ケイケイの映画日記
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2016年04月19日(火) |
「スポットライト 世紀のスクープ」 |
本年度アカデミー作品賞・脚本賞受賞作(監督・作品ともトム・マッカーシー)。鑑賞中ずっと力がはいったので、、観終わった後、とっても疲れました。そしてお腹が空いた(笑)。寝食を忘れて走り回る記者たちと、すっかり気分が同化してしまったからだと思います。でも心地よい疲労感でした。私がティーンだった頃観た、数々のアメリカのヒューマニズム作品を懐かしく思い出すような力作です。実話が元の作品です。
2001年ボストン。地元紙「ボストン・グローブ」の新編集局長として、親会社のニューヨークタイムズから、バロン(リーヴ・シュライバー)がやってきます。バロンは早速、お蔵入りになっていた神父による児童の性的虐待事件を掘り起こせと、編集者たちに命じます。購読者の半数以上はカトリック信者であるグローブ紙には、大変危険な取材となり、古参の記者たちは反発しますが、バロンは押し切ります。こうして記事は、ロビー(マイケル・キートン)を中心とした、マイク(マーク・ラファロ)、サーシャ(レイチェル・マクアダムス)、マット(ブライアン・ダーシー・ジェームズ)のチームで作る特集記事欄「スポットライト」に任される事になります。
出演者は実力派揃いながら、地味な作品です。しかしカトリックが生活に根付くアメリカでは、カトリックではないユダヤ人のバロンが強力に記事を後押しする事、「よそ者」であるアルメニア出身の弁護士ギャラベディアン(スタンリートゥッチ)が、ボストンと言う街全体を敵に回しても、この事件を明るみに出そうとするところに、多種多様な民族で成り立つアメリカと言う国家の、恥部だけではない、正義とルールも浮かび上がらせています。
それは、アメリカだけはありません。どんな小さな社会でも、よそ者の排他と言うのは起こり得る事例で、誰が観ても自分に置き換えやすいのです。変革は必ず混乱を引き起こし、寛容を不寛容にしてしまうからだと思います。要するに、「怖い」のです。
狙われた子らには、父親がいない、貧しいなどの共通点があり、信仰だけを頼りに生きています。神父はいわば神同然。抵抗出来ず、自分の子供が精神 を破綻させても、信仰を守るため秘密を守る母親たち。これも「よそ者」だからわかる、ファナティックは感情です。これも神しか頼るところのない、様々な貧しさが、そうさせるのだと思います。
一から取材していく記者たちですが、灯台下暗しで、記事の貴重なネタは会社の図書室や資料室に、たくさん眠っていました。取材しても、カトリックを敵に回して、記事には出来ないという思い込み。
額に汗して、入念な取材と裏付けを取る記者たち。門前払いなどへっちゃらです。とにかく歩き回る走り回る。時間との闘いなので、家庭はほっぱらかしで、マイクなどは妻に愛想を尽かされている。今はネットで簡単に情報が入り、ライターも小手先の文章が目立ちます。なので、このアナクロ感には、素直に感動しました。記者としての正義感と、他紙に出し抜かれてはいけないと焦るあまり、失態を演じてしまう姿の共存も、人間臭くていいです。「スクープ」は、やっぱりジャーナリズムの華なのでしょう。
繰り返されてきた悲劇として、被害者であり、加害者でもある神父も登場させ、臭いものに蓋をしてきた枢機卿一人の責任とはせず、教会全体の罪であると、記事をまとめようとする姿勢も誠実です。
途中で911が起こり、枢機卿の名スピーチの挿入は良かったです。神の使いは神ではなく、神の子=人間です。枢機卿は立派な人格者であるのがわかり、彼を卑怯者にさせたのは、組織であると思いました。虐待した神父も枢機卿も、皆信仰心は厚いわけです。でも閉鎖的な教会と言う人の集まりに身をおくと、自分のすることは神のする事だと勘違いし、正当化してしまうのだと思います。ロビーが枢機卿のスキャンダルとして世に出してもスクープなのに、 教会の責任を追及出来るまで記事を温存したり、虐待の連鎖を示唆する神父を登場させたのは、作り手は、何が彼らをそうさせたか、個人の罪より、組織の罪に重きを置きたかったからだと思います。
私の大好きなラファロが、ビリングトップでした。しかしオスカーでは助演候補。順番などあまり関係ない作品で、チーム皆が同列だと思います。作り手にも、そういう思いが強いのでしょう。作品賞を取った時のラファロの喜びようは、作り手全員で取ったオスカーだったからでしょう。シュライバーは、今までたくさん観てきたけど、今回が一番良かったです。知的で落ち着いていて、押し出しも効いて、とても素敵でした。
ネット全盛の今、どの紙も部数を減らしているそうですが、我が家は今も取っていて、毎日読んでいます。単純に好きなのです。ジャーナリズムは週刊誌に取って変わられたような立ち位置ですが、是非関係者の方々に、この作品を観て、奮起してほしいなと、新聞好きとしてお願いしたく思いました。それと同時に、この作品にオスカーを与えたハリウッドにも、もう一度期待したく思います。私はハリウッドが好きだから。
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