ケイケイの映画日記
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2012年07月22日(日) 「ヘルタースケルター」




岡崎京子の原作は、だいぶ前に読みました。主人公りりこは、演じる沢尻エリカのスキャンダラスな私生活とダブる部分が多い役です。エリカ嬢、正に体を張って頑張っていました。その意気込みは大いに買えるのですが、過激なシーンやケバケバしい美術の割には内容は浅く、出来としたら少し物足りないものでした。監督は蜷川実花。

人気タレントのりりこ(沢尻エリカ)。飛ぶ鳥を落とす勢いの彼女ですが、誰にも言えない秘密がありました。事務所の社長(桃井かおり)は、「あの子は目ん玉と耳とあそこ以外は、全部作り物」と言います。全身整形で作られた美女りりこ。真実の発覚に怯え、数々の後遺症に苦しむ彼女。検事の麻田(大森南朋)は、りりこに美容整形を施したクリニックの院長(原田美枝子)の臓器売買の容疑を捜査している時、りりこにたどり着きます。

りりこを脅かす天然美女・吉川こずえに水原希子。映画見るまで、すっかり彼女の存在を忘れていました。他の人は専属メイクの錦ちゃん(新井浩文)までちゃんと覚えていたのに。芸能界が舞台なのですから、いつか若い子に追い落とされるのは常ですからね。吉川こずえは重要な役です。

なのに忘れていた。多分私的にはいらない役だったのでしょう。今回少し膨らませが役柄でした。しかし私はその事に追い詰められるりりこより、インタビューで如何にも自然派を装って答える中、独白で「みんなこんな答えを期待しているんでしょう。そんな訳ないじゃん。私がこのスタイルと白い肌を保つため、どれだけ努力しているか、あんたたちなんかにわかるもんか」的な台詞(コミックが手元になくて、確かめられず)に代表される醜悪で哀しい強さと、聡明ではない生き残るための賢さを期待していました。しかし映画で描かれるりりこは、ただただ己の崩壊に怯え、自分の信奉者であるマネージャーの羽田(寺島しのぶ)に八つ当たりし、神経症的に心を病む女性でした。私が原作のりりこに惹かれたのは、誰も経験した事のない境涯に放り込まれ、激しい感情失禁を繰り返しながら、類い稀な強さで乗り越えた女性だったからです。

「あんた、食べ過ぎじゃない?後で吐いときなさい」とりりこに言う社長。「モデルで吐いてない人は、いないと思います」(こずえ談)。でもこの言葉の恐ろしさ、全女性に向けられた言葉じゃなくて、「モデル」と言う選ばれた職業の女性だけに聞こえました。若さと美に追い詰められて行くのは、何もりりこやこずえだけじゃない。昔は年が行けば自然に「女」と言うステージを降りられたのに、今じゃ美魔女やアンチエイジングなんて言う言葉が追いかけてくる。いつまでも美を追いかけ美に追い詰められる私たち女性。
世間に「若く美しい外見の女性であれ」を求め続けられるんだもの。マツエクにカラコン、矯正下着。注射だけのプチ整形。原作が書かれた15年にはなかったものが、今は当然のように大手をふって町に転がっています。「こんなもん、ドラッグのようなもんよ。次々強いのが欲しくなる」(りりこ)は、今じゃ化粧品だけではなくなり、普通の女性にものしかかっている。りりこの姿はピラミッドの頂点であり、誰もがその危険を孕んでいるはず。それがりりこと言う女性に特化したように感じるのが残念でした。怒りの矛先は世間に向き、そして自分へと向いて欲しかった。

りりこの部屋は本当にケバケバしくて、趣味の良い品も数に溢れたら醜悪になるんだと感じます。それは人口美の極地である整形美女を表しているんですね。おまけに乱雑に散らかりまくっているのは、彼女の心を表しているんでしょう。美術はほとんど監督の私物と聞き、ちょっとびっくりしましたが。

しかしオールヌードを含み、過激なファックシーンや台詞、スキャンダラスな本人とかぶる内容にも躊躇する事なく、堂々とこなしたエリカ嬢には感心しました。監督の本職はフォトグラファーなので、静止画像のりりこの様子は本当に美しく艶やかです。台詞まわしに難があったり、私は彼女の演技が上手いと思った事はありませんが、この存在感とキャラは得難いものです。これからも頑張って映画に出て欲しいと思います。

他には新井浩文が以外にゲイのメイクアップアーティストにはまっていて、上手かったです。桃井かおりも、原作にもあった二人だけが通じる愛情を感じて良かったし、ミスキャストだと予想した寺島しのぶも、さすがの演技で唸りました。ただ寺島しのぶは、もう役柄を選んだ方がいいと思います。いくら上手く演じても、今の彼女のキャリアの足しになる役だとは思わないなぁ。最大のミスキャストは大森南朋。もう全然ダメ。哲学的詩的な台詞がギャグに思えます。この役は一見賢そうで誠実、でも無機質でちょっと酷薄な感じで、私は向井理が合うと思います。

色々書いたけど、観て損な作品ではないと思います。私は原作と比較してしまいましたが、見世物映画(褒めてます)としては充分合格点です。どうぞお確かめを。


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