ケイケイの映画日記
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2017年08月30日(水) 「幼な子われらに生まれ」




重松清の原作が、20数年前に書かれたとは思えぬほど、「今」の作品でした。登場人物に皆に一言言いたくなったり、同じように涙したり共感したりで、気分は大忙し(笑)。不器用な大人たちに声をかけたくなっても、スクリーンにはかけられず、気分は傾聴ボランティア。しかし、見守った甲斐あって、もがき苦しんだ人たち皆、一段階段を上ったようです。監督は三島有起子。秀作です。

中年サラリーマンの信(浅野忠信)は、妻奈苗(田中麗奈)とは再婚同士。奈苗の連れ子、薫(南沙良)と美恵子(新井美羽)と暮らしています。しかし12歳で思春期の薫とは折り合いが悪く、信の息抜きは、別れたキャリア志向の元妻友佳(寺島しのぶ)との間に出来たさおり(鎌田らい樹)との、時々の面会です。そんな時、佳苗が妊娠し、その事を知った薫は、「こんな家嫌だ。本当のパパに会いたい」と言い出します。

私がこの作品で、一番心惹かれたのは、大人たちだけではなく、子供の気持ちが良く描けている事。私も複雑な家庭に生まれ、立場としては、奈苗のお腹の子です。私も中学までは、兄たちとは異母兄妹だとは教えて貰っていませんでしたが、何となく、そうじゃないかとは感づいていました。うちの母など「子供は私の命」と、気持ち悪い言葉を錦の御旗の如く言い続け、私と妹を押さえつける。その実、一番大切なのは自分の感情。仕事に遊びに忙しい父は、妻の不満を知りながら、その感情を剥き出しにして継子に襲い掛かるのに、面倒なので、見て見ぬふりでした。ありふれた家族のいざこざが、唯では済まない家庭。その度に、父や兄たちを憎めと母から言われる環境は、今考えると、身震いする程不幸でした。

年の差がある薫と美恵子では、記憶に違いがあり、美恵子は信を実の父親だと思っている。薫は信が実父ではない事、本来はその葛藤を分かち合うはずの妹が、それを知らない事で、二重の疎外感を味わっている。そこへ母の妊娠。ただでさえ反抗期なのに、不安定にならない方が、おかしいです。

そして母親の奈苗がまた・・・。一生懸命、再婚家庭を整えようと言うのは、わかる。しかし再婚時の家族四人の式の写真を、これみよがしに飾るなど、家庭内での諸事万端、幸せアピールが鬱陶しく、おまけに相手の神経を逆撫でするような無遠慮な発言が多く、正直イライラしました。元夫沢田(宮藤官九郎)のDVで離婚したんでしょ?何ですぐ再婚するかな?どうして自分独りで子供を育てられるよう、自立を模索しないのか?

信は毎日定時で仕事を上がり、飲み会にも参加せず、毎日子供たちにお土産を買って帰る日々。「腑抜け」かと思いました。それがお互いの元連れ合いが登場すると、一変します。この夫婦の、今度は幸せになるんだと言う、必死の思いが、画面から伝わって来るのです。

先に再婚した元妻は、自分よりランクアップの男と再婚。自身のキャリアも順調、おまけにさおりまで懐いている。これでは自分が否定されたように感じて当たり前です。奈苗とは、お見合いのような形だったのかと、想像しました。元妻とは真逆のタイプの女性との結婚は、彼なりに見返したかったのでは?しかし、リストラで下請けに出向されたことも、妻に言えない。それくらい、夫婦間は構築出来ていない。さおりに幾ばくかの養育費も送っているでしょう。経済的な不安も募っているはず。子供がいらないと思うのは、確かに夫としては無責任で、褒められた事ではないですが、理解は出来ました。

奈苗たちが、元夫からDVを受ける場面が、後々の出来事の複線として光る。奈苗の再婚への並々ならぬ決意や、のちの一見不可解な薫の行動も、理解が出来ました。奈苗の事を鬱陶しかったと言う沢田ですが、彼女の妻としての献身は、愛情ある夫婦だったら、夫の奮起となるものです。新聞のレビューで、チラッと読んだら、沢田が一番自由だったと書いてありましたが、どこを観てるの?あれは自由なんかじゃない。養育費も払わず、自分の感情の赴くまま、ただのクズです。自由とは責任を果たして、初めて得られる対価です。

「あなたは昔から理由は聞いても、その時の気持ちは聞いてくれないのね」と言う、友佳の台詞が秀逸。男ってそうだよなぁー、と一瞬思いましたが、待てよ、私も理由ばっかりで、夫や子供を責めた事があったじゃないか。何故だったんだろう?思い起こせば、一重に心身の余裕の無さです。この二人の離婚の理由も、見えてくる。一つの事を切欠に、あれもこれもと、昨日の事のように「元夫」を責め立てる友佳の姿は、まるで私だよと、苦笑しました。これは女性にありがちなことです。

何故信は、さおりとは馬が合うのか?それは娘の気持ちを第一に考えているからでしょう。友佳の言う、「気持ちを聞いてくれる」からです。様々な組み合わせを見せる中、一番相性の良い二人に感じました。信が変わろうとするきっかけも、さおりからです。さおりは実父をパパと呼び、継父をお父さんと呼び。薫は逆です。そうやって、区分けする姿だけでも、どれほど彼女たちの内面に屈託があるか、大人は考えて欲しい。さおりがこんな良い子に育ったのは、何故か?そこに思い至った信の、ここからの父親としての挽回の目覚しさが、本当に嬉しい。

カラオケで、信と同じ歌を独りで歌う佳苗。夫婦って似てくるんです。一見無神経に見える彼女の日常は、本当はストレスだらけなのがわかる。そこをしんみりとせず、破顔一笑して拍手してみせる信。私はこのシーンが、一番好きです。こうやって、野を越え山超え、怒ったり笑ったりしながら、この二人は「良き夫婦」になっていくと思います。

その他、エピソードのどれもこれもが、私の見知った話と合致し、とても身近に感じたのも、彼らに寄り添えた一端です。エピソードを詰め込んでも散漫にならず、上手い脚色だと思いました。

子供を連れての再婚も、昨今珍しいことではありません。私の母は、生前「子供のいる人とは結婚するな、子供を連れて再婚するな」と、口癖のように言っていました。身を持って、私に知らせたんだと思います。母も奈苗のように、必死だったのでしょうね。お陰さまで私は、その苦労は知りません。でも子連れの再婚は、悪でも不幸でもありません。そんな悩める人たちに、エールを送る作品だと思います。


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