ケイケイの映画日記
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2019年10月27日(日) |
「108〜海馬五郎の復讐と冒険〜」 |
主演の松尾スズキ監督作は好きな作品もあり、結構楽しみにしていました。過激な性描写も多いのだけど、何度もクスクス笑ってセンチメンタルな気持ちになったりもして、出来とすればそれなりなのだけど、今回も楽しみました。
作家の海馬五郎(松尾スズキ)には、元女優の恋女房綾子(中山美穂)がいます。しかしSNSで綾子が、熱を上げるコンテンポラリーダンサーのミスター・スネークとの浮気を告白。海馬の耳に入り、彼は激高します。綾子と離婚すれば、財産分与で半分持って行かれる事に納得いかない海馬は、資産を減らすべく、金を使って女性と関係を持つ事を決心。数は108。それは綾子の日記についた、イイネ!の数でした。
108って言ったら、煩悩だろうが、普通(笑)。それが、イイネ!数だけなんて、何と浅はかな思考。浅はかだけじゃなく浮気妻に持っていかれるくらいならと、滞納していた養育費を、前妻(LiLiCO)と息子(栗原類)に三年間分まとめて渡そうとして、断れる始末。父親の余りの幼稚さに、思わず涙する息子に、俺を苦しめて辛いのだと見当違いしたり、友人の女優三津子(秋山奈津子)とセフレだったりと、なかなかの卑小さとクズっぷり。
綾子に贅沢三昧させていたなら、養育費払えっての。ねちねち陰険で器の小さい男だけど、妻を愛していたのは間違いなさそうなので、当初は可哀想と思いましたが、見ているうちに、こんな男じゃ浮気の一つや二つしたくなるわと妻に同情しました。(→私には珍しい感想)。そして死の淵の父親(福本清三)に会おうともせず、108を達成すべく、商売女(それも激安ばっかり)とセックス三昧の真っ最中。もうクズクズクズ!
しかし、バカバカしさの中に落とされるジョークの数々に、クズクズ言いながらガハガハ笑っていた私なんですが、バカの中にかまされる人生の哀愁の不条理の数々に、段々感傷的になってきちゃって。
元大女優(だったと思う)三津子は、若い男と四度目の結婚をしようとして、皆に非難されていると言う。「お金目的だって言うの。それでもいいのよ、死ぬ時独りより・・・」。こんなに正直に言われると、非難できないわ。
海馬の妹(坂井真紀)は、夫の死後一人でレストランを切り盛りしながら、病床の父親の世話をしている。なのに父親は、孫や海馬には優しい言葉を残すのに、娘にかけた言葉はしょうもないもので、礼の一つもない。激高する妹の気持ち、心底わかるわ。私の母も癌になり死ぬまでの一年半、結婚して間もなく、幼児の年子を育てている私が、キーパーソンからお金の算段、身の回りの世話まで一手に引き受けていたのに、心配するのは独身の妹の事ばかり。その時は必死だったけど、後になると本当に馬鹿々々しかったですよ。
この二つ、わかるなぁと共感する人も多いと思います。
そして最初のうちこそ、まだ楽しんでいた風の海馬なんですが、段々セックスが苦行に見えてくる。そこに快楽も愛もないからなんでしょう。醜悪なフリーセックス現場を見せられた綾子は、あきれて見限るのかと思いきや、「あなたをこんなにしたのは、私なのね・・・」と反省までする。えぇぇぇぇ!
綾子の浮気には裏がありました。美貌の衰えに対する恐れは、夫の愛情が不確かだったからじゃないかなぁ。こんな薄情な男だもん、自分も捨てられるかもと不安だったんだよ。海馬は如何に妻が浪費家で、妻に金を盛大に使った結果がこれかと怒り狂いますが、愛情ってお金じゃないのよ。綾子の腕の刺青を観た時、私も気付かぬ海馬に、この夫婦長い事セックスしていないのだと思いました。編集者に台詞で言わせたのは、意図的だと思います。海馬の独りよがりで雑な愛し方は、妻を不安にさせただけ。だから妻は、その渇きを癒すのに、浪費したんだな。
商売女とのセックスで、海馬の脳裏に浮かぶのは、誰かに抱かれる綾子。それはそれは魅惑的です。一晩15万の女も、綾子の足元にも及びません。商売女の数々を、記号的に扱ったのも意図的で、愛する妻との対比だと思います。
中山美穂ね、私は好きじゃないんです実は。若い頃はまだしも、中年以降は貧乏臭くなっちゃって、何でいつまでも主役で使われるのか、私的に謎でした。 それが今回、全てが美しい!監督ファンなのかしら?元大アイドルたる、女としての底力を見る思いでした。海馬はこの内面からにじみ出る美しさではなく、表面の美しさしか、見ていなかったのですね。
ラスト、えっ?ここで終わりですか!と思いましたが、自分で考えて下さいって事ですか。私は海に飛び込むと思います(笑)。運良く岸までつければ、新しい人生を妻と生きればいいし、ダメなら妻に保険金が渡るから、どっちみち妻は得するじゃない?だから頑張って飛び込んでね、海馬先生!(笑)。夫婦と言うのは、年齢年月に関らず、切ない間柄ですよ、と言いたかったのかと、監督は。馬鹿馬鹿しさの中に、色々哀愁漂う、ヘンテコな作品でした。
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