ケイケイの映画日記
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2012年04月29日(日) 「捜査官X」




1800円出して観ました。実に10年ぶりくらい。えっ?定価やん?と思われるでしょうが、私くらい数を観る人は、まず1800円で観ることはないです。各サービスデーを使ったり、各映画館の会員になったり、チケット屋で買ったり、ネットで落としたり、ポイントでタダで観たりと、手筈は色々。約二週間ぶりの映画だったのでね、あんまり考え込む作品はいやでした。なんかこうね、パーっと!華やかで筋もちゃんとした作品が観たかったのよん。なんばパークスで上映の作品は、ほぼ必ずチケット屋で1300円の前売りが公開後もあるのでね、お気楽に難波に出たら、どこにもない!他に観たい作品は難波でやってないし、余分に電車賃使って梅田に出るより、自分の映画的直感を頼りに、潔く1800円出したところ、これが大当り!二回ほど涙も流し、色んな意味で大満足の作品でした。監督はピーター・チャン。

1917年、中国雲南省の小さな村。静かなこの村に、見るからに怪しい二人の不審な男たちがやってきます。案の定二人は両替商で強盗に入ります。その場に居合わせた紙職人のジンシー(ドニー・イェン)が揉み合う内に、二人は死んでしまいます。二人の内一人は指名手配の凶悪犯。何故丸腰のジンシーが、屈強な二人と戦えたのか?捜査に当たったシュウ(金城武)は疑問をだきます。

冒頭、妻アユー(タン・ウェイ)と二人の息子たちと、つましくも穏やかに生活するジンシーの暮らしぶりが描写されます。しかし!まさかドニーが温厚で誠実なだけの父親や夫であるはずはないと感じるので、この幸せな風景は、後々まで強く自分の中で引っ張ります。

シュウは頭脳明晰なのか、ただの妄想炸裂のイカれた刑事なのか、その様子は紙一重。すんごい推理力を発揮するかと思えば、とんでもないドジを踏んだり、大真面目なのに結構笑えるキャラでした。私はちょこっと「スリーピー・ホロウ」のイカボットを思い出したけど、決して腰抜けではありません。その推理の内容も、おぉこれこそ中国四千年かと思いきや、ちょっと「必殺」の仕事人のお歴々が想起されたり、深いのか戯画のようなのか、よくわからんけど面白いので可。金城君は今回ちょっと大根に戻っていますが、その大根加減がシュウのキャラと絶妙にマッチしており、好演に見えます。もう元の「大」大根には戻らないようで、ホッと致しました(ちなみにファンです)。

中盤以降、段々とジンシーの過去が明るみに出ます。これからお待ちかね、ドニーのアクションシーンが炸裂。推理物から武侠映画へと上手くシフトしていきます。自分の汚れた残忍な過去から必死で逃れたいジンシー。ここで冒頭の幸せな風景が思い出されます。人として正しく真っ当な暮らしは、例え貧しくとも、季節の移り変わりを肌で感じ、喜怒哀楽を感じる人生であるはず。それは良き心をもたらすものです。それに引き換え、裏の暗闇ばかりに生きる人生は、人間らしい感情とはかけ離れた暮らしだったでしょう。一度「善」に目覚めたジンシーを、また悪の世界に引きずり込もうとする者たちに知らせてしまったのが、正義の立場であるシュウであるのが皮肉。

シュウの「正義」についても、簡単に答えが出せないのも深みを作っています。非情に成りきれないシュウを、アユーは「あの人は自分が優しい人だとわかっていない」と評すのも、心優しいです。

アユーにも辛い過去があり、必死で今の家庭を守ろうとする姿が健気で切ない。「あなたはあの時、出会ったのが私でなくても、この村にいついた?」と、夫ジンシーに尋ねる様子に、ワタクシ落涙。そうですよ、女性は素直に自分の心を愛する男性に伝えねば。タン・ウェイ好演でした。そんな過去があったから、眠る時も夫の寝間着を掴みながら眠るのですね。冒頭の何気ない平凡な描写は、本当は、夫婦ともが必死で築いた、平和な風景だったのです。

もう一つ泣いたのが、「ある父親」が、子供の頃の息子との思い出を語ったところ。あぁ親と言うもんは、子供がもうすっかり忘れた出来事も、一つとして忘れず、脳裏に焼き付けているのだと、自分を重ねてしまいました。それを語ることで、去りたい子供を迷わすのですね。ある意味卑怯なのですが、親を追う子供が大人になれば、今度は親が子供を追うのだなと、人の世の常を、深く感じ入った次第です。その父親は怖い怖いお父さん。しかし紛れも無く父親であるのです。怖ければ怖いほど、私には切なかったです

と、このように、派手に見せ場を作りながら、色々人の世や人生についても、深くも浅くも感じられて、とっても満足しておりました。私は監督のチャンの作品では、「ラヴソング」が大好きで、彼の武侠映画って、はて?だったのですが、とても面白く観られて、チャンの力量と共に、この手の映画は中国の人には、魂が呼応するもんなのだろうと感じました。伝説のジミー・ウォングの衰えぬアクションもたっぷり拝めます。当時カンフー映画に熱狂した現在熟年の方々にもご満足いただける作品です。金城君目当ての女性にはちょっと違うかも?今回はワタクシ、ドニー萌え致しました。


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