ケイケイの映画日記
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2017年04月01日(土) |
「わたしは、ダニエル・ブレイク」 |
日本でも貧困問題が取りざたされ、病気や離婚などで、生活保護など社会資源を活用しよとすると、何故か「自己責任」と言う名の下、バッシングが起こるのが、私は以前から不思議でなりません。そういう人たちも、この作品を観たら、それは当たり前の権利だと納得してくれるのじゃないでしょうか?監督はケン・ローチ。
イギリスのニューカッスル。59歳の大工ダニエル・ブレイク(デイヴ・ジョーンズ)は、介護していた妻に先立たれ今は一人暮らし。心臓を悪くして、医師からは仕事を止められています。国の援助を受けようと役所に行くも、煩雑な手続きにたらい回しにされ、途方にくれます。同じように手続きが受けれなかったシングルマザーのケイティ(ヘイリー・スクワイアーズ)と知り合い、彼女の子供たち、デイジーとディランとも仲良くなります。
まず冒頭に、審査担当女性とダニエルとの、質疑応答が出てきます。以前は受給出来たと出ていたので、同じ事を何度も、それも病状に関係ないことを聞かれ、うんざりしているのでしょうね。職人気質の、短気な彼の素養も見て取れます。しかし、それが仇となるとは。
日本では病気で生活保護を受給するとき、主治医の意見書が必要で、病状の説明、項目に就労可か不可、あるいは軽労働可など記入する箇所があります。その後審査になりますが、労働不可とされた人で、受給できなかった患者さんは、私が医療事務時代、記憶がないです。イギリスは厳しいと言うより、担当の私情が挟まれたように、描かれています。
その後に繰り広げられる、延々たらい回しのお役所仕事。嫌ならネットで申請しろ、出来ないなら、ネットで用紙をダウンロードして提出しろ。いやー、これは高齢者には大変だわ。うちは私がある程度使えるので、不便はありませんが、私が先に死んだら、うちの夫もダニエル同様です。これを契機にパソコンを学べば良いでしょうが、それをするにもお金が必要。どん底だから、行政を頼るわけで、その事をわかって欲しい。
貧困層の多い地域は、手続きも膨大なのでしょう。省けるところは省きたい行政側の気持ちもわかります。しかし、もうちょっと血の通った接遇が出来ないのかなぁと、画面を見て思います。対象は「物」ではなく、「人間」なのです。
私は以前の職業柄(医療事務)、生活保護の人をたくさん見てきましたが、世間で言うほど、不正受給などありません。昨日まで元気に仕事していたのに、病気して需給するまで、坂を転げるようだったと語る方が多かったです。ダニエルを見ていると、明日は我が身。ひしひしと感じます。
子供を見れば、父親が違うのが一目瞭然のケイティ。ハイティーンで子供が出来て結婚。その後離婚し、またその繰り返し。確かに浅はかかも知れませんが、彼女は子供の手を決して離さない。フード配給所での出来事は、衝撃でした。私は涙が止まりませんでした。でもケイティは、子供を飢えさせてはいない。ケイティは立派な母親です。子供を愛してやまない、私たちと何ら変わらない母親なのです。
スーパーでの出来事も、あんな形で貧困女性を誘導するなんてと、とても哀しい。日本でもセーフティーゾン扱いです。怒りは沸きません。「あなたを助けてあげる」。それは嘘じゃないから。でも助けるのは、やはり行政じゃないのか?そういう疑問は沸いてきます。貧乏は不幸ではないけど、貧困は明確な不幸だと思います。
私が一番心に染みたのは、デイジーがダニエルに、「あなたは私たちを助けてくれた?今度は私たちがあなたを助けたい」と言う言葉です。経済的底辺からの脱出を渇望する隣人の黒人青年チャイナが、病のダニエルを気遣い「困ったことがあれば、相談してくれよ。きっとだよ」と言う言葉も。ダニエルから、人としての情けをかけられた彼らが、今度はお返ししたいのです。
冷徹な行政だけを糾弾するのではなく、この作品は私たちにも問いかけている気がします。私は裕福ではありません。でも家族全員職を得て、飢えた事もない。大きな車はないけど、軽自動車でドライブには行ける。海外旅行は縁がないけど、近場で一泊、温泉には行けます。恵まれ過ぎて、申し訳ないような気になる。人生は同じように一生懸命生きても、運・不運、ボタンの賭け違いで左右されるものだと、この年になり実感します。決して裕福ではないからこそわかる、ダニエルやケイティの心。私に出来ることはないか?劇中、ずっと焦燥感に似た感情に、駆られました。
ラストに読まれる、ダニエルの陳情書は感動的でした。この陳情書で心が揺さぶられない人は、心を失っている人です。人として誇りを持って生きたい。それが如何に大切で、現状では困難であるかが、描かれていました。イギリスに限らず、日本でも他の国でも、当てはまる現状のはず。頑固爺さんが伝えてくれた心を、私も見失わずに生きていきたいと思います。
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