ケイケイの映画日記
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2015年07月22日(水) |
「フレンチアルプスで起きたこと」 |
超〜面白かった!結婚生活10年以上の方々にとっては、シニカルで恐ろしくて笑えて、そして身につまされて泣けるコメディです。個人的には、我が夫を大層見直した事もあり、大変有意義な鑑賞でした。監督はリューベン・オストルンド。今回ちょっとネタバレ気味です。
フレンチアルプスの高級リゾート地に、家族でやってきたエリートビジネスマンのトマス(ヨハネス・バー・クンケ)一家。美しい妻エバ(リーサ・ローヴェン・コングスリ)と、可愛い小学生のクララとハリーの子供たち。絵に描いたような幸せな家族は、五日間のバカンスを楽しむはずでした。しかし、二日目、テラスで昼食を取っていた家族は、ホテルが用意したアトラクションの人工雪崩が、予想以上にテラスに迫ってきて、宿泊者たちはパニックに。一面真っ白になる中、あろうことか、トマスは妻子を置いて、一人逃げてしまいました。幸いケガ人も出ず終息した雪崩でしたが、何食わぬ顔で戻ってきたトマスに、妻子は冷たい視線を投げかけます。
観る前は、女性の解放が世界的に叫ばれる中、男性だけが屈強な男らしさを求められるのは、些か可哀想だと思っていましたが、このケースは冷たくされて当然だわね。怖がる息子のハリーが、「パパー!」と助けを求めて絶叫しているのに、父親が逃げ出すか?それも真横に座っているのに。
エバもそこを怒っているのですね。ホテルで知り合った既婚女性と、母親としての女性の在り方で激論。エバは古風な子供第一、家庭第一で生きてきた女性であるとわかります。しばし共感する私。でも普段なら、あなたはあなた、私は私と、相手の意見も尊重出来たでしょうが、夫の事もあり相手と口げんかになる。ほぼ八つ当たり。自分の今までの献身は、一体何だったんだろ?と、胸に渦巻いているんですね。よーく、わかるわ、わかるよエバさん。
しかし子供たちが楽しみにしているバカンスです。子供を思い、小さなジャブは繰り出すものの、基本は平静。てか、嵐の前の静けさ。本心は夫の謝罪が欲しいのです。しかし!この夫それをいいことに、妻はちょっと不機嫌なだけさ、すぐ機嫌直るよと、逃げ出した事は「なかった」事に持ち込みたい模様。しかし謝罪があるまで、やっぱり許せない妻。小出しにネチネチ蒸し返し、夫の出方を待つ妻。噴火寸前。対する夫は常に背中に冷たいものは走っている模様。
もうね、この展開がわかり過ぎるくらいわかる。女ってこういう展開に持ち込むもんですよ。相手が悪いんだもん、勝算120%。謝ればいいのに、ぐだぐた屁理屈ばっかりこねるトマスに、ええい!早く謝らんか!と思う私。謝るという行為には、誠意が必要で、きっとトマスには「俺が時間やりくりして、せっかく連れてきてやったのに、何だよ、これくらい!」という、尊大なすり替えの心があったんじゃないかな?だから謝りたくない。それとこれとは別です(きっぱり)。この辺の展開は巧みで、とっても面白い。
とうとう、ホテルで知り合った中年と小娘のカップルも巻き込んで、有無を言わせぬ証拠を突きつけられるトマス。このカップルは、最初セックスの事だけ考えているバカップルかと思いきや、中々に知性的で好人物たちでした。いや人は見かけによらないわね。巻き込まれて自分たちに置き換えてしまい、多分その夜はセックスも出来なくて(笑)、可哀想でしたが、この二人の会話も面白い。特に若いのにズバズバ真実を突く小娘ちゃんにも共感します。
うちの夫もトマスみたいな「謝らない」ところは、多々ありますが、ここぞという時は、家族を守ってくれました。被災者の方々には、申し訳ないくらいの被害でしたが、阪神大震災の時も、息子たちが小さかった事もあり、一人で奮闘。うちの夫は危険予知感度が異常に高くて、運転の時もたっぷり過ぎる車間距離、海水浴や川遊びでは、どんなに浅瀬でも子供から目を離さず、キャンプの時でも「遊びに行っていい?」と騒ぐ息子たちを小突きながら、「テント作ってから!」と、怒鳴る。「自分が家族を守れる限度で遊ばせる」がモットーの夫。少々鬱陶しくもありましたが、私たちがキャンプをした場所で、二週間後、夫婦でテントを設営していて、先に海に飛び出した子供三人が水難にあったと言うニュースを聞いた時、どれほど夫には感謝した事か。正にここ一番では、敬意を集める人でした。
翻って家族を養って、そこそこ裕福そうで、普段は妻子から敬意を持たれていたはずのトマスが、一瞬で(それも家族は無事なのに)失墜してしまう。やはり男性には、女子供を守ると言う気概は、時代が変遷しても、失って欲しくない特性なのだと思います。それは女性に母性を大切にして欲しいと思う気持ちと一緒。男女は平等でも、各々優れた特性は、尊重して未来永劫守って行きましょうね。
で、それでも謝らないトマス。俺はダメな男なんだー!と自虐して号泣するも、それでも謝らない。妻が望んでいるのは、こういう形の懺悔じゃないのに。「俺が悪かった。これからは絶対家族を守るよ」と、最初の方で謝っていれば、こんな大層な事にはならなかったのに、この期に及んでもまだ言えない。本当に何で?もうこれは、社会問題にしていいかも?。エバはもう一度、夫にとって一番大切なのは、私たちだと信じたいだけなのに。
子供たちが、両親を気遣っている様子が健気で、本気で泣けました。特にみっともなく、例の兵庫県代議士のようなトマスの号泣っぷりに、「パパー、泣かないで!」と取りすがる様子には、私が号泣。エバはシラケたまま。そしてシラケたママに、「ママも来て!」。有難きかな、子供とは。血は水よりも濃いねぇ。自分たちの危険にさっさと逃げ出した父親の涙に、すっかり怒りは水に流しています。この光景は、やっぱり夫婦は他人だわねぇと痛感。子供は忘れても、妻は一生忘れませんから(笑)。
私の望んでいる事は、こういう事なの!と、実力行使で教育的指導をする妻。夫は妻の望んだ行動を取ってくれますが、それが妻の仕組んだ事だとわかっているのか?わかっていないようです。夫族がかように鈍感なのは、万国共通なの?世界的な問題ですよ。
うちの夫より危険予知感度が上がったエバの様子は、今後ネチネチ蒸し返す予感必死でした。いや私だって「あの時、アンタは私と子供を置いて・・・」と忘れた頃に言い続けますよ。スウェーデンの夫婦が、まるで隣の夫婦のように身近に感じました。雪山の目にも涼しい風景と同じくらい、心も涼しくなる作品。既婚者には、暑気払いに打って付けです(笑)。
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