ケイケイの映画日記
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2016年04月10日(日) 「あやしい彼女」




うんうん、楽しかった!私の大好きな「怪しい彼女」のリメイクです。大筋は元作を踏まえて、細部は日本を感じさせる小技が効いていて、リメイクは大成功。ストーリーは知っているのに、元作と同じ個所で大笑いして、またまた号泣しました。監督は水田伸生。

偏屈な老女のカツ(倍賞美津子)。夫は早く亡くなり、一人娘の幸恵(小林聡美)と孫の翼(北村巧海)の三人暮らし。戦災孤児で、お互い支え合ってきた次郎(志賀廣太郎)だけが唯一の友人で、楽しみは子供と孫だけの生活です。しかしそんな母親にイラついた幸恵と喧嘩した事から、カツは73歳にして初めて家出します。夜道を歩いて、偶然通りかかった写真店で写真を撮ってもらったところ、なんとカツは20歳の頃の自分(多部未華子)に戻っていたのです。早速彼女は「大鳥節子」と名を変え、再び巡ってきた青春を謳歌します。

元作も主演のシム・ウンギョンの超絶なチャーミングさに心奪われっぱなしでしたが、我らが多部ちゃんも全く引けを取らないです。あの可憐な多部ちゃんが、口の悪い婆さんを衒いなく演じる弾けっぷりが、本当に楽しい。古風なファッションも愛らしく、満点の出来です。

元作を観た時、韓国の流行歌を知っていたら、もっと楽しめたろうなと思いましたが、今回は私も知っている年の名曲が数々歌われ、その歌に合わせてカツの過去がオーバーラップするのですが、もうワタクシ号泣。歌は世に連れ、世は歌に連れ。それは歌の数だけあるんですね。自分の幼い頃の事まで思い出しました。もうこの時点でリメイクの意義ありと感じました。アジア各国でリメイクされているのは、「歌の力」を十分に味わった欲しいからじゃないでしょうか?多部ちゃんはすんごく歌が上手くて、元々なんだと思っていたら、この作品のために猛特訓したんだとか。花丸の頑張りです。

その他、元作が母と息子だったのに対し、今回は母と娘。そしてシングルマザー同志。この変更も脚色の上手さで成功しています。カツはたった一人で子育てした苦労から、娘にはそんな思いはさせたくないと、孫育てから家事まで、この歳までずっとずっと頑張ってきたのでしょう。次郎の銭湯でのパートだって、孫にお小遣いをあげたいし、少しでも娘に苦労かけたくないから。でも女同士の気安さから、「お前のため」と言い続け、言い返せない娘の苦しさには気付かない。

これね、私もすごーくわかるんですよ、幸恵の気持ちが。私の母親も同じだったから。そして母はカツほど苦労もしちゃいない。幸恵は母親の苦労を知っているから、言い返せない。そして一生懸命頑張っているのに、苦労は母親だけみたいに言われる。カツはカツで、自分がいるのだから、幸恵は恵まれていると思っている。確かにそうなんですが、幸恵には似合わない、黒のネイルを観た時、彼女がファッション誌編集長時代、如何に無理をしていたのかも感じます。思っている事の五分だけ話さず、時には全部腹の内をさらけ出して話さなくちゃいけないのは、夫婦でも親子でも、一緒だと思いました。

文句なしの多部ちゃん以外に良かったのは、小林聡美。節子の役は、30年前だったら彼女だったですよね?母親の捜索中に、母の軌跡も追う過程で、頑なだった幸恵の心が溶けていくのが、こちらにも届きます。志賀廣太郎も、頼りなくもカツに愛と忠誠を尽くす次郎を、普段の実直でインテリなイメージと差がない演技ながら、笑わせてくれます。意外だったのは、要潤。程よい二枚目感で、薄くも濃くもない存在感が、泡沫の存在である節子とのプラトニックラブに似つかわしかったです。

倍賞美津子だけが、ちょっとなぁ。彼女が悪いと言うのではなく、キャラがイマイチ。元作はいるいる、こんな婆さんと思いましたが、まずセンス悪すぎ。イマドキの高齢者は綺麗な人がいっぱいで、あの髪形・服装はやり過ぎです。嫌われ者感も、ちょっと作り過ぎ。彼女のような大柄でクールなイメージの人より、むしろお姉さんの倍賞千恵子のような、まるい雰囲気の可愛い系のお婆ちゃんに、毒舌吐かせた方が良かったかなと思いました。

とは言え、これも些細な事。私の大好きだった、出来なかった青春を、このまま謳歌してくれと言う子供に、「もう一度お前を産んで、同じ苦労をするのよ」と言う台詞は、今回も健在で、またまた号泣しました。結婚して、この男と結婚しなけりゃ良かったと思う妻は数あれど、この子を産まなきゃ良かったと思う母親はいないはず。思った事あると言うお母さん、それ気の迷いだから(笑)。夫の苦労は嫌だけど、子供の苦労は好き好んでやっているのよ。だから、ぜーんぶ忘れた。カツの「お前のため」も、ただの口癖くらいに思って良し。今回はクレジットになかったので、私が言いましょう。この作品を、全てのお母さんに捧げます。


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