ケイケイの映画日記
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2016年04月15日(金) 「ルーム」




本年度アカデミー賞主演女優賞作(ブリー・ラーソン)。ブリーの演技もさる事なら、息子ジャックを演じたジェイコブ・トレンブレイが素晴らしい!実質二人が主役です。これだけの名演技なのに、何故ジェイコブはノミニーにもならなかったのかしら?特異な背景を用いながら、母と子供の幸せとは何か?を、深々考えさせられる、素晴らしい作品です。監督はレニー・アブラハムソン。

7年間見ず知らずの男オールド・ニック(通称)の納屋に拉致監禁されたジョイ(ブリー・ラーソン)。その間にニックの子、ジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)を産みます。息子にありったけの愛情を注ぎ、育てるジョイ。ジャックが5歳になったのを機に、監禁から脱出しようと捨て身の作戦を立てます。

冒頭笑顔も交えて、母と息子の情愛が描かれます。監禁状態であると言う事を忘れさせるような、慈愛に満ちた姿。この状況で、これだけの養育が出来るのは、ジョイ自身が愛情に満ちた父母の元で育ったと想像しました。それがニック登場で、一気に凍りつき、現実に引き戻される。この落差は効いていました。

ジャックは賢い子ですが、まだ五歳。今まで教えたなかった事実を息子の話すジョイ。聞きたくないと泣いて訴えるジャック。怖い話、哀しい話は聞きたくないのです。この反応は観ていてとても辛い。そして、確かに子供はこういう反応するよなぁと、私も子育てしていた遠い日を思い出しました。

脱出劇が本当にハラハラします。その辺のサスペンスを軽く凌駕する出来。初めての外の世界で、青空を見つめるジャックの表情が秀逸。首尾よく警察に繋いでからの、茫然自失のジャックの様子も、確かに子供はこうなるでしょう。脚本は原作と同じエマ・ドナヒュー。本当にこの年頃の子供心が、細部に渡って描き切れているのです。これは子供の存在を愛し、関心を持つ人の描き方です。感嘆しました。それを的確に演じるジェイコブにも、感心します。

凡百の作品なら、これで終わりでしょうが、この作品の値打ちは、むしろこれ以降。ジョイとジャック親子が、忌まわしい体験を経て、やっと自由の身になってからの出来事でした。

やっとの思いで恋しい両親と再会したら、二人は離婚。母(ジョアン・アレン)には既にパートナーのレオ(トム・マッカムス)がおり、父(ウィリアム・H・メイシー)は、遠く離れて住んでいました。戸惑い裏切られたように傷つくジョイ。しかし両親の離婚は、誘拐か家出かわからない状態のまま、娘が消えてしまった事が原因ではないかと思いました。すぐにジャックを抱きしめる母に比べ、娘の顔も孫の顔も、まともに見られない父。

あぁ、父親って脆いなぁ。ジョイが正気を保てていたのは、ジャックの存在だけではなく、もう一度両親に会いたかったからです。夢見るハイティーンだった娘が汚され、孫はその結果です。自分の娘に何の罪科もない事は、充分理解しているはずなのに、抱きとめてやれない父親。ジョイを救出出来たのも、ジャックの様子に何かを感じた婦警が、辛抱強くジャックの心をほぐしていったからです。男性警官は面倒くさいのか、質問さえしようとしませんでした。

私は男性や父親を責めているのじゃありません。事実レオは良き人で、血の繋がりがないぶん、ジョイとジャックが手助けが必要な状態だと認識して、陰から支えています。それでも子供の存在に対して、母親や女性の感受性は、圧倒的に男性より優れているのだと、作り手は言いたいのだと思う。それは主に、女性たちへ、その持てる特性を自覚して欲しいと言う事じゃないでしょうか?

全く外の世界を知らずに育ったジャックでしたが、段階を踏まえ、世間に馴染んでいきます。子供の柔軟さを改めて痛感。対するジョイは、7年間の空白に対して、適応できない。変わってしまった母に対して、母子二人きりの濃密な空間だった納屋を懐かしむジャックが、切ない。

テレビのインタビュアーが、「子供は手元に置かず、誘拐犯に託して、病院の前に捨てるなどしようと思わなかったのか?その方が子供のためではなかったか?」と言う、思いもよらない質問で、一気に精神が崩壊するジョイ。このインタビュー内容に、私は激怒します。

ジョイが気丈さを保てたのは、ジャックの存在です。幼い我が子を育てなければ。その感情は、何より母親に力を与えます。子の幸せだけを願うのが良き母なのか?私は違うと思う。断言出来ます。母と子供、両方が幸せになれる術を模索すべきです。それは母子の数だけ、様々な形で存在するはずです。母親には健やかに子供を育てる義務、幸せになる権利があるからです。

何度でも言おう。母親は自分と子供、両方が幸せになる道を、模索する権利と義務があります。主体は母親で、子供ではない。何故ならそこには自由と重い責任があるから。子に思い責任を持たせるべきではありません。自分の存在は、母の人生を豊かにしたと、子に満ち足りた思いを抱かせる義務が、母親にはあります。

ジャックの長い髪は、私の思う子供から得る力の象徴だったんだなと、鑑賞後に感じました。「お祖母ちゃん、好き」のジャックの言葉に、一瞬言葉を詰まらせながら、「お祖母ちゃんもよ」と涙ぐむジョイの母親。平凡なこの言葉の重さ。離婚・新しいパートナーと言う選択をした彼女もまた、強靭な心で娘の帰宅を待ちたかったからだと、思いました。

ラストにジャックが希望した事。彼の実感。そのシーンの前に、「オッパイ」とジョイにねだるシーンがあったので、あぁここからジャックは、幼児から少年になって行くんだなと思いました。ジャックの希望を叶える事が出来たジョイにもまた、新たな一歩が待っているのでしょう。願わくば、父とも和解してほしい。

女性客が多かったですが、是非男性にも観て貰いたい作品です。








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