ケイケイの映画日記
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2011年04月05日(火) 「私を離さないで」




とてもとても美しくて切ないお話。手放しで絶賛したいのですが、それなのに出来ない私がいます。あちこち引っ掛かりがあって、素直に泣けないのです。本当に惜しい!原作はカズオ・イシグロ、監督はマーク・ロマネク。

広大で緑豊かな場所にある寄宿舎ヘールシャム。幼い頃からたくさんの子弟たちが、ある秘密を抱えてこの寄宿舎で暮らしています。18歳になり、この寄宿舎を出なければならなくなった生徒たちは、それぞれ農場のコテージで共同生活を送ることになります。仲良しのキャシー(キャリー・マリガン)、ルース(キーラ・ナイトレイ)、トミー(アンドリュー・ガーフィールド)の三人も同じ農場へ。ルースとトミーがカップルになり、微妙な関係が終わりを告げた数年後、彼らの試練が始まります。

前半は70年代とは思えぬクラシックな、ヘールシャルムでの子供たちの生活が描かれます。愛らしく素直な子供たちは一見普通ですが、親は誰も面会に来ず、寄付のおもちゃは誰も使わないようなガラクタばかり。それを大層嬉しそうに受け取る彼らを、蔑みのような目で観る大人たち。実はチラシや予告編で、彼らの秘密は予想がついていましたが、それが確信に変わっていきます。

意外なほど早く、秘密は明かされるのですが、作品はそれがオチではありません。「今まで描かれたことのない秘密」と言うコピーは嘘で、実際は古くから何度も描かれている、アイデンティティを求めて彷徨う若者たちが、静粛に美しく描かれ切ないです。しかし・・・。

本当に情感豊かに彼らの心を掬い取るので、もういいかなぁとも思ったのですが、彼らの生は限りあるもので、もがき苦しみながらも、全員がそれを受け入れます。苦しいでしょう辛いでしょう。実際恋愛したことで、自分たちの存在意義や意味を見つけ出そうとする必死の姿は、本当は滑稽なはずなのに胸を打ちます。でもそうなら、何故逃げないの?

この作品はSFではないので、彼らが反乱を起こさないのはわかります。でもこんなに素直に、自分の人生が限りある事を受け入れられるものでしょうか?校長(シャーロット・ランプリング)は絵を描かすことで、彼らが魂を持っているか探っていた、と言いますが、そんなことをしなくても、幼いころの彼らの様子を見れば、豊かな感情を持っているのはわかるはず。感受性が育てば、自我の目覚めもあるはずでは?この辺字幕の不備もあるのか、絵を描かす事=ギャラリーの存在の意味が、イマイチ掴めませんでした。なので、盛り上がるはずの終盤も消化不良気味に。このの事がどうしても頭をかすめ、ググッと作品に入れませんでした。

私が一番やるせなかったのは、「人生」を終えたルースの扱い。人間の傲慢さが、静寂の中に痛ましく描かれています。恋もし喜怒哀楽の感情も持つ彼ら。普通である事が、一層の哀しさをもたらすという描き方は良かったです。

主役三人は皆好演。特にキャリー・マリガンは憂いと気品と知性を共存させ出色。親しみやすい庶民的な容姿からは結びつかないですが、とにかくスクリーンに映る彼女は、圧倒的に観る者を惹きつけます。なかなか類を見ない個性で、本当に素敵でした。

という事で、やや残念な感想です。私の不満は原作を読めば解消できるかもですが、映画と原作は別物、出来れば映画だけで完結して欲しいなぁと、良い作品だっただけに今回は強く思いました。


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