん、ケイケイさん!誰も彼も私の事、一か月で子供を預けるなんて酷い母親みたいに言うんです。親世代で励ましてくれたの、ケイケイさんだけです。私、頑張ります!」と言われた事を思い出しました。
うららは母一人子一人の家庭です。母子の間柄は良好ですが、様々な思春期の葛藤は、独り親で頑張る母には心配をかけたくなくて、言えないのです。BLだけではなく、雪との交流が、うららにとって滋養となっている様子に、何だが心がほっこりして、目頭が熱くなりました。人を励ますのに、年齢や人生の経験値は、味方してくれるのだな。そして雪もうららの存在に、潤いの欠けた生活に、また新たな希望を抱きます。友情とは年齢に関係なく、お互いを思いやり、共に成長する事ですよね。私も雪のようになろうと思います。
印刷屋の沼田(光石研)は、あれほど頼りにするなら、書道教室の教室の生徒ではなく、甥や親戚などの方がしっくりくるし、幼馴染の紡の存在も中途半端で、上手く機能していたとは言えません。でもまぁ、雪とうららの美しき友情に免じて、目を瞑りましょう。
「本が二冊も売れたのよ。凄い事よ」 「ファンレターを好きな漫画家に送りたかったけど、字が汚くて出せなかった。だから書道を習ったの。それで今では書道の先生よ。人生先は何があるのか、分らないの」。
うららはリュックを背負って、走る姿がとても印象的でした。青春とは走る事なのかと、思うくらい(笑)。走って走って走った先は、広大な未来が待っていますように。若い人たちを応援せずにはいられない作品でした。
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