♀つきなみ♀日記
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何年前になるだろう。
ちょっとした御縁のあった観桜の宴のお手伝いをした。
祖母に誂えてもらった着物を身つけた、 今は無い、千鳥ヶ淵のホテルで催されたその宴は 私にとって、元気な祖母と、最後の外出でもあった。
その年は暖かい日が続いてしまって、宴の日には すでに花は散り始め、水面には花筏がいくつも浮かんでいた。
時折ざっと吹く風に形を変えながら、 いつしか、風下の岸に花びらは寄り添う。
水面に茜がさす頃宴は終わり 待ち合わせをしていた祖母と 遊歩道を少し歩いた。
祖母は何度か立ち止まって、すこし離れて私を見る。
「なにしてんの?」 と私が尋ねると 「並んで歩いてるとあんたが見えないからねぇ」 と笑う。
「何言ってんの。私なんかいつも見てるじゃない」 少し照れて、私は応える。
ひらひらひらひら、花びらは舞って 灯りだした町の明りが水面に映る。
新月だったその日の空は、星だけが瞬き 淡い色の花びらは、それでもはっきり見えていた。
笑う祖母の姿は、思っていたより小さく その姿は、花吹雪に霞み 次の年は、病院の窓から桜を見、 その次の年に、祖母は逝った。
新しき 月を待ちしや 花筏 流るを止めども 色や褪せるに
***************************** 思いの深い桜の日の記憶について書いた 2000年3月某日の別日記を一部改稿致しました。
テキスト庵
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