ケイケイの映画日記
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2017年08月19日(土) |
「ダイ・ビューティフル」 |
「ローサは密告された」の熱気に押され、今回もフィリピン作品をチョイス。ですが、言いたい事はわかるし、応援もしたくなりますが、あれこれ盛り込み過ぎて散漫になり、もっと秀作になったのになぁと、少し残念な作品。それでも、好感の持てる作品です。監督はジュン・ロブレス・ラナ。
ロランスジェンダーのトリシャ(パオロ・バレステロス)は、父親から理解されず、家族とは断絶状態。しかし、赤ちゃんの時引き取った娘を育て、学生時代からの親友で、同じトランスジェンダーのバーブ(クリスチャン・バブレス)らと陽気に暮らし、ミスコンの女王となるため、日々励んでいます。しかし、やっと念願の女王に選ばれたその時、彼女は急死。バーブたちは以前トリシャから聞いた言葉を遺言とし、一週間日替わりで、有名人そっくりの死化粧を施します。
トランスジェンダーと言えば、私はショーパブ勤務などを想像していたので、生業はミスコンと言うのは、ちょっと予想外。未だによく把握はしていませんが、フィリピンのミスコンは文化なんだとか。あちこちにミスコン大会があり、トリシャたちは、ミスはミスでもトランスジェンダーの大会に出て、その入賞金で暮らしているのだと思います。でもまぁ、浮き草家業であるのは、確か。これは私は悪いのですが、華やかなショー場面が観られると、楽しみにしていたので、ちょっと肩透かしでした。
娘を引き取る過程はよし。会話も気が利いている。子供時分のエピソードは良いのですが、完全な女性でないトリシャが、子育てにおいて何を感じ、自分を成長させていったのかが、イマイチ描けていません。愛してはいるはわかるけど、最愛感は希薄。なので、絆も薄っぺらい。極端に言えば、なくてもいいくらいです。
過去をその時々で挿入する形ですが、それがあれこれ飛んで、感情が高まりにくい。ここは時代を追って挿入する方が、わかり易く親切です。
恋愛事情も、もちろん出てきます。トランスジェンダーの悲哀が描かれ、しんみりしました。レイプ場面が出てきて、改めてレイプは暴力だと認識させられます。身体は男性なので、本人は自分が傷ついている事を、当初は押し殺す。レイプなのに、レイプではないと曖昧に自分の心を誤魔化します。この曖昧さこそ、性的な自分を確立出来ない、トランスジェンダーを苦しめるものなのじゃないかしら?
良いところも、たっくさんあります。まずトリシャが綺麗なこと!演ずるパブロは、フィリピンのざわちんと日本でも紹介されていて、以前から知っていました。セレブそっくりにメイクした画像がネットを賑わし、私はマスクで誤魔化すざわちんより、レベルが上だと思います。やっぱり男性なので、時々ごつすぎて、興ざめすることがあったので、そこは一工夫欲しかったかな?でも生前も死後も、とにかく綺麗で、演技も上手く、抜群の存在感です。
陰になり日向になり支え合って、強い絆を感じる、バーブとの友情が麗しい。トリシャの人生に、一番寄り添っていたのは、バーブです。親友が急死して、自分も号泣したいはずなのに、涙を見せず、一生懸命遺体にメークするバーブ。娘のプロットは外して、彼女との友情をもっとクローズアップすれば、良かったと思います。そしたら尺は20分くらいカット出来て、ぐっと締まったと思います。
そしてメイクの力。時々お化粧するのが面倒臭くなるときがありますが、トランスジェンダーたちが、必死で女性になるのを見ていると、すっぴんではなく、メイクする姿が自分なんだと思い知りました。お化粧すると、認知症患者さんの進行が、遅れると聞きます。幾つになっても、一番綺麗な自分を見せて、胸を張らなきゃね。
私が一番気に入った台詞は、「この身体は神様から貰ったもの。だからもっと素敵になった姿で、神の元へ行くの」と言う、生前のトリシャの台詞です。彼女は豊胸だけしていました。性的にはどっちつかずの身体ですが、素直に自分の心に従って、自分でカスタマイズした身体に、彼女は誇りを持っているのですね。その誇りを尊重し、理解を深めたくなりました。色々文句も言いましたが、作り手のメッセージは、充分に届く作品です。
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