ケイケイの映画日記
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2007年05月06日(日) 「仁義なき戦い」5部作(レンタルビデオ)

道頓堀東映の閉館上映に触発されてしまい、他の「仁義なき戦い」「代理戦争」「頂上作戦」「完結篇」と、このGW中にすべて観ました。何を今更なんですが、続けて観て圧倒的な面白さと躍動感に感嘆。私にはほとんど初見と言っても良い作品ですし、任侠ものはわからないので、このシリーズを知らない方への入門的な感想になるかと思います。1と2は、ところどころテレビで観たシーンが記憶に残っていましたが、三作目以降は全くの初見です。

製作されたのは1973年から1974年。驚くことに一年半の間に5作作られています。この時代は大人気を博した伝統的なやくざ社会を描いた、高倉健や鶴田浩二、藤純子の仁侠映画の人気に陰りがみえ始めた頃だったそうです。元は網走刑務所に受刑中だった広能のモデルとなった美能幸三が書いた手記が、作家飯干晃一の手に渡り、飯干の手によってデフォルメされたものが週刊誌に掲載されたものが原作です。

普通シリーズ物と言えば、作られるほどにクオリティが下がるもんですが、この作品はそれが全くありません。時代は終戦直後の混乱期から公開当時の頃までの約25年強が描かれており、広島市と呉市という一地方都市のやくざの勢力争いを描きつつ、日本の戦後史とも言える作りになっています。

義理人情に厚く、売られたケンカは負けるとわかっていても買うのがやくざの美学と思っていただろう当時の人々には、この作品の登場人物は強烈だったと思います。二枚舌三枚舌は当たり前、ずるくてせこくて親分子分であろうが、自分の利益になるなら売ってしまう強烈さ。様式美に彩られた昔のやくざではなく、現代やくざの世界を野次馬的に覗いてみたかった観客は、あまりに自分たちの生きる世界と、本質的に似通っていることに面食らったはずです。生き残るには政治力が必要なのです。違うのは極道もんならではの、血なまぐさい暴力事件や殺人事件が起こることです。そして仁義なく生きるだけではなく、誰と手を組めば将来芽があるか、ここは打って出るより我慢のしどころだという場面も出てきて、意外とも言える冷静さと賢さも描いています。

そんな中、シリーズを通じて主役を張るのは広能昌三役の菅原文太です。狡猾さのない一本気な気の強い性格、筋は通すが曲がったこと汚いことには、例え相手が権力者でも一歩も引かない頑固さです。全編通じて一向に上がらない、広能のやくざとしてのコミュニュケーションスキルの低さは、男らしさに通じて爽快です。常に弱小でありながら己の城の広能組を持ち、自分らしく行き続けた広能に、宮仕えの辛さを味わう当時のサラリーマン諸氏が自分を重ねて、男としての理想を見ていたことは想像に難くありません。描かれる25年のうち半分以上ムショ暮らしだった彼だけが、子分に寝首をかかれることもなく、兄弟分に裏切れることもなかった人徳が印象深いです。

反対に小ざかしくてずるくてせこい、と三拍子揃った親分が山森役金子信雄。何度も、はよ殺されんかい!と思いましたが、しぶとく最後まで生き残ります。観ていて腹立たしいのですが、その食えない親父ぶりが絶妙にチャーミング。打本役加藤武の仁侠映画史上最強(いや最弱かな?)の情けなさぶりも楽しかったし、冷静で本当の意味で賢く、自分の感情や立場より組の存続を第一に考えた武田役の小林旭も印象深いです。中間管理職の悲、哀を彼に観る人も多かったと思います。血気盛んだった登場人物たちの、枯れていく心の変遷もきちんと描かれています。

ゾンビ復活と言われるように、あの役者この役者が、えっ?前回死んでるやんの俳優が、別の役、それも主要人物で復活。描き分けに困ってか、眉毛をそったり(梅宮辰夫)、ドーランで顔をドス黒くしたり(結核のため)、やっぱり眉毛をそって強面のキレタキャラにしたり(松方弘樹)と、一回でも観るのを忘れると大変なことに。なのできちんと登場時には、字幕で「○○組組員・だれそれ」と字幕で出てきて、大変親切です。

東映の大部屋俳優がピラニア軍団として世に出てきたのは、有名な話ですが、室田日出男、川谷拓三、志賀勝、八名信夫、小林稔次などの若かりし頃の姿を存分に観られるのも魅力。このシリーズで初めてポスターに名前が載った川谷拓三のような人もおり、初めて脚光を浴びたこのシリーズを足掛かりに、世に出た俳優がたくさんのシリーズでもあります。

公開当時は男性にだけ受け入れられたシリーズかと思いますが、男性と女性の精神的な垣根も低くなっている現在、女性にも受けるシリーズかと思います。私のように観るタイミングがずれて未見の方も多いと思いますが、この感想文を読んで面白そうだと思われた方は、是非DVDやレンタルビデオなどでご覧になって下さい。しびれるような台詞も満載、座右の名が飛び出すかもです。


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