ケイケイの映画日記
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2022年07月13日(水) |
「ベイビー・ブローカー」 |
ガンちゃんがカンヌで主演男優賞を取ったので、仕方ないなー的に観てきました。何となく「万引き家族」を彷彿させるプロットに、私的に不安がいっぱい。今回も2/3はそこを引きずり、こりゃダメだと思っていましたが、あるシーン以降、解釈が変化し、今回はそこそこ楽しめました。監督は是枝裕和。
ストーリー的には、色々雑です。刑事のぺ・ドゥナが、寒空の中、赤ちゃんポストの外に置かれた赤ちゃんをポストに入れたのは絶句。いやいや、いくら現行犯で赤ちゃんブローカーを仕留めたいからって、赤ちゃんの命が大事だと思うなら、ここは普通に抱き上げて救出でしょう?そしてあんな杜撰な方法での赤ちゃんの売買では、捕まえられない警察の方がバカに見えちゃう。
その他も、ソン・ガンホに借金の追い立てをするやくざと、赤ちゃんの父親の妻との関係も、その後のストーリーを繋げるための「プロットのためのプロット」で適当だし、だいたい不義の夫の子供を育てたいと言う妻の気持ちが解らない。怖そうな女だったから、育てるふりして虐めようって言うのか?
カン・ドンウォンの役柄も、40回った彼がやる役柄かな?20代の子がする役だと思います。ドンウォン自体は良かったですが。それとついてくる子供!どうしても疑似家族を描きたいのね、監督は。テーマにもストーリーにも、別にこの子はいらないと思いました。
とまぁ、途中までは散々な感想でしたが、それが赤ちゃんの実母であるソヨン(イ・ジウン)が、ガンちゃんに乞われて、ドンウォン、付いてきた子供、そして自身の生んだ赤ちゃん一人一人に、「生まれてきてくれて、ありがとう」と、語りかけるシーンが、物凄く心に沁みて、号泣しました。どんなに若くとも、母なる者に生を肯定される事は、どれほど喜びを与えるのか、端的に表した神々しいシーンだと思いました。
そして、捨てたはずの我が子を育てているうちに、母として人として成長していくソヨン。母性は育つものです。ソヨンは赤ちゃんにミルクを与えていました。整った環境では生めなかったため、ストレスで母乳が出なかったのかと思います。そこへ名乗りをあげた「母」は、実子を亡くしてすぐのため、ソヨンの子に母乳をあげたいと言う。その姿を見て、ソヨンはこの人に自分の子を託したいと思ったんじゃないかな?
私は母乳信仰ではなく、出なければミルクでいいと思っています。でもね、赤ちゃんにおっぱいって、無敵なんですよ。空腹を満たし、不安を解消し、寝かしつけの時にも大活躍。自分の子に、そういう体験をして欲しいと思ったんじゃないかな。寂しげなソヨンの横顔を見て、そう感じました。
ぺ・ドゥナ、いい感じにやさぐれて老けてたなぁ。あの疲れた感じは、仕事だけではなく、不妊治療に時間とお金を費やし、諦めた直後だった気がする。だから赤ちゃんの売買が許せなかったのかと思います。
子を思う母と、永遠に母を追う子供。そして母になる事を切望し諦めた女。母性を描いて振り回されず、誠実に深々と描けていた事で、今回はバカスカある失点より、そちらが残り、後味の良い鑑賞でした。
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