ケイケイの映画日記
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2017年03月01日(水) 「ラ・ラ・ランド」

発表されたばかりの、今年のオスカーを席巻した作品。オスカー効果か、レディースデーとは言え、平日なのに場内満員御礼でした。賛否両論あるようですが、その両方ともわかる気がします。監督はオスカー監督賞を受賞した、デイミアン・チャゼル。

ロサンゼルスの撮影所内のカフェでアルバイトしているミア(エマ・ストーン)。オーディションを繰り返す女優の卵の彼女は、いつかジャズをメインにした店を持ちたいと熱望している、売れないピアノ弾きのセブ(ライアン・ゴズリング)と知り合います。最悪の出会い方をした二人ですが、重なる偶然にお互いを意識し始め、やがて愛を育んでいきますが。

私はミュージカルは好きでも嫌いでもなし。正直言うと、関心のあるカテゴリーじゃありません。とは言え、普通の人より、たっくさん映画は観ているわけで、有名どころのミュージカルも、それなりには観ています。その程度の人間の感想だと思って下さい。

まず冒頭の渋滞シーンでの歌や踊りで、心躍らず置いてけ堀(笑)。いや〜、これはヤバイかも?と思う気持ちは、ある程度的中。前半の歌や踊りは、懐かしい感じのする振り付けや楽曲、プロットで、それなりには楽しいのですが、やはり心は踊らず。メインになる秀でた歌唱や踊りがないのが、少々痛い。ライアンはピアノ弾きの設定なので、演奏で魅せることが出来ますが、下手ではないものの、エマは囁くような歌唱ばかり。もう少し歌い上げるような熱唱タイプの曲も盛り込んだ方が、変化があって良かったかも?

古典的なボーイ・ミーツ・ガールの物語に、これまた古典的な手法のミュージカルシーンを入れるのが、先達への敬意ではなく、アイディアに感じてしまったのも、致命的でした。楽曲がどれも良かったのが救い。でも私が一番好きな曲は、最初から最後まで、セブが弾くピアノ曲でした。ツッコミつつ、それでも楽しめたのは、ひとえに主演の二人が魅力的だったからです。

後半、愛する二人のすれ違いが描かれ始めてから、俄然私的に盛り上がる。お互いがお互いを思っての気持ちが、相手にいらぬ心配をさせ、傷つき疲弊させてしまうのは、男女の世の常なのだなぁと、痛感。恋する二人の心の変遷を、これだけ繊細に描けるなら、ミュージカルでなくてもいいんじゃないの?と、これまたツッコミかけました。

しかし、ラストに近づいての、目の覚めるような描き方に心打たれ、あー、監督はこれがしたかったから、ミュージカルにしたのかと納得。人生に、あの時こうしていたらは、誰もが思い当たるもの。本当はほろ苦い結末を、観客に幸福感を抱いてもらうには、ミュージカルと言う手法は、絶大の効果でした。

オスカー受賞のスピーチでは、監督がいかに奥様に感謝しているのかが、伝わってきました。セブとミアも、二人が愛し合わなかったら、今の自分ではないのです。ほろ苦い思い出も、いつか感謝と敬意に変わる、あなたにもと、そう言ってるんじゃないかな?

ただミュージカルは、二度も三度も観たくなるもの。その力は少々弱い。これがハリウッドを昨年代表した作品だと言うのは、個人的には疑問があります。

当初、セブの役はマイルズ・テラーだったとか。良くぞ断ってくれました(笑)。いつもハンサムでカッコいいライアンですが、ロマンスでは、何か欠落を抱えている役が多く、彼の持ち味の暖かみとマッチし、いつも希望があります。今回のセブも上出来の演技。特に中堅俳優として、子供のいる役も演じている彼が、青年から大人になる役を演じて、全く無理がないのに、驚きました。

目の大きなエマは、今回一層大きく(笑)、チャーミングさも絶品。恋する女の子から、愛を知る女性への変遷も、くっきり演じ分けており、演技的には全く文句ない瑞々しさ。でもやっぱり、もうちょっと歌とダンスは頑張って欲しかったかな?

ミアの役も、最初はエマ・ワトソンにオファーがあったそうで、ライアン&エマの後では、マイルズ&エマで作っていたら、なんともおぞましい気がします(笑)。ライアンとエマのような、好感度はなかったと思います。

前代未聞の間違いで、かなり気の毒だったオスカーの作品賞ですが、「ムーン・ライト」チームと、お互いが敬意を込めて称えあう姿の爽やかさに、映画好きである事に、誇りを持ちました。監督は、奥様への感謝を込めて、この作品が作りたかったのでしょう。決して懐古趣味のアカデミー会員へのおべっかでは、ないと思います。いや、思いたい(笑)。


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