ケイケイの映画日記
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2016年10月05日(水) 「ハドソン川の奇跡」




この作品の公開を聞いた時、え〜?,夜のバラエティで外国人出演の再現ドラマみたいじゃんと、全然乗り気ではありませんでした。でも監督がクリント・イーストウッドなので、仕方なく鑑賞。乗り気ではないけど、観ればイーストウッドだもん、感動するんだろうなぁと思って臨みましたが、しっかり泣いてきました(笑)。

2009年1月15日。サリー(トム・ハンクス)が機長を務める155名を乗せた飛行機が、ニューヨークのラガーディア空港を飛び立ちます。しかし直後、鳥が飛行機に飛び込んできて、エンジントラブルに見舞われます。離陸した空港か、近くの空港に着陸しようと考えたサリーですが、時間的に無理と判断。ハドソン川に不時着水、そして全員救出と言う離れ業を演じます。しかし副機長のジョン(アーロン・エッカート)と共に、事故調査委員会で、ラガーディア空港に無事戻れる時間があったはずだと追及され、自分の判断は本当に正しかったのか、葛藤が始まります。

私はこのお話、全然記憶にないので、最後までハラハラしました。不時着水するまでのアクシデントは、臨場感たっぷり。CAさんたちが、何度も「座って下さい、屈んで下さい」と、絶叫するのではなく、冷静に繰り返し連呼する様子が印象的。多分こういった場合の訓練はしているでしょうが、いざ実際なると、乗務員だってパニックになるはず。三人のCAは全て50代に見えました。ベテランだったのも、良かったのでしょう。あれなら乗客が比較的落ち着いていたのも、納得です。

「アルコールは飲んでいないか?」と、委員会の人が聞いた時、「フライト」を思い出しました。そうか、世間では英雄扱いでも、まずは機長の判断ミスを疑うんだなと感じます。そしてサリーの判断を疑う事柄を、羅列してきます。

サリー本人も、あの判断は正しかったのかと、ずっと苛まれます。世間の体感と本人との乖離。もしサリーの判断が間違っていると決定されれば、彼は過失を問われ失職。老後のプランも無くなります。最初は夫が無事だった事だけに安堵していた妻(ローラ・リニー)ですが、マスコミに追いかけられる事と、生活の先行きの不安で疲弊していきます。本来なら、今までの人生全てを失ってしまいかも知れない夫を、支えるべきはずの妻。しかし自分の不安を、夫に訴えてしまいます。

これ、本当に同じ立場としてわかります。誰か他の人に言えばと思うかも知れませんが、何の解決にもならないです。今こういう事を言うのは、夫に対して申し訳ないとは、妻もわかっているはず。それでも言わずにいられない相手として、夫を選んだのは、きっと今まで、本当に信頼し合ってきた夫婦なんだと思いました。私は妻のこの率直さも、サリーを奮起させたと思います。

もう一つ、乗務員たち、取り分けジェフが最後まで自分の味方であった事は、とても心強いことだったでしょう。サリーは自分の保身もあったでしょうが、自分を信じて、ついてきてくれた人々(乗客も含む)に、顔向けできない結果はあってはならない。そういう信念が芽生えた事が、葛藤を上回ったのだと思います。

乗客が海洋警備隊やその他で、ニューヨークが一丸となって救われる様子は、本当に感激しました。そして歓喜する人々を見るのも嬉しい。イーストウッドの演出は過剰さはないのに、心に滋養を与えてくれます。

公聴会で、事故調査委員会の隙を突くサリー。どんなに優秀なプロファイリング、シミュレーションとて、実戦で得たの咄嗟の判断や機転には叶わないと立証します。実際の公聴会での出来事なんでしょうが、この展開には、私も日頃そう感じていたのよと、溜飲を下げた観客も多いと思います(もちろん私も)。

「あなたが生きて元気なら、それでいい」と、落ち着きを取り戻し、夫に電話する妻。ちゃんと自分の気持ちを聞いて貰った後なので、心からの言葉です。エンディングに実在の関係者が登場するのですが、サリーの奥さんは、リニーが演じた通りの、素直で繊細な感じの素敵な方でした。実話で登場人物は全員存命なので、監督も気を使ったでしょうが、美談だけに終わらず、心のひだまで描きながらも、この好感度。流石はイーストウッド。これだけの事を盛り込んで、周知の事実を描いて感動させて、96分です(笑)。

私が現存する世界中の監督で、一番の人はイーストウッドだと言うと、それほど映画を観ない人は、訝しげな顔をしたり、酷い場合はせせら笑う人もある始末。やっぱり俳優としてのイメージが強いんでしょうけど、映画監督の認識って、世間ではそんなもんなのかなぁと、ちと残念です。


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