ケイケイの映画日記
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2005年09月22日(木) |
「丹下左膳余話 百万両の壺」 |
山中貞雄の有名なこの作品、ずっと観たいと熱望していて、今日九条のヌーヴォのモーニングで観て来ました。ヌーヴォは本当に久しぶりで、カップホルダーのついたゆったりした座席に変わり、ロビーには自動販売機も。家に帰る途中立ち寄ったスーパーで友人に出くわし「九条まで(家から45分ほど)70年前の邦画観に行っててん。」というと、信じられへんという表情をされました。まっ、当たり前の反応かと。でもヌーヴォには観に行くのが当たり前の人ばっかりみたいで、平日にしては盛況でした。
江戸時代のとある藩。先祖伝来の薄汚いこけ猿の壺が、実は100万両のありかの秘密が隠されていることが判明します。しかしこの壺を藩主は婿養子に行った弟源三郎(沢村国太郎)に、そうとは知らず払い下げたから大変。奥方萩野はこれをクズ屋に売ってしまいます。ひょんなことからその壺を手にした七兵衛が殺され、多少縁のあった矢場の女将お藤(喜代三)と、用心棒件愛人の浪人・丹下左膳(大河内伝次郎)が、遺児のちょび安の面倒をみる羽目となります。そこから壺を探す藩主と源三郎が入り乱れ、てんやわんやの騒動が始まります。
監督の山中貞雄は、この作品の他「河内山宗春」「人情紙風船」の三作品だけを残し、わずか28歳の若さで戦病死した伝説の監督です。「人情紙風船」の方は以前ケーブルで観て、全く古さを感じさせない心理描写に、これは後生に語り継がれるのは当たり前だと感嘆しました。
この作品は、一言で言えばドタバタ喜劇なのですが、これがもう面白い!左膳とお藤のニヤニヤして観てしまう口喧嘩。二人が口とは裏腹、情け深い愛情をちょび安に与える人情。部屋住みから婿養子へと気の使いっぱなしの人生のはずが、気楽でのん気な様がユーモラスな源三郎、そして活気に溢れた江戸の町や人々の様子など、最後の最後まで観客に大サービスです。昔の人はこの作品を観て大笑いして、明日への活力をもらっていたのでしょう。
笑うだけではなく、七兵衛が刺される時にその様子を映さず、犬の遠吠えで左膳に知らせる描写にはうま〜い!と感心。遠眼鏡で七兵衛の浮気を奥方が知る時のおかしさ、お金の工面に困ってお藤とちょび安がしょんぼり縁側に座るショットの絶妙さ、家出するチョビ安を知らせるのは焦げたお餅、ちょび安の敵を討つ左膳の描写など、これが軽演劇なら「イヨッ!」と声をかけたくなるシーンの連続です。
沢村国太郎は加東大介に似てるなぁと思っていたら、お兄さんなのですね。長門裕之・津川雅彦のお父さんです。大河内伝次郎は、私が子供の頃「オヨヨ、オヨオヨ」と、セリフが不明瞭な様子を盛んに物真似されていましたが、いかつくヘソ曲がりだけど根は優しい男っぷりが素敵でした。身の軽さにも驚きでした。この作品では、戦後GHQにカットされた殺陣シーンが20秒ほど復活して挿入されています。物足りなかったのは、もっとチャンバラシーンがあると思っていたので、それくらいかな?
確か去年トヨエツでリメイクされているはずです。オリジナルを観もせず、こんな名高い作品をリメイクするなんてと思っていましたが、この内容なら面白く出来ているかも。こちらも観たいです。若い方は新作中心に観ていらっしゃると思いますが、昔々のこの名作に触れて、日本映画を誇りに思って下さい。
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