ケイケイの映画日記
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2007年07月25日(水) |
「ハリウッドランド」 |
観たのは「不死鳥の騎士団」の前の、先週の木曜日でした。それなりに名の売れた人たちの出演ですが、地味な実力派が多いキャスティングのせいか、ひっそりと公開中です。ハリウッドの内幕ものとして、秀逸とまでは行きませんが、サスペンスタッチでなかなか面白く観ました。
1959年、テレビの「スーパーマン」で主役を演じていたジョージ・リーブス(ベン・アフレックス)が、ハリウッドの自宅で自殺します。息子の自殺を信じられない彼の母は、私立探偵のシモ(エイドリアン・ブロディ)に、捜査を依頼します。シモの捜査が進むにつれ、「スーパーマン」という当たり役に恵まれた故の、ジョージの苦悩が浮かび上がります。
ジョージは自殺なのか、婚約者に殺されたのか、不倫相手トニー(ダイアン・レイン)の夫(ボブ・ホスキンス)に殺されたのか?その時々のシモの心境の変化とともに、真相も藪の中へひた走ります。
私はクラーク・ケントに抜擢されたジョージは、さぞ喜色満面だったろうと想像していたのですが、彼はいやだったんですね。今でこそ仮面ライダー出身のオダギリジョーや、戦隊モノのイケメンヒーローがもてはやされていますが、子供だましのドラマの主役は、当時では本格派俳優への道を断たれたに近かったのでしょう。彼の焦燥とは裏腹に、子供たちから人気絶大になるにつれ、ますます葛藤が深まる様子が丁寧に描かれています。「スーパーマン」ショーの舞台裏で飲んだくれている様子など、情けなく不甲斐無いのですが、ジョージの気持もわかるのです。皆さん仰っていますが、演じるのがキャリアがジリ貧のアフレックスなんで、妙にジョージに同情してしまうのです。
シモだけが架空の人物でしょう。うらぶれた、でもちょっと女心もくすぐるシモを、ブロディが好演。妻子と別居し、妻には男の影も見え、愛人には心から寄り添うことはないシモ。そんな自分の境遇を、段々ジョージの苦悩に重ねて行く姿を丁寧に描き込んでいて、この辺が作品に深みを与えています。この人、鼻が高すぎて横顔になると気持ちが萎えるのですが、今回はそんなこともなく、胡散臭いけど根は善人の私立探偵の雰囲気をよく出して、すごく魅力的でした。フィリップ・マーローなんか似合うかもなぁ。
年上の愛人役のダイアン・レインが皺々でびっくり!彼女はまだ40そこそこですから、あの皺はメイクかな?「運命の女」でも、間男の浮気相手をぼこぼこにしていましたが、今回も似たような嫉妬を燃やします。演じる年齢は、「華麗なる恋の舞台で」でのジュリアと同じくらいでしょうが、堂々と若いツバメに一泡吹かせるジュリアと違い、セレブでも素人の女性のトニーの、年齢からくる遠慮やひがみなどを表しているようでした。
ジョージが自分の全財産を、自分に関係する女たちの中で一番お金持ちだろトニーに譲るのが印象的。食いものとまではいかないでしょうが、ジョージの母も、息子が有名になって金の生る木だと思っていると、ジョージには思えたのでしょう。婚約者はもちろん。少しでもショービズの世界で成功すると、こういう孤独が待ち受けているのですね。この辺も印象的でした。
善良なジョージのマネージャーは、身の丈に合った自分で満足すれば良かったのだと、と語ります。でもそれではハリウッドで役者をする意味がないと私は思います。彼の死は、こうやって映画にもなり、ある種伝説なったのが皮肉です。50年代のハリウッドの裏側を、雰囲気満点で描いている作品です。こんなのを観ると、現代の人は精神的にタフになったのだなぁと思います。それとも鈍感になったんでしょうか?
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