ケイケイの映画日記
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2012年07月17日(火) 「リンカーン弁護士」




思わぬ拾いもの作品。実は「ヘルタースケルター」目指して、なんばパークスに出向いたのですが、次次回までソールドアウト。それでちょっと気になっていたこの作品に変更しました。お目当ては主演のマコノヒーと、40半ばから絶好調の元妻役のマリサ・トメイ。単純な冤罪かと思われた事件が複雑な様相を呈し、意外な方向へと走ります。どこに着地するのか、ちょっと知的な好奇心がずっと持続する作品です。監督はブラッド・ファーマン。

高級車リンカーン・コンチネンタルを事務所代わりにして仕事する弁護士のハラー(マシュー・マコノヒー)。彼の仕事ぶりは司法取引を駆使して、依頼者の利益を最優先させる事を最重視。相手を観ながら時には賄賂を使い、法外な弁護料も取ります。今度の依頼人は富豪の息子ルーレ(ライアン・フィリップ)。娼婦相手に暴行されたと訴えられますが、彼は無実と言い張ります。相棒の調査員フランク(ウィリアム・H・メイシー)と共に事件を探るハラーでしたが、そこには彼を待ち受ける巧妙な罠が仕掛けられていました。

主演のマコノヒーを初めて観たのは、正義感溢れた青年弁護士役の「評決のとき」でした。あれから幾歳月、今回は欲のためなら裏道も通る、酸いも甘いも噛み分けたベテラン弁護士。しかし同じ弁護士だった父親からの「無実の者を有罪にしてしまう事が一番恐ろしい」との教えが心に根付く、弁護士としての良心は持っている人です。

「無実≠無罪」。ハラーが今まで司法取引して、刑を軽減してもらった依頼人とは別のベクトルで、この論理が展開されます。弁護士には守秘義務があり、依頼人との面談での情報は他言出来ない。このことを最大限に悪用するルーレ。周囲の者に魔の手がかかり、じわじわと追い詰められていくハラー。弁護士として依頼人の利益である無罪は勝ち取らねばならない。それは自分や別れた妻子の身の安全をも守ることなのです。

並みの弁護士ならここで終わるのでしょうが、一見海千山千の悪徳弁護士に見えるハラーですが、百戦錬磨の今までの仕事は伊達ではなかったのですね。依頼人をお望み通り無罪に導きながら、その背後を暴くという勝負に出るのです。危険を犯してそこまでするのは、自分と家族だけではなく、救いたい人がいたからです。それこそが父親の教えであり、弁護士としての正義なのだと感じます。

この勝負が本当にスリリングでね、派手なアクションはないのですが、とてもスリリング。上記に書いた物語の骨格以外に、元妻子との交流、優秀な調査員であるのに、何となくいわくありげな調査員フランク(ウィリアム・H・メイシー)や、黒人運転手との会話などでハラーの日常を浮き彫りにします。彼の人間味溢れた側面を描き、観客に好感を持たせることも忘れません。要するに人生には白と黒だけではない、グレーゾーンの存在意義を知る、大人な男性なのですね。

唯一欠点は、ルーレが何故そのような事をしたのか?彼の動機が掴めない。母親の身に起こった事件が2007年だと言うので、その事が起因しているのでしょうが、それも不確か。多分原作では母子とも、掘り下げてキャラが描かれているのでしょう。元妻とフランクは、トメイ&メイシーの味のある演技で、作品で描かれる以上の感触が得られます。

私は元々マコノヒーが好きなのですが、最近は彼の心身ともの成熟した男性的魅力を活かせる役がないなぁと寂しく思っていましたが、今回は懐の深さも感じさせる当たり役だと思います。試合に勝って勝負にも勝ちたい気の強さに、今回は惚れました。カラダばっかり褒められるけど、男前だし知性と演技力だってあるんだぞ!次回作はソダーバーグの男性ストリップを描いた作品だそーです。多分次作も当たり役ですね。


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