ケイケイの映画日記
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2008年02月04日(月) 「アメリカン・ギャングスター」




わ〜、面白〜い!この作品は夫と観る約束をしていたので、もうちょっと後になるかと思ってたんですが、何故か絶対に早く観たいというので、公開二日目に観てきました。本当いうと昨日は風邪気味で、2時間40分の長尺なので、眠くなったらどうしましょう?と危惧していましたが、そんな心配は全く杞憂でした。監督のリドリー・スコットは、大作ばかり撮っているイメージのある人ですが、名のあるスター俳優を使って、コツコツ中規模の出来の良い娯楽作もたくさん撮っています。今回の作品も、名作だとか秀作だとか言う作品ではなく、見応え充分の厚みのある娯楽作でした。

70年初頭のアメリカ。ハーレムに住むフランク・ルーカス(デンゼル・ワシントン)。長年黒人社会に君臨するバンピーの運転手をしていたフランクは、警察にも白人にもイタリアンマフィアにも邪魔されない、黒人のための暗黒社会を作ろうとしていました。そして手を染めたのが麻薬の密輸密売です。その頃ニュージャージ州では、刑事のリッチー・ロバーツ(ラッセル・クロウ)が、麻薬捜査班の主任として、指揮を任されることになりました。

私は最初からフランクVSリッチーの対立を描いているのかと予想していましたが、彼らが対峙するのは終盤から。それまでは二人がどんな男か、じっくり分けて描いています。これはとても良い手法だったと思います。

この作品は実話を元にしたお話です。当時刑事の汚職は既成事実で、ワイロを受け取らなかったリッチーが、仲間から干されてしまうのにはびっくり。のちにリッキーが特命を受けた麻薬捜査にはニューヨークの刑事が絡んでおり、汚職の尻尾を掴んでいるのに、居丈高にあしらわれる様は、腐敗の根深さ表現しており、観客が怒るように仕向けてあるような気がします。

なので、のち麻薬王となるフランクは本当は悪役なのですが、そう感じさせません。幼い頃から貧困と犯罪の渦の中で育ち、白人たちから虐げられてきた黒人たちのため、喰い物にされるのではなく、自分たちだけの麻薬の利権を確立しよとする姿は、むしろ共感を呼びます。

フランクは血縁関係の人脈を駆使し、タイから直接純度の高い麻薬を調達するのですが、これが聞いてびっくり見てびっくりの方法で、こんなところにまで戦争が絡んでいるのかと、暗澹たる気持ちになります。

しかしフランクはそんなセンチメンタリズムを感じる暇もなく、どんどん闇の世界で手を広げていきます。そして故郷の親兄弟を呼び寄せ、みんなにその利権を分け与え、勢力を拡大していきます。この辺の血の重んじ方は、私にはとても理解出来るものでした。

チンピラのような派手な格好になっていく弟を叱咤し諫め、自らはビジネスマンのように地味なシーツを着て、決して目立たないように派手な暮らしは慎み、日曜日には母とともに教会に出向くフランク。しかしその様子は、決して息を潜めて暮らしているのではなく、見事な求心力で飴と鞭を使い分け、親族たちの動向を冷徹に見回しながら、他の勢力を出し抜こうと虎視眈々の頭脳明晰さですが、決して冷淡ではありません。うちの夫が「デンゼルが演じているので、どうしても悪役には見えない」と言っていましたが、このキャスティングは作り手の意図でもあるようで、真の悪役は、のちの展開で用意されてありました。

対するリッチーは職業的正義感に溢れていて、危険を顧みず仕事に没頭。夜学で司法試験の勉強もするなど、刑事としては申し分なしかも知れませんが、ストレスのはけ口を女に求めて家庭は崩壊。息子の親権についての調停で妻(カーラ・グギーノ)が吐露する言葉は、如何に妻が平凡ということを喝望していたかが伺えます。その言葉が胸に突き刺さり、妻の言う通りの決まりごとで良いと謝るリッチーには、この仕事でしか自分の存在意義が確かめられない男の哀しさを感じます。

フランクとリッチーは、水と油のようで、本当はとても似ている気がします。仕事には忠実だが華やかな表舞台を避けたい。ワーカホリックのように仕事に夢中になり、足もとの家庭の綻びは省みない。そして本当はとても家族を愛している。部下や手下の心中を常に把握し、求心力があり、ヘッドとしての器がある、などなど。二人は言葉を交わし始めてすぐ、自分たちは同じタイプの人間だと感じたのではないでしょうか?

彼らの妻が似たような道を辿ったのは印象的です。自分たちの命が危険に晒され、しかしそれが夫の歯止めにはならないと感じた時、とても傷ついたでしょうね。フランクの妻は、プレゼントした毛皮を燃やした夫の心が、理解出来たでしょうか?

デンゼル、クロウ、両方とても好演でした。デンゼルは観客の目を引きやすいフランクを、実年齢より若々しく、かつ渋く貫禄を持って演じて、絶品の男ぶりでした。クロウは少し分が悪い役柄ながら、決して粗野ではなく知性も感じさせる熱血刑事ぶりで、こちらも堪能させてくれます。

ラストに向けてのサスペンスフルな展開は、アクション場面も交えてテンポよく進み、誰にでも納得出来るエンディングが用意してあり、脚本の練り方が上手いと思いました。

全編に70年代のブラックミュージックが流れ、当時の風俗やファッションがノスタルジックを誘うのが、息詰まる展開に、良い意味で息抜きになりました。黒人の利権を獲得するためのものが、結果安価に麻薬が手に入るため、底辺の黒人たちが蝕まれる様子を挿入したカットが秀逸。決してフランクの行いを正当化してはいません。

とにかく面白いです。アメリカの娯楽作は最近面白くないとお嘆きの御貴兄に、ぜひお勧め致します。


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