ケイケイの映画日記
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2016年10月07日(金) 「 SCOOP! 」

今年一番グッと来た作品。同じ大根仁監督の「バクマン。」を去年の邦画NO・1に選んだのも、グッと来たから。この作品も、多分私の今年の邦画NO・1です。

かつては凄腕の報道カメラマンとして名を馳せた都城静(福山雅治)ですが、現在はしがないパパラッチ。雑誌「scoop」の副編集長定子(吉田羊)に頼まれ、仕方なしに新人記者の野火(二階堂ふみ)と組むことに。最初は衝突ばかりしていた二人ですが、やがて息の合った仕事ぶりを見せ始め、スクープを次々ものにしていきます。そんな意気軒昂のさなか、拘留中の連続殺人犯の現在の様子を撮れと言われ・・・。

「バクマン。」が青春の熱気なら、こちらはその後の人生を折り返した者たちの、思秋期です。喧騒と猥雑の中、次々と有名人の不倫や御乱交場面を押さえて行く場面が、とっても面白い。いや〜、本当にあんなのですかね?大げさじゃなく、命懸け。ユーモアを交えた、下世話な馳走感たっぷりです。その猥雑さの隙間に、思秋期の心模様が見えてくる。


劇中では理由は語られませんが、静は友人で情報元のチャラ源(リリー・フランキー)に重い借りがある。チャラ源は現在落ちぶれて、絶賛シャブ中進行中。チャラ源は、多分ボクサー崩れ。落ちぶれたのは、その借りが原因なのでしょう。なのにちっとも静を恨まない。妻がチャラ源を見捨てた時、静はどうすればいいのか?これが男と女なら、一緒に堕ちて行くのも幸せかもしれないけど、男同士なら、惨めなだけです。

その代り、静は華々しい表舞台から身を引いて、どぶねずみかゴキブリ(by静)の、パパラッチに身を投じたんだと思いました。辛うじて職を得ているのは、チャラ源が這い上がりたくなった時、手伝いたかったからじゃないかなぁ。「静ちゃん、俺が嫌になったなら、いつでも切ってくれていいんだよ」。そんな事を言う友を、誰が切れるものか。その言葉の裏は、俺の事、見捨てないで、だもの。

現在副編集長として、次期編集長を争って、火花を散らす定子(吉田羊)と馬場(滝藤憲一)。現在は下世話な芸能ネタとグラビアヌード担当ですが、彼らも元は報道記者。何度も賞を取ったのに、二人とも「忘れた」「覚えていない」と言う。自分の現在の立ち位置を、良しとしていないのでしょう。雑誌のコンセプトが方向転換されたためで、彼らには、サラリーマンの悲哀が滲みます。

そんな酸いも甘いも噛み分けた彼らが、手塩にかけて(多分)育てるのが野火。当初「この仕事、マジサイテーですね」とふてくされていたのが、スクープ連発して、ある日を境に、「この仕事、最高ですね!」と、満面の笑みを浮かべる。このシーン、私も笑顔になりました。野火の体中から、アドレナリンが吹き上がっている。静は段々記者らしくなる野火が、嬉しかったんですね。

私は年が行こうが、若い人の引き立て役や、枯れ木も山の賑わい扱いされる事はないと思っています。でも若い人に道を譲ったり、花を持たせる事は必要だと思う。野火にスクープを譲る静。女として一歩引いた定子。人はこうやって、親以外の人から育てられるのですね。そして一人前になっていく。野火は幸せ者です。

馬場が泣き笑いしながら、自分の童貞喪失の時、静に酷い目に合わされたか、面白おかしく話すとき、実は私も号泣しました。何故なら馬場が、如何に静を慕い、好きなのかが伝わってきたから。それはもう一度静に浮かび上がって欲しいと思っている、定子も同じ。常にやさぐれて、風俗の話しばっかりして、野火をスパルタで育てる様子はサディストみたいなのに、みんなに愛され慕われていた静。直接や台詞で描かないで、静の人隣を浮かび上がらせた監督の手腕は、素晴らしいです。

そんな静の人間味に説得力を持たせたのは、監督の力量と同等くらいに、福山雅治の好演だと思います。何だか演技が下手だとか言っている感想が目につきますが、私はすごく良かったと思う。あの設定で、薄汚さを感じさせなかったのは、彼が演じたからだと思います。

「そして父になる」と比べてどうのこうの、全く意味がないわ。全然タイプの違う作品だもの。少なくとも私は、こちらの作品・福山雅治の方が断然好きです。「そして父になる」の役名なんか、とうに忘れたけど、都城静は、私はきっと一生忘れない。

癖の強い役が多いふみちゃんですが、今回は真っ直ぐ普通の女の子も好演。強気な鉄の女的な仕事ぶりと、静への思いを見せる女心との落差を上手に演じた吉田羊も、今までの彼女で、私は一番好きです。リリーはあっと驚く怪演で、哀愁も感じさせます。でも一番の脇は、私は滝藤憲一でした。最初は敵役っぽく登場したのに、最後の方にはまるで違う人に感じました。記者の哀歓を、一番感じたキャラです。

終盤、まさかの展開で、本当に驚愕しました。静と野火の行く末に、う〜ん、そう来るかと、少し甘いなと思っていたら、その後の展開への布石でした。この作品は、原田真人監督の「盗写 1/250秒」を元に作られたそうです。元作もそうだったのかもですが、幾らでも変更できるし、この潔い展開は色んな意味を含めながら、深い余韻も残し、私は成功だったと思います。

とってもとっても好きな作品です。大根監督は、「モテキ」をCSで観て、あっ、面白いじゃんと感じ、勇んで観にいった「愛の渦」では、イマイチぴんとこず、「バクマン。」で大ホームラン。あぁ私も野球で表現しちゃった(笑)。この作品、多分設定や感覚はは古いのです。野火の台詞は、それを揶揄していたのでしょう。大根監督が作ったのじゃなかったら、私も野火のように文句言っていたかもしれません。大根監督の作品は、一生観ようと誓った作品。


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