ケイケイの映画日記
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2010年03月03日(水) |
「明日に向って撃て!」(午前十時の映画祭) |
大好きなジョージ・ロイ・ヒル作品第二段。今回これだけは何があっても絶対観ようと思っていた作品です。何故かというと、劇場は初めてだから。私はローティーン時代から成人まで、ずっと「スクリーン」を読んでいましたが、そこの読者投稿欄に毎週のように賛美が送られていたのが、この作品です。今は亡き戎橋劇場で時々上映されていたのですが、当時は自分独りで映画館へは行けず、涙を飲んで見送っていたわけ。もちろんテレビやビデオでは幾度となく観ていますが、今回本当に久しぶりに観て、ほとんどのシーンを覚えている事に感激。そして若かりし頃観た時と、同じ様な感慨も再び抱きました。何故かと言うと、この作品は、アウトローの長過ぎた青春を描いているからです。
銀行強盗や列車強盗を繰り返すブッチ・キャシディ(ポール・ニューマン)とサンダンス・キッド(ロバート・レッドフォード)。二度現金輸送中の列車を襲った事から、そこの社長は激怒。腕利きの者たちを集めて、二人を追います。命からがら逃げ切った二人は、サンダンスの恋人エッタ(キャサリン・ロス)を連れ、南米ボリビアに新たな展開を求めて出発します。
純然たる西部劇です。登場人物のいでたち、ガンさばき、酒場の様子に馬の使い方。この作品が今も色褪せないのは、西部劇だからというのも、あるのでしょう。
冒頭で既に「盛りは過ぎた」というセリフが出てくるし、追いつめられると軍隊に入るなど、虫のいいことを言う二人。自分達の時代のドアが少しずつ閉じられていくのをわかっているのに、変化しない、したくない。否応なく「老い」の兆しが見える年齢ならともかく、この二人くらいなら、その気持ちはとてもわかるのです。
どうしようもないアウトローなのに超素敵に見えるのは、もちろんニューマンとレッドフォードの功績ですが、襲うのは会社や銀行のお金で、個人はなし。何度もサンダンスの御自慢の早打ちのシーンがありますが、殺しはラスト近く山賊だけです。この辺は観客に嫌悪感を抱かせない上手い脚本だなぁと思います。
サンダンスがエッタを連れて行きたくなったのも、いつ死ぬかわからないという実感が、目の前に突き出されたからだと思いました。応じるエッタの感情は、今も昔も変わらない女心もあるんだと思わせます。
演じるキャサリン・ロスは、ヒット作を数々持つ主役二人に比べ、この作品と「卒業」くらいしか、有名どころの作品はありません。それも主役ではなく相手役です。私は若い頃、そんな一発屋めいた役者は可哀想だと思っていました。しかし「美人で頭が良くて、優しくて上品で、そんな女を探す」と言ったサンダンスの恋人として登場したシーンを観て、ロスはなんて幸せな女優さんだろうと思いました。私はあの大きな目の愛らしい顔立ちから衣装まで、全部覚えていたからです。私は一生彼女のことを忘れないはず。そんな人が世界中にいるんですもんね。
ブッチとエッタの自転車のシーン、サンダンスの「Ican't swim!」のシーン、そして映画史に残るラスト。その他どのシーンを切り取ってもユーモアに満ち、そして美しいです。二人は南米のボリビア、当時とてつもな田舎町の警察に包囲され、命を落とします。数々の悪行を働き、盛りを過ぎて都落ちしたアウトローには、似つかわしい最後です。しかしこのラストさえ、青春の終わりを潔く感じさせ、胸に沁みる美しさです。この情感の豊かさこそが、この作品が永遠に愛される理由かもしれません。
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