ケイケイの映画日記
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2011年03月30日(水) 「お家をさがそう」




大好きな大好きなサム・メンデスの作品。現在活躍中の監督の中で、一番好きです。辛辣にシニカルに人生を描く人ですが、その奥に見える真心のある優しさと温かさは、この人ならではのもの。この作品ではその辛辣さは也を潜め、意外なほどストレートな優しさに満ちていて、ある意味新境地ではないかと思いました。ホントに裏切らないなぁ、この人は。大いに笑って、ほこほこ心が温まる大好きな作品です。

バート(ジョン・クラシンスキー)とヴェローナ(マーヤ・ルドルフ)は、30代半ばの仲睦まじい同棲中のカップル。ヴェローナの妊娠を機に、子育てに適した土地に引っ越そうとします。しかし育児の手伝いを期待していたバートの両親(ジェフ・ダニエルズとキャサリン・オハラ)は、出産前にベルギーに引っ越すと言いだし、計画は振り出しに。親類や友人を頼りに、二人は理想的なお家を求めてアメリカ横断旅行することになります。

行く先々でヴェローナのお腹を観ては、ワ〜、キャ〜!とみんなが歓声を上げる様子が微笑ましいです。そうなんだな、妊婦さんを観ると何だか幸せな気分になり、心が善良になるもんです。妊娠させた張本人のバートはと言うと、これが蚊帳の外で、生まれる前から父親って分が悪いんだと、つくづく感じます。

バートの両親がカッコいい!バートは二男ですが、母親は「23歳であんたを産む時・・・」的苦労話をしていましたから、長男は更に若い時の出産ですね。巷の風聞に寄ると、「子育てを手伝ってもらってありがたい」ならまだしも、「孫の世話をさせて貰って、嬉しいだろう?」的な考えが、未だに若い人にあるようで愕然とします。今の中高年が、孫を生き甲斐にするわけねーだろ。しかし子育てを手伝うため、実家の親が結婚した娘の近所に引っ越す話があるのも事実。いつまで子供子供って言ってんだよ。私はバートのお母さんを目指したいな。アメリカのカップルも子育ては親に依存するのかと、ちょっと意外でした。

行く先々で彼らの目指す子育てとは程遠い家庭を見せられる二人。子供を健康的な環境で、温かく見守って伸び伸び育てたいだけなのに、それが何と難しい事か。全てデフォルメされた感はありますが、共通しているのは、「こうでなければならない、そうでなければ幸せではない」という思い込みです。それが自分の人生を窮屈にして、子供を巻き込んでいるのがわからないのですね。中には「そうでなければならない」に切実に共感してしまう家庭もあります。その前の家庭で無神経な「そうでなければ」に遭遇し、憤慨して痛快なしっぺ返しをした二人ですが、今度は子供に恵まれた自分たちの存在自体が、無自覚に隣人を傷づけることもあるのだと悩んでしまいます。その誠実さが観ていてとても好感が持てました。本当にいいカップルなんですよ。

ヴェローナは22歳の時に両親が亡くなっていて、その心の傷がまだ癒えていないのか、バートの求婚は断り続け、今に至ります。ヴェローナは白人と黒人の混血で、聡明な妹グレイス(カルメン・イジョコ)との会話から、お母さんが白人みたい。「ママのように良いお母さんに成れるわ。ママとパパの話をして。私より姉さんが覚えているはずよ」と、妹らしいグレイスの問いかけに口をつぐむヴェローナ。姉しかしらない両親の諍いも観ていたのかも。彼女の繊細な感受性が見え隠れします。彼女にも「家庭はこうであらねばならない」という、呪縛があるのかも知れません。壊れてしまうことが怖いのですね。

そんな彼女を温かく包むバートが最高!私もこんな人と結婚するはずだったのになぁー。甲斐性もないし頼りがいがあるとも言えず。頓珍漢な励ましには、いっぱい笑いましたが、そこには精一杯の思いやりの心があり、決して無神経ではありません。誠実で温厚なれど、自分やパートナーが侮辱されるや、毅然と言い返す男らしさもあり、身内の一大事にはすぐ駆けつける情の濃い部分もあります。つまり少々頼りないけど、ここ一番は守ってくれる人なのです。これが大事なのよ、男の人は。「姉さんはラッキーよ」と言うグレイス。わかってるんですね。

片方が凹めば片方が励ます姿は、これが支えるという事だなぁと感じました。それが交互に来るのだから最高のパートナー同士だと思います。そんな二人が見つけたお家は、家とは場所や環境よりも、誰が住むか、それが一番大事なんだと感じさせました。

ジョン・クラシンスキーとマーヤ・ルドルフが、本当に素直に好演してくれたおかげで、この平凡で誠実なカップルにすっかり笑わせ泣かせてもらいました。ちなみにジョンの奥さんはエミリー・ブラント、マーヤのパートナーはポール・トーマス・アンダーソンですって。それぞれ地に足ついた、堅実な感じのカップルですね。

これから結婚を考えている人に、是非観てもらいたい作品です。決めた家に住み始めたら、きっとヴェローナはバートの求婚を受け入れるだろうと思います。


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