ケイケイの映画日記
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2014年06月12日(木) |
「グランド・ブダペスト・ホテル」 |
予告編を見てから、とっても楽しみにしていた作品。実は私、ウェス・アンダーソン監督作品は、前作の「ムーンライズ・キングダム」が初めてでして、それが大当たりしたもんだから、すっかり待ち焦がれちゃって。今回も超豪華キャストで奏でるラブリーなミステリーに、しっかり魅了されました。
1932年。グランド・ブタペスト・ホテルは、「伝説のコンシェルジュ」グスタヴ・H(レイフ・ファインズ)の最上級のおもてなし術のお蔭で、一流ホテルの名を欲しいまま、大盛況です。しかし大切な顧客でグスタブと懇意だったマダムD(ティルダ・スウィントン)が亡くなり、その疑いがグスタヴにかけられたから、さぁ大変!グスタヴは可愛がっているベルボーイのゼロ(トニー・レヴォロリ)の助けを借り、嫌疑を晴らそうとします。
とにかくこれでもかと言うくらい、次々名のある俳優が出てきます。それぞれ趣向を凝らした扮装で出てくるので、それもお楽しみの一つです。私はレイフ・ファインズとエドワード・ノートンくらいしか頭になかったので、すんごい得した気分。特に嬉しかったのはジェフ・ゴールドブラム。全然新作では観ていなかったので、素敵な老年に向かっているようで、とっても嬉しかった(あんな最後ですが・・・)。髪の毛のせいで「21世紀のアラン・ドロン」になれなかったジュード・ロウも、そのお蔭で、色んな役を振り当てられ、器用にこなしているのを見ると、これこそ災い転じて福となす・・・かしら?(笑)。レイフは自分の持ち味を上手く使って、楽しんで演じているのがわかります。ウィレム・デフォーは、歯並びから「ノスフェラトゥ」を思い出しました(笑)。怪演の悪役だけど、まだまだクールでカッコ良いですよ。
建物や小物など、美術がとにかく素敵!砂糖菓子のように、本当にラブリー。ラグジュアリーな中に少々のハリボテ感がキッチュな雰囲気を香らしているのも良いです。だって現在は「魅力的な廃墟」となっているのですから。
遺産狙いのため、血生臭い殺戮が起こり、冤罪や底辺の若きカップル(ゼロとアガサ(シアーシャ・ローナン)の純愛があるかと思えば、老女のセックス問題(笑)なども織り込まれ、結構ドロドロなんですが、ユーモラスに漫画チックにポイントをずらし気味に描いているので、ずっとクスクス笑えます。今回は「アルカトラズからの脱出」@アンダーソン版もあり、結構ハラハラしますよ。
グスタヴは懇意と書くとあれなんですが、要するに金持ち婆さんたちの夜のお相手もしている。しかしですね、そこには博愛精神と言うか、敬意と言うか、とにかく言いなりでなくて、断じて男妾なんかじゃないわけ。マダムD(84歳の設定ですよ。ティルダ様怪女優路線まっしぐら)のネイルの色に「吐き気がする」と物申す様子は、ちゃんと彼女を女性として見ている。もちろん酸いも甘いも噛み分けた婆さん方、自分たちは顧客と言う媒介を通じてのグスタヴとの仲だとは、認識しているはず。でもそこにそれ以外の「何か」があるから、こうして毎年ホテルへやってくるのでしょう。それはグスタヴとて同じ。そのニュアンスが演出から香るのが、とても素敵でね。
グスタヴはエレガントで教養溢れる立ち振る舞いをする人です。でも激昂すると「クソ○○!」発言が多発し、多分は生い立ちは下々なのでしょう。努力して洗練された今がある。私も彼に魅了されていきましたが、それは彼が優美なハンサムな男性だからじゃありません。そこかしこに、恵まれない生い立ちも忘れず、大切にしている人だと、思えたからです。
グスタヴは身内がいるのに孤独に苛まれる老女たちを愛し、親を亡くした移民のゼロを偏見なく、「私のベルボーイ」と守り、顔に大きな痣のあるアガサの外見に惑わされず、内面の賢さを見抜けるのか?彼も同じように底辺でもがき偏見にさらされ、孤独と屈辱を味わってきたからだと思います。それを忘れずにいるから、様々な人の哀しさがわかるのですね。本当に素敵な人ですよ。「クソ○○!」発言も含めてね(笑)。
そんな彼は優美なだけじゃなく、戦争で自分が育て守ってきた美意識を壊されることに、憤懣やるかたないのです。グスタヴの時代に流されない気骨の中に、監督の戦争への思いを込めたのだと思いました。
ドタバタのコメディタッチのミステリーの中に、実は愛と欲望、希望と勇気、時の流れの哀切、反戦の心などがてんこ盛りに練りこまれながら、美味しく味わえる麗しい作品です。ちなみにアンダーソン監督作品では、一番のヒット作だとか。是非ご覧くださいね!
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