ケイケイの映画日記
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2007年09月22日(土) |
「オフサイド・ガールズ」 |
予告編がガーリーではない、お転婆な若い女の子の可愛らしさとユーモアがいっぱいで、これは楽しそうと思いましたが、見込み通り素朴で爽やかな良質の作品でした。
2005年のイランのテヘラン。来年のワールドカップの出場を賭けて、今まさに決勝戦が行われようとしています。国をあげて興奮する中、男装の女の子が一人。イランでは女性がスタジアムに入ることは許されず、そこかしこで警備の軍人が見張っています。スタジアムで一緒に応援したい少女たちの、あの手この手の奮闘が描かれます。
初め女性がスタジアムに入れないのは、男尊女卑の思想からくるものかと思っていました。しかしバスで可愛い男装の少女を見つけた男性は、「見逃してやれ」と言い、兵士たちはスタジアムで口汚い言葉で応援する男性たちから、女性を守るためと言います。なるほど、私はいささか誤解していた模様。女人禁制は、手荒い男性たちから女性を保護するという意味合いもあるようです。そう言えば全身をクルドで包むのも、男性をいたずらに刺激せず身を守るためというのも読んだ記憶が。確かに尼僧姿よりも、格段に色気ないっすよね。
次々男装がばれて一カ所に集められる少女たち。どこから見ても可愛いい女の子にしか見えない子から、劇中一番のイケメンに見える少女までが数人。そこは箸が転んでも笑うような年代です。高圧的な兵士たちを、次々困らせる姿がユーモラスで、本当に和やかに笑わせます。
この兵士たちにしても、元は田舎の純朴な男性です。トイレに行きたがる少女のため(男性用しかないのです)、必死でトイレの中に他の男性を入れないようにする兵隊さんは、まるでその子のお兄さんのようです。自分を困らせる少女たちなのにと、この男性らしい女性を守るナイトぶりに、私はちょっぴり感激しました。
自分の娘を連れ戻しに一人の父親が登場します。捕まった中には娘の友人が。「お前たちは大学で何を勉強しているんだ!」と怒る姿が印象的です。一生懸命働いて、娘の将来のためにお金を捻出している身としては、娘たちのはねっかえりぶりは怒り心頭ですよね。
でも「学ぶ」ということは、そういうことではないでしょうか?知識・教養を深め、見識が広がると、今自分の暮らしている環境の、様々な矛盾を感じるのだと思います。世の中に何故がいっぱい謎がいっぱいの彼女たち。男装でスタジアムに侵入も、抵抗の表れでしょう。
男子用トイレでもいいから使いたいと言ったり、自分も兵士になりたいと言う少女たちに、純朴で協議に忠実な兵士は、「テヘランの少女は悪魔に魂を売ったのか!」と嘆きます。いえいえ、悪魔に魂を売ったのではなく、自我自立の芽生えなのですよ。保護されるだけでは、息苦しさを覚え始めているのでしょう。私はそこに、若さと未来を感じるのです。
ラストにちょっと蛇足的な箇所がありますが、全体を会話とシチュエーションだけで十分楽しませてくれ、尚且つ少々虐げられているというイメージのあるイラン女性は案外強くて、少女たちに翻弄される兵士を描くことで、伝統的なイラン男性の男らしさと優しさも浮かび上がらせる、お見事な作品でした。これからイランもどんどん変貌していくのでしょうね。少女たちよ、大志を抱け!
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