ケイケイの映画日記
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2018年09月09日(日) 「寝ても覚めても」

観て一週間経つのに、まだ余韻が残る作品。震災を受けた東北まで映るのに、何故かヨーロッパの作品を観ている感覚がありました。タイトル通り、ヒロインと共に夢うつつの恋心が体感出来ます。とても素敵な恋愛映画です。監督は濱口竜介。

大学生の朝子(唐田えりか)は、ふとしたことから麦(ばく・東出昌大)と付き合うことに。掴みどころのない彼に、いつも不安な気持ちを隠せない朝子でしたが、やはり麦は行き先も告げず、朝子の前からいなくなります。その二年後、誰にも連絡せず大阪から東京に出てきた朝子。しかし勤めている喫茶店の客に、麦そっくりな亮平(東出昌大)が現れます。動揺を隠せない朝子を、最初不思議に思うものの、段々惹かれる亮平。東北の震災がきっかけとなり、二人は付き合う事になります。それから五年後、同棲中の二人は、結婚することに。しかし大阪時代の友人春代(伊藤沙莉)から、麦が海外でモデルとして成功し、帰国していると聞き、朝子の心は波立ちます。

本当に存在するのかと思うほど、実態が掴めない麦。素朴で愛らしいけれど、常にふわふわと浮遊しいているような朝子とは、お似合いでした。そして朝子は、劇中ずっとふわふわ。がしがし現実を歩む、他の登場人物たちから、この二人は完全に浮いています。

麦とは対照的な亮平。姫路から東京への転勤で知り合いも居ない中、誠実に仕事をこなし、毎日を丁寧に生き、東北へのボランティアも定期的に行く、実直明朗な好青年です。麦に似ている事から付き合い始めた事に、後ろ暗さを感じつつも、亮平への愛情を育てる朝子。しかし。

朝子の本当の気持ちは、彼女自身もわからなかったのでしょう。常に麦を恋しい気持ちが、親友の春代にも居所を知らせなかったのに、麦の遠縁の岡崎(渡辺大地)には、年賀状と言う形で、自分の居場所を知らせる。麦に自分を探して欲しかったのでしょう。言い訳を考えながら、押さえ切れない自分の心。亮平には大変不誠実なのですが、この女心、私は叱りたくない。

常識では不安定な麦より、超安定の亮平を選ぶべきなのは、火を見るより明らか。しかし恋と言う幻は、そんな常識、知ったこっちゃないんだなー。朝子のルームメイトのマヤ(山下リオ)と、亮平の同僚串橋(瀬戸康史)が、最悪の出会いながら、本音からスタートした事が功を奏し、さっさとゴールインしたのに対して、五年も同棲をしているのに、まだお互い遠慮がちな亮平と朝子とは、対照的です。

惚れた弱みか、頭のてっぺんから爪先まで、朝子を包容力と言う名の心配で包む亮平。今回の「踏み絵」は、この二人の将来にとって、必要だったのだと思います。

七年間の夢うつつから、朝子を現実に引き戻すのが、ボランティアに通っていた東北の海だと言うのは、秀逸。震災の事は、原作にはないそうですが、朝子を目覚めさせるのに、これ以上の場所はないです。岡崎の身の上に起こった事も歳月を感じさせるし、岡崎の母(田中美紗子)の、いたずらっぽい囁きも、朝子の感情にエールを送ったはず。そして亮平の怒り。そう、きっと朝子は、常に心の底に麦が居た自分を、亮平に一度怒って欲しかったのだと思います。だって彼は、猫一匹捨てられない男なんですから。

唐田えりかは、最初棒読みに苦笑しましたが、透明感と愛らしさは、朝子にぴったり。棒読みより、存在感を支持したいです。東出昌大は大根の誉れ高いけど、そうかな?私は着実に成長していると思います。私はこの手の大味で誠実な木偶の坊が大好きで、東出昌大も、デビュー当時から好きでした。私のイメージする彼に近い亮平は、とても眼福でした。

この作品は、幻のような恋との決別を、愛する意味を理解する事で、描いているのじゃないかしら?よく結婚と恋愛は違うと言いますが、それは結婚は条件が優先されて、愛情が必要ないのではないです。大事なのは、愛情を育てられる相手かどうか?じゃないかなぁ。私は結婚にも、必ず愛情は必要だと思っています。


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