ケイケイの映画日記
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2017年02月06日(月) |
「破門 ふたりのヤクビョーガミ」 |
主演の自覚よろしく、あちこちにバンバン宣伝しまくっている佐々木蔵之介。たまたま見ていたテレビで、司会者の人が、「佐々木さんは高校の時、学校帰りにマクド(マクドナルドの事)に立ち寄り・・・」の「マクド」の発音を直線で語った瞬間、傍に居た溝口淳平(和歌山出身)と「いやいや、『マクド』!」と、声を揃えて語尾を下げて訂正。そして何故か二人ともドヤ顔(笑)。まだ撮影中のように、関西人の血がたぎっておりました。そのノリが劇中炸裂、関西の人間が観たら、痛快な作品で、とっても楽しみました。監督は小林聖太郎。
建築コンサルタントの二宮(横山裕)。聞こえは良いけど、実態は「サバキ」と言われる、暴力団対策が仕事。その縁で二蝶会のやくざ・桑原(佐々木蔵之介)と知り合います。この家業から足を洗いたい二宮ですが、腐れ縁の桑原とは、人から「相方」と呼ばれる程、ディープな付き合いに。ある時二宮は、映画プロデューサーの小清水(橋爪功)と知り合い、アドバイザーと出資の話しを持ち込まれます。実は二宮の亡くなった父は極道で、桑原の兄貴分の二蝶会若頭・嶋田(圀村隼)は、亡き父の弟分。今でも恩義を感じている嶋田は、二宮を甥のように可愛がっており、その話を聞き、3千万出資します。しかし、小清水が愛人のレミ(橋本マナミ)といっしょに、その金を持ち逃げしてしまい、桑原と二宮は、小清水に追い込みをかけますが、この話には裏があり・・・。
監督・主要登場人物は、ほぼ関西人をキャスティング。蔵之介によると、「普段”カット!”の声がかかったら、どんなに方言使ってても、普通の標準語に戻るんですが、この作品ではキャストが皆関西人なんで、撮影のノリでそのまんま盛り上がりっぱなし」だったそう。わかるわかる。徹頭徹尾、なんて耳慣れたガラの悪い大阪弁かと、そのリアルさに感心しましたもん(笑)。この作品、ガラの悪い大阪と大阪弁を「愛でる」映画です。
いや大阪弁てね、怒鳴り合い謗り合いの言葉合戦の時は、最強やね。 「アウトレイジ」も、とっても面白かったですが、セリフは、「てめー、このヤロー、ぶっ殺すぞ!」ばっかりでしたが、この作品は、何とセリフのバリエーションと表情豊かな事よ(笑)。例えばね、上記の番組で、溝端淳平が京都のスイーツを京都育ちの蔵之介に紹介するパートがあったんですが、淳平君、しどろもどろ。すかさず蔵之介、「お前、ちゃんと調べたゆーたやんけ!」とツッコむ。東京なら、「お前調べたんだろ?そう言ったじゃん?」ですかね?うん、ユルイ(笑)。
番組ではもちろん笑顔でしたが(淳平君と仲が良さそうだった)、これ劇中の桑原よろしく、目ぇむいて怒鳴ったら、そら怖いよ。「おんどれ!いてこましたら!」は、人生で言った事がない大阪男子は多いでしょうが、「お前、〜ゆーたやんけ!」の、怒鳴り合いのケンカなら、みんな覚えがあるはず。うちの三男は中高ラグビーをしていましたが、中学の時、試合の前に先生が、「相手の人生潰す気でやってこい!」と、生徒を鼓舞したとか。ええ普通の市立中学の体育教師がです(笑)。
しかしながら、ガラの悪さもマイルドテイスト。監督もソフトな面差し、お父さんから毒気を抜いたような小林監督をチョイスしたのも、制作が松竹と言うのもあるでしょう。エロも割と健全で、血は見ますが、暴力場面もバイオレンスと言うより、アクション風でスピーディです。東映制作で井筒監督なら、血もドバドバ、お姉ちゃんの裸もいっぱいのはず。その辺のコテコテ感もマイルドです。だから、関西圏以外でも観易いと思います。
それはキャスティングにも言えて、あまたいる関西圏出身の俳優の中、京都は造り酒屋の次男坊にして、神戸大学出身の佐々木蔵之介を選んだのも、桑原にインテリ感を出したいからかと思いました。「但馬(兵庫県の地方都市)から出てきて20年、極道一本のこの俺や!」の桑原に、絶妙に蔵之介本来のキャラがブレンドされて、舎弟でなくても惚れてしまいそうでした。
横山裕はへたれでグータラ、なのに強欲でどんな大変な事もどこか他人事、の二宮を、憎めないキャラに作って好演。当初は、自分の事をクズと自嘲するなら、もうちょっと感情込めて演じた方がと思いましたが、この「何を考えてんねん、お前は!(by桑原)」の、ぼっ〜と浮ついた感覚が、二宮の持ち味。桑原に情があるのかないのか、曖昧感も上手かったです。
橋爪功は、東住吉区出身なんですね。大阪の人て、全然知らんかった。表面はお茶目で小心、実は狡猾で転んでもただでは起きない小清水を、愛嬌たっぷりの絶妙の好演。お蔭で先がかく乱されて、最後の最後まで楽しめました。ちょっと早いけど、今年の賞レースでは話題に上がって欲しいです。
その他、圀村隼、キムラ緑子、北川景子、中村ゆり、宇崎竜童、木下ほうかなど、全国区の関西人を出演させて、関西ローカル俳優を起用しなかったのは、マイルドテイストを狙っていたからだと思います。ちゃんと子離れ出来ているけど、幾つになっても息子は心配と言う母親の性が上手く出ていたキムラ緑子が、良かったです。割を食ったのが橋本マナミ。悪かった訳じゃないですが、どうも北の方角の匂いがするなと調べたら、やっぱり山形出身でした。水を得た魚のような北川景子と対照的。15年前なら杉本彩の役ですね。ちょっと気の毒でした。
展開のテンポもよく、やくざ社会のからくりもチラチラ伺える、マイルド極道映画。そうそう、桑原の舎弟が「桑原さんて、昭和残侠伝なんですわ」と言ってましたが、極道社会は、今も昭和の健さんがレジェンドなんですかね?続編も目論んだラストですが、劇場は程よく観客が入っており、私も是非観たいです。ドラマ版は、北村一輝と濱田岳のコンビ。味わいが異なりそうで、こちらも是非観たいです。
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