ケイケイの映画日記
目次過去未来


2007年07月27日(金) 「レッスン!」



きゃー、素敵〜!素晴らしい!
最初は愛しのバンちゃん(アントニオ・バンデラス)がダンス教師役として主演ということで、ダンディなバンちゃんさえ観られたら、それで満足しようと思っていました。だがしかし!内容も青春モノとして爽やかで、すんごく楽しめました。少々説明不足の感もありますが、今回珍しくエレガントで知的なバンちゃんに免じて、全て許す!

ニューヨークのスラム街のとある高校。生徒の更生にやっきになっている校長(アルフレ・ウッダート)の元に、ダンス教師にピエール・デュレイン(アントニオ・バンデラス)が訪れます。社交ダンスを通じて、彼らの更生に役立ちたいとの申し入れに、札付きの生徒ばかりを集めた居残り組の監督を、誰もしたがらないことから、彼らを教えてくれるなら、との条件で、校長はデュレインを受け入れます。

とにかく練習を含めて数々のダンスシーンが素晴らしい!社交ダンスというと、上流社会での社交界がまず頭に浮かび、優雅なワルツを思い起こす方も多いと思います。自己流のヒップホップダンスに夢中の彼らは、それは上手にリズミカルに踊り、相入れるものは何もないと拒否します。しかし情熱的なタンゴやサルサも立派な社交ダンス。デュレインと彼の教室のモーガン(カティア・ヴァーシラス)の、アダルトなそして優雅で情熱的なタンゴを見せられ、社交ダンスへの彼らの評価が一変します。ちょっと札付きにしては素直過ぎるけど、元々彼らは踊りが大好き。見たこともなかった世界に飛び込みたい気持は、充分に伝わります。それほど二人のタンゴは、素人の私には絶品に見えました。

大会までの素人の生徒たちの道のりも、山あり谷ありですが、予定調和でどうなるのかな?のスリルはありません。しかし数々のエピソードは盛り上げるのには充分でした。そして大会でのダンスは圧巻!ラストに生徒が魅せるタンゴは見たこともないもので、本当に終わってしまうのが残念だったほど。曲も誰もが知っている「ラ・クンパルシータ」だったのが、大衆目線で生徒たちに合っていました。

社交ダンスとは男性がリードするものだとばかり思っていましたが、デュレインによれば、「男性は提案するのみ。それを受け入れるかどうかは、女性次第。決して男性の下に女性を置くものではない」そう。うんうん、なかなかフェムニズムですな。そして自分を信じパートナーを信頼し、お互い敬意を払うのが、上手く踊る秘訣だとか。礼節を重んじ自分の尊厳を守り、相手に敬意を払える子は、悪い道には走らないときっぱり言い切るデュレイン。まるで日本の武道のような社交ダンスの理念に、そんなことは「シャル・ウィ・ダンス」も教えてくれなかったわ、と素直に感心しました。

デュレインが彼らを指導したいと思ったきっかけは、居残り組のロック(ルブ・ブラウン)の野蛮な行為を見たからでしょう。それくらいの事では、ちょいとこの子たちにのめり込み過ぎでは?と、感じてしまいます。ピエール・デュレインは実は実在の人物で、かのブラック・プールでも4度優勝したというお方。実際に小学校で社交ダンスを教えて、生徒たちの情操教育に役立てている人です。この作品は実在の人物にインスパイアされて生まれたフィクションなのですが、なまじ本当の名前を借りてしまったため、映画的にいくらでも膨らませて描けたはずの、デュレインの背景について説明不足になり、「社交ダンスは私の命」だけで生徒たちへの無償の愛情を表わすのは、ちょっと辛い気がします。

それを補うのが、バンデラスです。実際のデュレインはアイルランド系とフランス系の混血です。映画のデュレインはスペイン系とフランス系の混血。五ヶ国語は話せるが全てスペイン訛り。生徒たちは白人・黒人・アジア系。そしてヒスパニッシュ。ヒスパニッシュの言語はスペイン語です。バンデラスのエレガントな紳士だけど、上流のエリートとは一味違う温かみは、目標になる大人が周りにいない彼らには、格好のお手本です。「成りたい自分になれるかも?」と、夢や希望を持ち難い、今の境遇から脱したい気持ちにさせたのだと思います。

この子たちは、本当は今のままじゃダメなんだと思っています。素直に居残り組に残っているのは、それが卒業の条件だから。ほとんどの子は万引きやかっぱらいくらいで、そんなにひどいか?と思う子ばかりですが、本当に更生し難い子たちは、とっくに学校を辞めているんでしょうね。なので簡単にデュレインの手練手管にはまってしまう可愛さも、納得でした。監督のリズ・フリードランダーは、女性らしい細やかな表現で、デュレインに負けず劣らず子供たちを愛して撮っていて、とても好感が持てました。

ハイティーンが主役なので、あちこち恋いのさや当てがあります。格差恋あり、甘酸っぱい恋あり、三角関係あり、ロミオとジュリエット、いやトニーとマリア(「ウェストサイド物語」)かな?の恋あり。そのどれもが微笑ましくみずみずしいです。こういうのを観ると、やっぱり若いっていいなぁ。

今回バンちゃんは情熱の全てはダンスに捧げているので、フェロモンは画像のタンゴシーンのみで、他は封印。ラテンの名残を優雅に女性をエスコートする場面に残し、若い生徒たちを引き立てる受けの演技です。まぁバンちゃんたら、頭も良かったのね!(←監督と脚本のおかげ)でも本来のバンデラスの魅力は、こういう誠実で真面目な一面を持つ人だと、観る人に感じさせるところだと思うんです、私は。だからマドンナとか、現嫁のメラニー・グリフィスとかダリル・ハンナとか、百戦錬磨の女優たちがモーションかけるのよね。きちんと仕事をこなし、一見派手だが根は真面目で家庭的、おまけにエッチも強そうなんて、夫としては申し分なしではございませんか。

校長は、「この子たちは明日の糧を得るのに精いっぱいなのよ。ダンスを教えても何にもならないわ」と、当初語ります。黒人で女性でもある校長の、それは生きていきた哲学かも知れません。しかし母親は自宅で売春、その隣で幼い弟たちの面倒を看るといういう、劣悪な環境にいるラレッタ(ヤヤ・ダコスタ)が、屈辱的な行為に傷ついて、それを癒しに来た場所は、ダンスのレッスンをする居残り部屋でした。そこで無心に踊り平静な心を取り戻そうとするラレッタ。人はパンのみでは干からびてしまうのですね。どんな環境でも、心を潤わすバラは必要なのです。

情操を養うのが大切なのは、大人もいっしょ。劇場には、もしかしたら社交ダンスを習っていらっしゃるのでしょうか、年配のご婦人がいっぱい。鑑賞後くちぐちに、「本当に観て良かったわね」と仰る姿は、生徒たちと同じくらい輝いていました。この作品を観て良かったと言える感受性を、私も死ぬまで持ち続けていられたら嬉しいです。


ケイケイ |MAILHomePage