ケイケイの映画日記
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すみません、ごめんなさい、全然ダメでした。ホ・ジノ監督は「八月のクリスマス」と「春の日は過ぎ行く」の二つ観て、一勝一大敗の監督。「春の日〜」の演出が生理的に合わず、良いという感想を読んでも「私はそこがいややねん」と思ってしまう始末でした。それでも観ようと思ったのは、お互いの配偶者が不倫をして事故で意識不明の重体、その看病をしているうち、二人の間には愛が芽生え・・・といった、とっても成瀬己喜男な題材だったから。ホ監督の演出が「春の日〜」のイライラ感ではなく、「八クリ」の慎み深い情感に感じるかもと期待していましたが、私には「春の日〜」以上のしんどい作品でした。今回ネタばれです。
コンサート会場の照明ディレクター・インス(ペ・ヨンジュン)は、仕事中に妻の自動車事故の連絡を受け、ソウルから遠く離れたある町まで駆けつけます。しかし妻は会社には休暇届を出し、インスには出張と偽っての不倫旅行で起こした事故だったのです。病院には不倫相手の妻ソヨン(ソン・イェジン)が先に来ていました。意識不明の重体の二人の世話のため、同じホテルに泊まりこんで世話をするうち、二人の間には微妙な感情が芽生え始めます。
ホ・ジノはセリフやはっきりとした背景を説明せず、観客に登場人物の心を 理解してもらうのを委ねる手法の人です。しかし私はリアリティ至上主義ではありませんが、この作品でははぶきすぎ。まず昔とはだいぶ韓国の家庭事情が違うでしょうが、例え沖縄の人が北海道で事故を起こすような距離であっても、夫婦二組に合計八人の親がいるはずなのに、見舞うのがインスの妻の父だけとは不自然過ぎ。これは韓国に限らず、日本の方でもご理解いただけると思います。
妻の不貞をインスは義父には伝えません。これは優しさや思慮深さとは違い、このあと妻とどういう関係に転ぶかわからないインスの優柔不断さに私は思えました。それに何より「お家」大事の韓国人が、どんな形にしろ意識不明の大怪我をした嫁のことを、自分の母に知らせないのは不自然です。まぁそういうシーンを挿入すると、「こんな嫁、のしつけて実家に返せ!」となるので、作風に合わなかったかもしれませんが、あまりに辻褄が合いません。
親が来ないのだから、兄弟も来ない。4人とも一人っ子?そんなアホな。私の妹がソヨンの立場なら、どんな遠くでも妹の心の支えになればと、飛んで行きます。その割には他人のインスの部下が見舞いに来て、「俺が変わりに事故に合えば良かった」みたいにセリフを言って、ウジウジグタグタヨン様は絡む。しかし泣いて吐露する割には、妻への愛憎がセリフのみで語られるだけで(ベッドの妻に「死ねば良かったんだ」、二人が意識を取り戻したらというソヨンの問いに「復讐しましょう」など)、観客の心に入り込む描写が希薄です。
例えばインスがICUから個室に移った妻の裸体を拭くシーンがありますが、上半身の背中だけを見せ、無表情でちょっと腕を拭くだけでは、私にはインスの心が見えません。このシーン前にインスは妻が不倫相手とベッドでいちゃついているビデオを見ています。夫婦にはそれが一番ではありませんが、セックスも大切なことです。この体は他の男と寝た不潔な体だという嫌悪感、それと同時に自分も愛した体なのだという情がない交ぜで描かれなければ、意味がありません。そう思わすには時間も短いしヨン様も演技不足でした。
そうやって葛藤が希薄なまま、二人は打ち解けたと思ったらすぐベッドイン。この時のシーンは二人とも戸惑いが感じられて良かったですが、その戸惑いは、翌日にも引き継がれるはずですが、こういう異常な状況下で結ばれた男女の複雑で深い心理描写はありません。特に躾の行き届いたお嬢さん育ちを思わせるソヨンは、もっと夫ある身で他の男に抱かれたことに、ある種の喜びと後悔の入り混じる、複雑な女心があっても良さそうですがそれもなし。事故で対向車の相手が死んだことは、二人には直接関係ありませんが、その事実の上の関係であることにも、この人たちは一切頓着しません。悪いと思いながらとか、やはりいけないことだとか、そういう人の持つ倫理観との葛藤が観るものの共感を呼ぶのだと思うのですが。
極めつけはインスの妻が意識を取り戻し、ソヨンの夫が亡くなってしまう際のお通夜に、出席者が寝ているおばあさんだけなこと。いくら家から遠く病院内であげたかも知れませんが、ありえません。夜通し親兄弟から親戚縁者まで賑わうものです。ソヨンの夫が不貞をしての大事故を起こした家の恥晒し者だから誰も行かないというのなら、尚更一度も夫の親が出てこないのは不自然です。
結ばれてはいけない状況下であっても、形は不倫であっても、インスとソヨンは人からのそしりは少ない状況で、スタート地点から観客の同情を呼びます。インスの妻のふしだらさをビデオで強調、「煙草を頂戴」と病人が夫に言う様子など、意識して堕落した妻に見せています。彼らの夫と妻は学生時代からの関係だとわかりますが、そのことは「ハッピーエンド」でも描かれています。この作品ではこんな情けない夫なら妻も浮気がしたかろうと共感も出来、その情けない夫を演じるチェ・ミンシクの絶妙の演技が、情けなさの中のうらぶれた哀愁を感じさせ、観客に同情心を駆り立てましたが、インスは妻に不倫を問うこともなく、何事もなかったように接っし、あくまで優しく理解のある夫です。でも私には優しさではなく優柔不断で女々しい男に見えました。
ラストはもしかしたら、インスは妻と別れたのかもしれません。荷造りしている場面が挿入されていました。ラストは晴れて二人はを予感させますが、これってハッピーエンド?。切なさが大幅に減ります。やはり不倫は結ばれなかったり、結ばれても何もかも捨てて、石持て追われてもあなたと二人だけ、という状況で終わらねば共感出来ません。やることはやってしまっているので、結局は自分たちの配偶者と同じ穴のムジナではないでしょうか?メリル・ストリープが「恋に落ちて」でデ・ニーロに言ってたでしょう?「セックスしてどうなるの?後に別れが待っているだけよ。」この作風なら、エッチなしの方が心に残ったと思います。
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