ケイケイの映画日記
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凄く良かった、びっくりしました。監督の岸善幸は、「あゝ、荒野」で非常に感銘を受けた人。それで観ました。表層的に観ても普通に感動、掘り下げるとより深い感動が得られ、どちらもお安くはない感動です。力作です。
コンビニのバルバイトの傍ら、保護司を勤める阿川佳代(有村架純)。前科のある人々に寄り添い、懸命に保護司として活動する佳代。次の担当は殺人で服役していた工藤誠(森田剛)。自動車修理工として生真面目に働く誠と、信頼関係を築いていました。しかし、もう少しで保護観察が終わる寸前、誠は姿を消します。折しも殺人事件が起こり、重要参考人として浮かび上がったのは、誠でした。
私は有村架純の事、同年代の二階堂ふみや黒木華と比べて、どこかしらアイドル女優のような気がして、後手に位置すると感じていました。売れっ子女優になって、どんどん洗練されていく二人に比べ、演技を評価されることもなく、愛らしいけど、いつまでも垢ぬけないのは、長所であり短所でもあると思っていました。
それが今作では、長所として生かされていました。常にきちんとひっ詰めた髪は、しもぶくれでエラの張った輪郭を強調し、地味な装い、矯正のためだけの眼鏡、若い女性には似つかわしくないお洒落さゼロの家。しかし、形振り構わず前科者たちのため、身を粉にする佳代は、輝いていました。彼女の持ち味である「垢抜けなさ」が、佳代の一生懸命突っ走る熱意に見事にマッチしていて、女優として立派になったんだなぁと、好演にとても感動しました。
誠は子供の時、母親(仲村優子)を義父(リリー・フランキー)によるDVで殺害されており、弟実(若葉竜也)と二人、児童容疑施設で育ちました。語られる生い立ちは辛苦を極めるもの。それが彼らの人生に深い影を落としている。長い間連絡も取れなかった誠と実の様子から、自分一人生きて行くのが精いっぱいで、施設を出てからの支援はなく、それが彼らから安定した居場所を奪っていると感じました。
作品は連続殺人の犯人探しのミステリーではなく、何故佳代は保護司をしているのか?何故前科者たちは罪を犯したのか?前科を負った者は、罪の浅深に関わらず、構成する権利があるのか?を、観客に問いかけていたと思います。
熱心なあまり、保護司としての立場から逸脱した行為の多い佳代。あるとき観察中の元詐欺師と禁じられている酒盛りをし、眠り込むんでしまいます。しかし、それは誠の事で元気がない佳代を慮っての元詐欺師の思いやりでした。若くて可愛い佳代に手を出す事もなく、何も盗まずお暇した元詐欺師は、佳代との信頼関係の方が大事だったのですね。
元保護観察だったみどり(石橋静河)は言います。「佳代ちゃんの長所は弱さだよ」と。正論ばかりで自分を追い詰める人々より、よほど佳代の無手勝流の指導の方が、心に沁みたと言います。自分の全てをさらけ出し、一緒に泣いたり笑ったりする人が、彼らには居なかったのでしょう。そして佳代も彼らによって、磨かれていったのだと思います。人と関わると言う事は、一方通行では、いけないんだな。
森田剛は、常に社会的弱者としての生き方が染みついている誠を、寡黙な演技で好演。実との再会後、兄としての情を掻き立てられ、間違った方向に進む様子は、心情が理解出来るから尚、とても辛かったです。「ヒメアノール」を鑑賞後、これから売れっ子だなと思っていたのに、そうでもなかった森田剛。本人曰く「仕事を選んでいた訳ではない。そもそも仕事が来なかった」と言う一文を読み、びっくり!ビックな妻の力を借りてでも良いので、演技者としての森田剛が、もっと観たいです。
若葉竜也は安定の好演。誠と別れてからの背景を語る場面では、私を含めて場内号泣。ひとえに彼の熱演あってのものです。いつ見ても上手くて感嘆です。
佳代が保護司を志す事に深く関わっている刑事の滝本に磯村優斗。清々しく熱血の刑事ぶりですが、佳代と対峙する場面では、素の滝本が絶妙に現れます。佳代の家での場面の、心の底に秘めた佳代への複雑な思いが迸る様子が、一番 印象深いです。ラブコメではなく、真摯なラブストーリーの磯村優斗が観てみたい。
大人になった誠が義父を観た時、「あんなに小さかったのか・・・」と囁く姿が、とても印象的でした。母を奪われただけではなく、健やかな子供時代も、義父に奪われた兄弟。「罪を犯した全ての人は、平等に更生する権利がある」との信念を持つ弁護士(木村多恵)の言葉は、正直私には賛同出来ません。しかし、「観る事が出来なかった」と言う四人家族の幸せだった頃のビデオを、捨てずに持つ義父からは、自分の罪を悔恨する様子が伺えました。
義父は自分の悔恨を誰かに打ち明けたいと時が来るでしょう。それがもし自分だったら、責めずに自分の言葉で会話が出来る、それくらいの度量は身につけなくちゃなと、娘のような佳代から、教えて貰った気分です。佳代と一緒に、熱くなって下さい。
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