ケイケイの映画日記
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2017年02月25日(土) 「ブラインド・マッサージ」




すごーくすごーく良かった!最近「障害は個性」と言う言葉が盛んに使われ、私はすごく違和感があります。一口に障害と言っても多岐に渡り、一緒くたにしてもいいのか?と思うからです。そして、この言葉は、障害を持つ本人たちから出た言葉なのか?私たちは差別の目くらましのため、そう思い込まされているのじゃないか?そういう私の思いに、一つの返答をくれた作品です。監督はロウ・イエ。

南京にあるマッサージ店。院長はシャーとチャンの二人。盲人のマッサージ師を多数抱え、店は繁盛しています。そこへ子供の頃の事故が元で盲人になった若いシャオマーと、美人と評判のドゥ・ホンが新しく入ってきます。そしてまた、経営していたマッサージ店を閉店したシャーと同期のワンが、婚約者のコンを連れて、雇って欲しいと言ってきます。受け入れるシャー。しかしその頃から、マッサージ店は、様々な問題が噴出し始めます。

繰り広げられる彼らの日常は、観ていて頷いたり、感心したり、納得したり。
いかに障碍者を扱う作品が、綺麗事を並べていたのかと痛感するほど、生々しく彼らの本音が聞けます。美人のホンは、自分は目が見えなくてわからないのだから、美人と言われても、全く嬉しくないと言う。なるほど。「美人と言われるのには、うんざりだ」と言うせりふも、見えるなら傲慢ですが、ホンから言われると、切なくなるのです。

やがては盲目になるけれど、今は少し視力がある女性は、恋活に必死。心と顔と両方見開いて、しっかり見極めたいのでしょう。「私はここでは二番目に綺麗なの」と、ゲットした彼に言う女心よ。彼女は「美」を知っているから、自分に付加価値をつけたくて必死なのでしょう。でも彼には関係ない話なのです。

教養があって、人柄も優しいシャー院長は、目下婚活中ですが、縁遠い。自分にはわからない「美」を持つホンに、盛んにモーションをかけますが、ホンは「あなたは自分の知らない美を持つ私に、興味があるだけ」と、つれない。ホンはホンで、シャオマーが好きなのです。

しかしシャオマーは、ワンの婚約者コンに夢中になる。コンはどちらかと言うと、不美人の部類。しかしワンと肉体的にも結ばれている彼女からは、きっと女の匂いがしているのでしょう。彼女の体を必死で嗅ぐ若いシャオマー。

目が見えていれば、この複雑な男女関係も、また違った展開になるはず。そこに邪念や欲望が混じって、心にだけ忠実になれないから。ホンは言います。「目が見えないから、相手の心が見える」と。

しかし、恋活の女性マッサージ師に、「彼とはもう結ばれたの?」と聞くコンには、泣かされました。「まだよ。結婚するまでは」と答える同僚。泣き出すコンに、同僚はびっくり。中国には、まだ古風な貞操観念があるのですね。親にワンとの結婚を反対され、半ば駆け落ちにように南京に来たのに、結婚話は遅々として進まず、なのに体の関係は出来てしまったコン。自分はどこに行くのだろう、どうなってしまうのだろうと、心細いのです。女心に、障害は全く関係ないのです。コンを抱きしめる同僚が暖かい。

劇中、彼らが「近所迷惑になる」と、異常に日常生活に気配りしているように感じたのは、私だけでしょうか?「目の見える人は別の人種。目の見える人が神を見るような目で、自分たちは目の見える人を見る」と言う意味のナレーションが、数回入る。

「障害は不便だが不幸ではない」と言う言葉も、最近使われます。しかし、不便を不利に置き換えてみたら?ニュアンスがだいぶ違うと思う。生きていく上で障害とは、やはり圧倒的に不利なのです。盲人たちに、次の人生は目が見えたいか?と問うたら、彼らは「はい」と答えるのじゃないか?「障害は個性」。例え励ましであっても、障碍者以外の人が口にするのは、とても不遜な事だと思います。

ろくでなしの弟の借金の督促が、両親や自分にまで及んだワン。目の見えない彼が、海千山千のやくざを追い返します。腹の据わった方法で、暴力には暴力で返す。流血しているワンが、両親に「ごめんよ」と謝ったのです。こんな方法しかなくて、親に辛い思いをさせたと思っているのです。親は親で、「何を言うの。謝るのは私たちの方だ」と、泣いています。きっと幼い頃は、ワンの目が見えるように奔走したのでしょう。その後も一人で生きていけるよう、手を尽くし見守っていたはず。ワンは、今までの親の愛情に感謝しているのでしょう。この麗しい姿に、涙がいっぱい出ました。

盲目の立派な兄。目の見える不肖の弟。盲目だから、目に見えない大事なものがわかるのでしょう。

波乱に満ちた道程を辿る、マッサージ院の人々。ラストにシャオマーのぼやけた視界に映ったのは、にっこり彼に微笑む「神様」でした。神様が下界に下りて、シャオマーの手を取ったのか?いいえ、この「神様」は、自分が不完全な人間だと、知っているのです。完全無欠な人など、この世にはいない。みんなが不完全な自分を認めること。これだけで、障碍者を取り巻く環境は、変化すると思います。

大事な事は、目に見えない。「星の王子さま」で出てくる言葉が、目の前で繰り広げられるお話でした。


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