ケイケイの映画日記
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2016年10月02日(日) 「レッドタートル ある島の物語」




何度も寝そうになりました。いやいや、つまらないのではなく、画面を観ていると心地よくて。ジプリ作品ですが、監督は「岸辺のふたり」のマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット。

海で嵐に遭い、無人島に辿り着いた男。筏を作り、何度も島から脱出しようとしますが、不思議な力で、何度も失敗します。失意の底の男の前に、一人の女が現れます。

この作品、セリフはありませんが、声や音楽はあります。まず感嘆したのは、男の役のアフレコの人が上手い。叫び・慟哭・嗚咽・溜息。アニメの表情以上の感情を吹込んでいます。

女は亀(レッドタートル)の精であるのは、作品中描かれます。私は「鶴の恩返し」的な内容なのかと想像していましたが、近いのは「人魚姫」でした。
男性の作った筏を転覆させていたのは「彼女」。遠くからずっと男を見つめていたのかな?この島に居て欲しかったのだと思いました。

作品を観ていると、彼女の気持ちが私にも理解出来ました。幻聴は弦楽器のカルテット、失敗させているのが「亀」だとわかると激昂し、甚振ってしまいますが、その事を後悔し、看病する。生まれたままの姿の「女」を慮って、貴重な自分のワイシャツを提供する、等々とても思いやりがある、品の良い紳士ぶりです。私も段々彼が好きになっていきます。

やがて子供が生まれ、自然の災害に見舞われながらも、愛情に育まれた家庭を築く三人。やがて成人が近づいた息子は、一人大海に旅立ちます。この風景は、坂東真砂子の「山妣」の中で、人里離れた山奥で、生まれた時から母と二人だけで暮らす娘が、その閉塞感が嫌で嫌で飛び出した光景とはだいぶ異なり、両親の愛情を一身に受けた子供が、今以上の成長を望むなら、旅立たせる以外にないのだな、と感じました。それは無人島であれ、私たちの住む街であれ、変わりはないのですね。

その時、あっと思ったのが、息子が海を渡ると言う事は、男も若ければそう出来たはず。息子が亀の精の血を受けついでいるから大丈夫なの?そうじゃなくて、男は女との一生を選んだんだなと思いました。幸せとは、どこに転がっているか、わからないのだなぁ。息子のいない寂しさをじっと耐える女を、後ろから優しく抱きしめる男。「夫婦」でしか分ち合えない感情。切なさと幸福が共存する姿。叙情的なシーンがたくさんある作品ですが、私はこのシーンが一番好きです。

作り込まれたCGではなく、色も水彩画の如く淡々。過剰なものはない、しかし繊細に描きこまれた風景や人物は、人生の意味や意義を、この作品の深海の如く、美しく深く想起させてくれました。一人の人を幸せにする、それだけで充分豊かで美しい人生じゃないかしら?

ラストは、あぁ女の一生だなぁと、ため息でした。彼女は男以外の人間を愛する事は、もうないと思う。

観た直後より、段々と自分の中で熟成するような作品です。


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