ケイケイの映画日記
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2016年10月13日(木) |
「シーモアさんと、大人のための人生入門」 |
とっても素敵な笑顔でしょう?このおじいちゃんは、ピアノ教師のシーモア・バーンスタイン。有名なピアニストでしたが、50歳の時に引退し、現在の生業はピアノ教師。俳優のイーサン・ホークは、俳優として行き詰まりを感じている時、とある夕食会で当時84歳のシーモアさんと遭遇。彼の人柄にすっかり魅了され、救われたのだとか。そんなシーモアさんの魅力を、イーサンが監督した作品。きっと自分の貰った幸せを、人々に分けたくなったんですね。
私がまず注目したのは、生徒にピアノを教えるシーモアさんの姿。厳しくも慈愛に満ちている。愛にも色々あるけれど、「慈しむ」と言う字が付くと、「育まれる」わけで。シーモアさんを、その境地にさせたのは、彼の生い立ち。
まるで音楽とは関係のない家庭に生まれ、6才の時せがんで買って貰って中古のピアノから始まり、懸命に努力し、功成り名を遂げたのに、父親からは認めて貰えず、それが彼の心に重い澱を残しています。
演奏会の時の、絶望的なまでの緊張感を語るシーモアさん。失敗すると、名声も明日の暮らしも失います。これが彼が50歳で引退した理由。名声に執着すると、自分にとって、一番の演奏が出来ないから。好きだから、楽しいから演奏していたはずなのに、大切なものを見失ってしまう訳です。
執着しない人生は、豊かで美しいと、本当はみんなわかっているけど、実はとても難しい。その事を誰が実践し、語ってくれるのか?一つ一つの金言に、言霊を響かせるシーモアさんに、イーサンが出逢ったのは、偶然ではなく、彼の魂が呼び寄せた必然ではないでしょうか?
シーモアさんの生徒たちは、プロのピアニストではなく、普通のピアノ好きに見えました。ピアノは今でも、教養の一つに数えられるお稽古事です。私はピアノを上手に弾けるのよ、と自慢するのじゃなく、ピアノを弾いていると楽しい、幸せだと思えたなら、それが教養=人生を豊かにする事なんだと、晴れ晴れとした顔で指導を受ける生徒さんたちから、感じます。
シーモアさんは言います。神は自分の中にいる。自分の中の神を信じろと。これは自分の力を信じろと言う事ですね。本当の意味で自分を愛し尊重出来る人は、必ず他者も愛せるはず。シーモアさんの笑顔を観て、そんな気がしました。
全編ほぼ出ずっぱりで、飽きさせる事無く、80分強を見せてしまうシーモアさん。本当はもうちょっと編集してもいいかと思いますが、監督のシーモアさんへの惚れっぷりを感じ、それもまた善きかなと思えます。人生の喜びって、充実した人生って、何?と、私を含む迷えるたくさんの大人に贈る、イーサン・ホークからのプレゼントの作品です。
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