ケイケイの映画日記
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2017年05月03日(水) 「美女と野獣」(IMAX 字幕版)




素晴らしい!私的にはパーフェクトな作品。美しく聡明なベルを、フェミニスト活動も盛んな、知性派のエマ・ワトソンが演じると聞いて、すごく楽しみにしていました。監督も安心のビル・コンドンと言うことで、初めてIMAXをチョイス。いつもチケットはサービスデーとにらめっこで、財布の紐は固い私ですが、今回は自分の大盤振る舞いを褒めたい気分(笑)。絢爛たる画面と、勇敢で慈愛溢れる内容の両面を、味わい尽くせたと思います。

フランスの小さな村で父(ケヴィン・クライン)と二人暮らしのベル(エマ・ワトソン)。読書好きで見識の高いベルは、変わり者として村では浮いた存在です。しかし父は、そんな娘を優しく受け止めてくれます。ある日、町へ仕事に出かけた父は、森で遭難してしまい、廃墟めいた城にたどり着きます。そこでベルに土産をと、バラを一輪失敬した父は、突然野獣(ダン・スティーブンス)に襲われ監禁されてしまいます。野獣は元は、それは美しい王子様でしたが、傲慢で美しい者しか傍にも寄せつけない我がままさを、魔女に咎められ、野獣の姿に変えられてしまいます。一本のバラの花びらが置かれ、その花びらが散る前に、本当に愛し合う女性に巡り会えねば、野獣は永遠に王子には戻れないのです。

オープニングの、圧巻の歌と群舞に、まず心は鷲掴み。あぁ〜、これよこれ!伸びやかな声量、老若の男女の感情を表す仕草や表情を織り込んだダンス。時には愉快に、時には切なく、その時々の心情を謳い上げる歌の数々。徹頭徹尾、正統派でした。

どれもこれも気に入りましたが、一番は「明けない夜に君を待つ」と、切々とベルへの恋心を歌う野獣のシーン。もう泣いた泣いた。報われないだろう愛に身を焦がし、それでも愛する気持ちを抑えきれない。こんな心模様は、だいたい女性で表現されるものですが、野獣が歌って全然女々しくない(笑)。いや、野獣だからこそ、胸に染み入るのか?一押しの場面です。

オープニングシーン、質素な出で立ちながら、群集の中で、一際輝いていたベル。父の身代わりとなったベルが、誰もが羨ましがるハンサムなガストン(ルーク・エヴァンス)をふるのに、何故野獣には心寄せたのか?シェークスピアの一節を諳んじる、教養がきっかけでした。読書好きには夢のような書物の山を、全部読んでいた野獣。ベルは素直に野獣に憧れたことでしょう。

そんな、目に見えないものの価値を理解するベルが、行ってみたかった場所にも感じ入りました。「本を読むと、世界中に行けるのよ」と、目を輝かせた彼女が、有名な観光地や、風光明媚な場所ではなく、どこに行ったか?愛情とは、受け継がれる者がいれば、永遠なんだなと思いました。思えば、変わり者とされるベルを、父は一切否定せず包容してくれたから、今の勇敢で愛情深いベルがあります。

翻って野獣は?同じように母は早くに亡くなり、彼は孤独をかみ締めたでしょう。王様がベルの父のようであれば、彼は野獣に変えられることもなかったはず。それを一番知っているのは、ポット夫人(エマ・トンプソン)を始め、侍従の人たちなのだと思います。二人に恋心が芽生えるようせっつきたいルミエールに、「何もしなくていいのよ」と諌めるポット夫人にも、見守ることの大切さを学びます。あの時、やれいけそれいけ!と、二人をけしかけていたら、この恋は成就しなかったはず。

そこで重要なのは、魔女の存在。この魔女さん、作品の描き方からすると、ずっと野獣を見守っていたのでしょう。同じように傲慢なガストンは、前半は結構愛嬌があるのに、後半からは血も涙もない悪漢に変貌していくのは、愛を知り更生していく、野獣とは対照的です。ガストンも戦争帰りで、虚無感に包まれた自分の感情を打破したく、ベルに求愛したはず。でもそこには、ベルの美しさや手強さに対する興味だけで、愛はなかったのでしょう。ベルの父に対しての思いや仕打ちに、本当の愛とは何かが、隠されています。

時計や蜀台に変えられた侍従たちは、実写では違和感あるかな?と予想していましたが、滑らかなCGで、実写に溶け込んでいました。ルミエールを中心とした、野獣とベルの恋を熱望するシーンの、溌剌とした躍動感や、野獣を村人から守る戦いの場面など、ちょっとしたスペクタクルで、とても見応えがあり、心も躍ります。

人は見かけじゃない、傲慢や野蛮に暮らしちゃいけないなど、子供たちに道徳心を学ばせながら、大人はその奥の包容や慈愛の大切さに感じ入るでしょう。
みんなが知っている内容を、豪華絢爛なミュージカルとして満点に仕上げ、かつ細部の脚色に腕を見せ、内容に感動までさせる作品です。何でオスカーには何もノミネートがなかったのかしら?不思議に思うくらい、素敵な作品でした。


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